16-ⅩⅧ ~やはり搦め手。搦め手はすべてを解決する。~
革命のメンバーに、中村は参加しなくなってしまった。それどころか、姿すら見せない。どうにも、寮の自室に引きこもってしまっているらしい。クラスの面々に、中村の様子について聞こうとしたのだが。
「……知らない」
「知らねえよ」
「知らないわよ」
皆、塩対応である。恐らくは、ゼロの真意が漏れたのだと、
(……中村の奴が吹聴でもしたのかね)
彼の真意である生徒会長の学園からの追放は、いうなれば自分たちは学園の犠牲になる前提だ。全員を救うというのなら、それこそ学園そのものを相手どらなければならない。そんな選択肢は、ここしか居場所のない生徒たちにはなかった。
(……ま、気持ちはわからんでもないけどな)
蓮は
それがどれだけ幸運なことかは、そうでない奴を見てきたのでよくわかった。綴編の不良どもは揃いも揃ってバカでワルでどうしようもないが、そんな奴らでも安心していられるのが、綴編高校というわけだ。
不良が異能者に置き換わっただけ。ここの異能者も、居場所がなくなるのは困るのだ。
――――――とはいえ、ここが居場所なのは、あくまでこの学園の異能者たちの話。蓮には、全く関係ない。それこそ彼には実家もあるし、綴編高校もあるし、なんだったら安里探偵事務所まである。
蓮のやることは変わらない。革命で上位クラスを叩き潰し、
「……
「おう」
ふらふらと寮内を歩いていたら、談話室にたどり着く。ほんの10日くらいしか一緒にいないが、なんだかとても寂しそうにポツンと座っているゼロの隣に、蓮はドカッと座った。
「宮本は?」
「さあ。女子だからな。詳しくはわかんねえ」
「ああ、そう」
蓮は冷蔵庫からコーラを取り出すと、ごくごくと飲みだす。ゼロの手元には、コップ一杯のジンジャーエールがあった。
「……紅羽は、革命は……」
「俺は別に目的があるからな。それが終わるまでは付き合ってやるよ」
「……悪いな」
「いいよ別に」
ペットボトルのコーラを一息で飲み干した蓮は、口を袖で拭うと、そのまま談話室を出ようとする。
「待ってくれ、紅羽」
「何だよ?」
「……俺は、間違っているか?」
ゼロの言葉に、蓮はガシガシと自分の頭を掻く。
「知らね。俺、頭悪いしな」
それだけ言い捨てると、蓮は談話室から出て行った。
*****
そして、次の革命――――――クラス対抗決闘の日。
その日の相手は、3―Fクラス。クラス3では下層といえども、ゼロや宮本では手に余る相手。
だが、蓮にとっては相手にもならない。
いつも通りFクラスの異能者たちを、バッタバッタとなぎ倒す。
障壁を作る異能は腕力だけで壁を破壊し。
自爆特攻してくる異能は自爆する前にはたき落し。
日本刀にオーラを纏わせて斬りかかってきた異能者は、「高校生が武器持ってんじゃねーよ」と刀ごとぶっ飛ばした。なお、彼の彼女が常に日本刀を携帯していることは言ってはいけないし、何なら彼は知らない。
そんな風にFクラスの精鋭をことごとく打ち倒し、蓮は敵の本丸である3―Fの教室へとたどり着いた。ここにいる代表の生徒を倒せば、今回の決闘も蓮たちの勝利である。彼の背後には、30人ほどの異能者の屍(死んでない)が倒れ伏していた。
「……さて、やるか」
首をゴキゴキと鳴らし、蓮は勢いよくドアを開ける。
そこには、いつも通りクラスの代表が待ち構えて――――――。
「……は?」
蓮の目の前に飛び込んできたのは、予想外が過ぎる光景だった。
「……あ……あう……」
教室の教壇の上、そこに一人の女子生徒が横たわっていた。だが、普通の状態ではない。着ていたはずの制服が、大きくはだけている。
女子生徒の豊かな胸は露になり、目に見える部分には大きな痣がある。殴られたような、青痣だ。
そして何より、周囲に落ちている、丸められた大量のティッシュ。
何が起こったのか、蓮にははっきりわかる。
「……チッ!」
そして、舌打ちした。
それと同時に、蓮の背後から、フラッシュが瞬く。蓮は微動だにせず、静かに、怒気を込めながら振り向いた。
背後には、大量の生徒たち。そしてそれを押しのけるように、白い制服を着た生徒たちが早足でやってくる。
腕章には、「風紀委員」という文字が書かれていた。
「紅羽蓮! 暴漢容疑で拘束する! おとなしくお縄につけ!」
各々武器を構える風紀委員を、蓮はじろりと睨む。びくりと震えるが、それでも武器は取り下げない。戦う勇気は、あるってことか。大量の屍(死んでない)を見ているだろうに。
蓮は、フンと鼻を鳴らして、おとなしく両手を上げる。
嵌められた。蓮はそう思って、ため息をついた。
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