16-ⅩⅦ ~革命のヒビ割れ~

「……生徒会長を、学園から追い出す……?」

「……ああ」


 伽藍洞がらんどう是魯ぜろの語った革命の真意に、革命のメンバーたちは押し黙ってしまった。


「……ただ、信じてくれ。俺が革命を目指したのは、本当に1―Gの待遇を改善したかった! あんな人間以下の扱いが3年間も続くなんて、間違ってる!」


 それに、これは自分たちだけの問題ではない。これから彩湖さいこ学園に入ってくる、未来の1―G生徒にも関わってくる。

 自分たちのような思いを、後から入ってくる者たちにはさせたくない。


「それは、紛れもない俺の本音だ!」

「……でも、もし生徒会長を倒して、学園から追い出すとして……その後、伽藍洞くんは、どうするんだ?」

「それは……!」


 中村の言葉に、ゼロは詰まった。


「……俺は……」

「逃げ出すつもりだったのか? 僕たちを置いて」

「ち、違う! 俺は……!」

「違わないだろ! この学園が危ないってわかってるんだったら、逃げ出すなんてのは当たり前じゃないか!」


 中村の目には、涙が浮かんでいた。


「最初から利用するつもりだったんだろ!? 幼馴染を助けるために、僕たちを使い捨ての駒にするつもりだったんだろ!」

「違う、中村! 違うんだ! 俺は、本当にお前らを……!」

「違わないじゃないか!」

「……いや、違うな」


 激高する中村に対し、蓮は呟いた。中村は彼を睨むが、じろりと見返す蓮の視線に、すぐに視線を逸らしてしまう。


「……お前らじゃ、使。そんなの、わかってたはずだ」


 革命の最大の壁であろう生徒会長。その正体を知っていたのなら、異能だって知っているはず。

 そして相対した蓮も、その強さはなんとなくわかった。蓮にとっては取るに足らない相手だが、他の面々にとっては、相手どること自体が難しいことも。正直、同じ学生でこんなに差があるものかと思ってしまう。……自分が言えたことではないが。


「……っ!!」


 それに対し、中村は口を紡いで、何も言い返せない。そのまま立ち上がり、寮の談話室を出て行ってしまった。


「……行っちまった。お前はどうすんだ、宮本」

「……私は、続けるわ。今の話を聞いたところで、私一人じゃ、どうにもできないしね」

「……すまん」

『まあ、遅かれ早かれ生徒会長さんと接触した時点で、この問題には触れなければならなかったでしょうし。仕方ないとは思いますよ?』


 画面の向こうで安里はフォローするが、ゼロと宮本の表情は暗いままだった。


「……ともかく、次の相手は3―Gクラスになる。同じGでも、クラス3じゃ格が違う。気を引き締めていこう」

「……そうだな」

「でも、結局紅羽くん頼りになりそうね」


 そうしてこれ以上の打ち合わせは、何の意味も持たない。安里とのビデオ通話を切ると、3人はそれぞれ、自分の部屋へと戻っていった。


 そして、次の3―Gとの戦い。


 やはりというか、結局蓮が1人で蹂躙して終わった。


*****


「――――――圧倒的だったわね。紅羽あかばれんくん」


 3―Gの生徒たちが蓮に無双ゲーのザコ敵のごとく吹き飛ばされていく様を、湯木渡ミチルは生徒会室のモニターから観戦していた。

 末席とはいえ、彼らも彩湖学園最高峰エリートの異能を持つクラス3に所属していることは間違いない。それが、まさに手も足も出ないとは。


「会長、どう見ます?」

「そうね、彼のESP……確か、『肉体強化』よね? 何か、特殊な条件下じゃないと発動しないとか、ありそうね。じゃなきゃ、あれで1―Gはおかしいわ」


 生徒会室には合計で4人。会長の湯木渡ゆきわたりミチル、副会長の天竜てんりゅうライカ。そして、「書記」「会計」の腕章を着けた女子が、2人いる。


「そうですね。……3―Gの代表、米良めら涯阿がいあの炎のESPは、我々生徒会でも警戒を怠ることはできません。それを……」


 モニターの中で蓮は、飛んでくる巨大な炎の玉を、パンチ一発で吹き飛ばしている。そしてそのまま、米良めら涯阿がいあは太ももを蹴られて撃沈。降参を宣言していた。


「……このままでは、本当にここまで昇りつめてくる可能性がありますね」

「理事長はなんて言っているのかしら?」

「『彼らも行けるところまで行って終わりだろうから、思う存分やらせると良い。生徒の自主性に任せる』と」

「そう……」


 書記からの答えに、ミチルはため息をついた。ここ最近、理事長であるチャールズの動きが活発化していて、なかなか直接顔を合わせて相談する、ということができていない。特にこれだけ大規模になってきた革命を、どうするか。是非とも相談したかったのだが――――――。


「……いないなら、仕方ないわね。次の3―Fクラスに、発破をかけておかないと。それと――――――」

「革命そのものを封じる手段、必要ですね……」

「その辺も、策を弄しておきたいわ。悪いけど、今日は残業――――――」


 ミチルがそう言いかけた時、生徒会室のドアをノックする音がした。


「……どうぞ?」


 ミチルが呼びかけ、ドアが開く。その瞬間、生徒会役員たちの顔が、一気に驚愕に変わった。


「……貴方は――――――!?」


 そこにいた人物は、ミチルたちが驚くしかない人物だったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る