16-ⅩⅤ ~ゼロとミチルの関係~

『へーえ、生徒会長さんが、あの橋本さんと同程度ですか』

「おう」

『それは、結構すごいですね』

「そうなのか?」

『蓮さんは知らないかもしれませんが、橋本さんは結構な強さですよ。徒歩市でも上位に入る強さだと思います。しかも、長いブランクがあってアレですからね』

「へえ……気にしたことなかったわ」


 紅羽あかばれん安里あさと修一しゅういちと、ビデオ通話で会話していた。WiFiで無制限に通話が可能、ビデオ通話をテレビにつなげるためのAV機器も充実。これは、革命での上位クラスに勝利した恩恵である。


 そして、わざわざビデオ通話をテレビにつないでいる理由と言えば。


「……あの、その橋本? って人が、どれだけすごいのかがわからないんですけど……」


 伽藍洞がらんどう是魯ぜろたち革命メンバーも、安里と会話をするためである。安里は清掃業者として一度学園に来ているのだが、ゼロたちはそのことに気づいていない。完全に初対面の、蓮の直接の上司としての対面である。


『まあ、そうですねえ。橋本さんの強さは……その生徒会長さんくらい強い、って言えばわかります?』

「ま、まあ……」

『そういうことですよ。まあ、そこにいる蓮さんがいれば、何とかなるんじゃないですかね。こっちとしては、あまり心配はしてません』


 安里は画面越しにコーヒーを啜りながら、ふう、と息を吐く。


『……こっちとしては、才我くんの方が気になります』

「あそこまでバッサリいないって言われたら……なあ」


 生徒会長の湯木渡ゆきわたりミチルの余りにもハキハキした返事を思い出し、蓮はため息をつく。


『まあ、彼女が嘘ついている可能性もありますけどね』

「……それは、ないと思う……ます?」


 安里への距離感がいまいちつかめないゼロは、たどたどしい敬語で答えた。画面の向こうの安里は見る限り同世代な気もするが、どうにも社会人らしい。社会に馴染めない異能者にとって、「社会人」という肩書はとてもまぶしく、そして距離を縮め難い存在でもあった。


「……さっきから、ずっと気になってたんだけど……」


 一緒に話を聞いていた中村が、ゼロの方をちらりと見やる。それは、宮本も、蓮も、安里も同じであった。


「……知り合いなんだよな? お前と、あの女」

「……わかるか? やっぱり」

「そりゃわかるよ。だって生徒会長と、名前で呼び合ってたし」


 じっと自分を見る周囲の目に、ゼロは観念したように肩を竦めた。どうやら、できる限り隠しておきたい事柄だったらしい。


「……この際だから、言うけど。クラスの奴らには絶対には言わないでくれよ。……俺と、ミチル――――――生徒会長は、俺の幼馴染だ」

「え、そうなの!?」

「アイツとは生まれた家が近くてな。幼稚園から中学校まで、ずっと一緒だった」


 生まれはともに関東の某都道府県。家族ぐるみの付き合いだったこともあり、一緒に旅行に行ったりしたこともあった。

 幼稚園と小学校の低学年までは、お互い普通の子供として暮らしていくことができていた。できていたのだが。


「――――――きっかけは、小学校の高学年になった頃かな。ミチルの身体能力が、急激に伸びたんだ」


 それは、おおよそ普通の小学生とは思えない伸び方だった。体力テストのほぼ全てが、上昇どころか数倍の値を叩きだす。クラスの女子どころか男子も抜き去り、下手をすれば周囲の中学生、高校生すらも凌駕する成績を残したのだ。


「……俺も、多少は記録が伸びたんだけどな。それでも、ミチルの伸び方は凄くて、みんなミチルの方を注目するようになったんだ」

『第二次性徴の影響ですかね。人間の大きな成長点だし、そこで異能が大きく伸びたのかも』


 あくまで適当ですがね、と安里は付け加える中、ゼロは続けた。


「アイツがこの彩湖学園に編入することになるのは、当然だった。中学校の頃、アイツは孤独だったからな」


 圧倒的すぎる頭脳、圧倒的すぎる身体能力。周りからは浮いてしまう。寄り添おうとしたゼロですら、彼女の凄まじさに近寄ることができなかったことがある。

 そしてその出来事が、ミチルとゼロの距離が遠くなってしまった原因であった。


「互いに男と女、ってのもあるんだろうけどな。昔から知っていると言え、ミチルは遠い存在になっちまった」

「でも、ゼロくんだって異能学園に入ってるじゃないか」

「俺なんて必死こいて異能を磨いて、ようやく1―Gに食い込めるくらいだぞ。ミチルの奴は、「特別待遇推薦」で難なくトップだ」


 ゼロが才我の事で「特別待遇推薦」を知っていたのは、それが理由だ。幼馴染も同様に、この学園に招かれてやってきたのだから。


「……この際だから、正直に言おう。俺の革命の、もう一つの目的。それは、アイツを――――――ミチルを、生徒会長の座から引きずり落とすことだ」

「生徒会長を?」

「もちろん、1―Gクラスの皆を救いたい、っていう気持ちはもちろんある! だが、同時に、救いたいのは……ミチルも、なんだ」

「ちょっと待て。救うって?」


 首を傾げた蓮を、ゼロはゆっくりと見やる。


「……お前らにも教えてやる。この彩湖さいこ学園の、本当の正体をな」

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