16-ⅩⅥ ~彩湖の闇・ミチルの闇~
「……この
『まあ、うん、そうですね』
ゼロは仰々しく言ったが、蓮も、安里も、そんなことはわかりきっている。そもそも1―Gの人格否定の時点でろくな学校ではないし、何だったら才我がこの学校に来ている経緯を知る身としては、この学校に黒い闇があろうことは間違いなかった。
『そりゃそうですよ、だって、そうじゃなかったら
そして、さらに言えば「記憶を消す」という強硬手段を取ることもいざとなったら
「……ミチルの奴は、彩湖学園から推薦の手紙が来た時、家族どころか俺たちにまで報告してきたからな。そうする必要はなかったんだよ」
当時中学で孤高の立ち位置にいた彼女は、自らの力を求められることに深い喜びを感じていた。「自分が必要とされている」「自分の力を求める人がいる」と、興奮状態で話していたことを、ゼロは覚えている。
「――――――この異能学園というところでしっかり訓練を積めば、将来は私の異能を人のために役立てることもできる! この進学は、絶対必要なんだ!」
「……そうは言ってもお前……こんなの、絶対胡散臭いじゃないか……」
「心配ない! もし騙されているようなら、自力で帰ってくるから!」
そう言って、ミチルは彩湖学園へと旅立っていった。――――――それから半年ほど、ミチルからの連絡は全く来なくなってしまったのだ。
「ゼロくん、ミチルから何か連絡来てないかい?」
彼女の両親からそう問われたことがすべてのきっかけだった。当時地元の高校に進学していたゼロは、てっきりミチルは両親には連絡しているものだと思っていた。当然、ゼロに連絡など、来ているはずもなかった。
急に不安になったのは、その時だ。中学時代、孤高だったミチルは、必要以上にクラスメイトの問題に首を突っ込み始めた。
それが一つ、大きな事件になったことがある。クラスメイトの女子がカツアゲに遭ったという暴走族を、ミチルが一人で叩き潰したのだ。
中学時代ほとんど口を利かなかったゼロだが、この時ばかりは口を出さないわけにはいかなかった。
「お前、何考えてんだ!?」
「何って、困っているから助けてほしい、って頼まれたんだ。クラスメイトとして、協力するのは当然だろ?」
「バカ、違う!」
当時から少々柄が悪くなっていたゼロは、その時知っていたのだ。
ミチルが潰した暴走族に、そのクラスメイトの彼氏がいたことを。そして、その彼氏が、他校の女子生徒に手を出していたことを。
そもそもカツアゲなんてされてもいなかったのだ。ただの浮気の腹いせとして、ミチルはクラスメイトに利用されたに過ぎない。
「……そうなのか? 信じられないな」
「信じられなくてもそうなんだよ!」
結局、ミチルはその話を信じ、一応の解決はした。だが、そこからだ。ミチルが、自分の異能を人のために正しく使うことにこだわり始めたのは。
******
「……だから、彩湖学園の謳い文句は、アイツにとって渡りに船だった」
「……確かに、話だけ聞いてりゃそうだわな」
ゼロの話を聞いていた蓮は、静かに頷いた。
『「大いなる力には、大いなる責任が伴う」。有名なセリフですが、僕はちょっと違うと思ってるんです。アレ、要するに力のない人が助けてほしいから言ってるだけなんですよね』
画面の向こうで、安里はにこりと笑った。
『力なんて、持ってる人が好きなように使えばいいんですよ。その人のものなんだから。まあ、人のために使いたいって言うんなら、それも別にいいとは思いますがね』
「ずいぶんドライだな」
『僕がどうこう言ったところで、蓮さんに暴れられたらどうにもならないでしょ? 嫌でも乾きますよ』
蓮と安里がそんなやり取りをしているのを聞きながら、ゼロは話し続ける。
「――――――アイツが半年も音信不通って聞いて、少なからず異能のあった俺が様子を見るためにここに編入したんだ。……アイツの両親、見てられなかったらな」
「それでここに来てみたら、超エリートになってた、と」
「実際に入ったからわかる。この学園、忙しくてな。俺も、ここに入ってから一度も、親に連絡入れられてねえ」
それでも、ミチルの状況を知るために、ゼロはこっそりとクラス3の領域に忍び込んだことがある。
「……その時、学園の理事会本部に、見たこともない恐ろしい奴が入っていくのを見たんだ。あれは、どう見ても人間じゃなかった」
「そ、それって……」
(……怪人、だろうな)
人間でない姿の異形など、普通の生徒ではさほど見ることもないだろう。徒歩市ならともかく、こんな隔絶された環境でお目にかかることはほぼないはずだ。驚くのも無理は無い。
「あんなのとつながりがある学園が、まともなわけがねえ! ……かといって、ミチルを無視して俺だけ逃げるってのも、できねえ!」
「……まさか、
「……ああ。ミチルを倒したら、アイツをこの学校から追い出す。――――――それが、革命のもう一つの目的だ」
ゼロは、そう重苦しく呟いた。
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