16-ⅩⅣ ~嵐の生徒会長・湯木渡ミチル~

 彩湖さいこ学園、生徒会長。


 その肩書は、総生徒数840名の頂点に立つことを意味する。


 圧倒的なESP値と威力を誇り、決闘もクラス3の強敵相手に、すべて完全勝利。歴代最強とも謳われている、学園最強の学生。


 それが、生徒会長、湯木渡ゆきわたりミチルだ。


「……あれ? 例の紅羽あかば君は? いないの?」


 ……そんな生徒会長は、呑気な声を出しながらあたりを見回していた。


「な、なななな……」


 一般的な1―Gの生徒である中村と宮本は、寮の壁を破壊して現れた学園最強に対し、完全に腰を抜かしている。

 ミチルは膨大なESP値を持っているため、身体から常にESPが漏れ出ていた。これはいわゆるオーラみたいなもので、感じ取ることができる人物には、その量で強さがわかる。そして、異能だらけの彩湖学園でそれができないのは、紅羽あかばれんくらいのものだ。

 あふれ出るESPオーラの強さに、わかってしまう一般生徒はみな震えあがってしまう。


(……こ、これが……学園最強の生徒会長……!)

(む……無理だ……! こんなの、バケモノじゃない……!)


「あれれー?」ときょろきょろしているミチルから放たれるオーラは、中村と宮本の心臓を握り潰さんとするばかりのプレッシャーとなる。元々、クラス3とクラス1とは月とすっぽん。本来であれば、在学中に顔を合わせることすら稀である、天上人のようなものだ。クラス1の彼らは、常にこれと同レベルのオーラが満ち溢れているクラス3のテリトリーなど、入ったことなどない。なので、耐性など全くなかった。


「……紅羽なら……自分の部屋で寝てる……!」

「ん?」

「ここにはいねぇーよ、……!」


 たった一人、伽藍洞がらんどう是魯ぜろのみが、1―Gの面々の中で、ミチルのプレッシャーに真正面から立ち向かうことができていた。震える身体を押さえつけ、全身から脂汗を垂らしながらも、彼女を睨みつけて立っている。


 だが、そんなゼロに対し、ミチルの表情は冷ややかなものである。


「あら、じゃん。アンタ、まだこの学校にいたの? とっくに辞めたと思ってた」

「……宣戦布告に来たってんなら、俺が受けてやるよ! 何を隠そう、革命の首謀者、1―Gの代表は、この俺だからな!」

「……ふーん、あ、そう」


 全然興味がなさそうに、ミチルはゼロをあしらう。一方のゼロは今にも倒れそうだが、必死にこらえて虚勢を張った。


「俺たちは絶対に、お前らのところまでたどり着く! そして、お前を……」

「あーいいよいいよそういうの。私、例の紅羽君に会いに来ただけだし」


 ゼロの啖呵を適当に受け流すと、ミチルはスマホを取り出した。


「寝てるなら、起きたら呼んでよ。私の連絡先渡しておくから」

「お、おう」


 そしてゼロとラインの番号を交換すると、そのまま壁に空いた穴へと戻っていく。


「じゃあ、連絡よろしくね。ライカ、帰るよー」


 でかい鉄仮面の男の背中をポンポンと叩き、ミチルは寮の外から帰っていく。


 取り残された3人は、ポカンとしながらその様子をただ、見やるほかなかった。


******


「彩湖学園生徒会長、湯木渡ミチル! 未来の敵陣に、華麗に参上っ!」

「来んなよ、帰れよ」


 2回目だという生徒会長の名乗りを目の当たりにした蓮の反応は、冷ややかなものだった。最初に来たという昼から、実に8時間ほど後の、夜の時間である。


「ようやくお目にかかれたわねっ! 正直、クラス3はあなたの噂でもちきりなのよ!」

「あ、そう」

「学園生徒会長として、私はあなたの挑戦を楽しみに待っているわ!」

「あ、そう」


 いちいち喋るたびにビシィ! という効果音が鳴りそうなポーズをとるミチルに対し、蓮は全く同じ相槌で迎え撃つ。両者のテンションは、まさに天と地ほどの差があった。


「――――――じゃあ私たち帰るけど、何か聞きたいことあるかしらっ!?」

「あ、じゃあ、2ついいか」

「いいわよっ!」

「じゃあ―――――――アイツ、誰だよ?」


 蓮が気になったのは、ミチルと一緒に来ていた鉄仮面。周囲にとげ付きの鉄球を浮かべている彼は、生徒会副会長であることは間違いないのだろうが、それ以外の素性は一切不明である。


「彼は生徒会副会長の「天竜てんりゅう ライカ」! 実力だけなら私にも引けを取らない、頼れる相棒よ!」

「何で鉄仮面着けてんの、アイツ?」

「彼のESPの都合上、仮面の装着は必要不可欠なんだそうよ! 素顔は私も知らないわ!」

「あ、そう」


 ミチルの言葉にライカもうんうんと頷いている。これ以上深堀りしても、どうにもならないだろう。


「んじゃ、もう一つ。お前ら、生徒会で強いってことは、クラスは……」

「もちろん、3―Aよっ!」

「じゃあ、二ノ瀬にのせ才我さいがって知ってるか?」

「知らないわ! 誰それ?」


 ミチルは即答した。蓮はちらりとライカも見やるが、鉄仮面の中の表情はうかがい知れない。だが、首を横に振っていた。彼も知らないらしい。


「特別待遇推薦で入ったらしいんだけど」

「あら、私と同じね! でも知らないわ、ごめんなさい!」


 あまりにもはっきりと言われてしまい、蓮は舌を巻いてしまう。安里ならここから何かしらのヒントを引っ張り出すのだろうが、蓮にそんな技術も、ヒントにつながる発想力もない。


「……じゃあ、もういいや」

「じゃあ、貴方と闘えるの、楽しみにしてるわねっ! それじゃ、お邪魔したわっ!」


 ミチルは昼とは全く違うテンションで、穴の開いた壁から出ていく。去り際に、「壁代、弁償するわねっ!」と聞こえてきた。


 そして、蓮と、一応いたゼロたち3人が残った寮の部屋は、普段よりも静かに感じた。


「……嵐みてぇな女だな」

「あれが……学園最強の生徒会長だ」


 冷や汗を垂らすゼロたちは、蓮の方を見やる。


「どうだ、紅羽。……行けそうか?」

「うーん……」


 問われた蓮はと言えば、腕を組んで何かを考えこんでいた。


「ど、どう? やっぱりキツい?」

「いや、誰だっけ……アイツの強さ、なんとなくだけど……誰かに近いような……」

「誰かに?」


 あんな凄まじいのに近い強さの奴に会ったことがあるのか? とツッコみたくなったが、彼は学園の外から来た者。この強さもあり、相当な修羅場をくぐっているというのは、3人にもなんとなくわかる。


 しばらく「誰だっけなあ……」と考えていた蓮だが、やがて思い出したのか、閉じていた目をぱっと開けた。


「あ、あいつだ!」

「ど、どんな奴?」


「――――――孝道たかみちの親父の、橋本はしもと!」


「「「……いや、誰ぇ!?」」」


 異能学園最強と並ぶ強さの名前としては、あまりにも一般的が過ぎる名前だった。

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