16-ⅩⅢ ~生徒会長、参上っっ!!~

「――――――ふむ、ふむふむふむ? ほーう、なるほどですネェ」


 彩湖学園理事長、チャールズ・ヴァンデランは、車の中でモニターを見やり、ニヤついていた。


「理事長、何か面白いことでもあったのですか?」

「どうやら私が出張に行っている間に、学園では面白いことになっているようですネ」


 アメリカから渡ってきて50年以上。すっかり日本での生活が板についている彼は、語尾以外は流暢な日本語で笑った。

 とある取引先との商談のために、数日ほど学園を離れていたのだが、まさかこんなことになっているとは。


「これ、見なさイ。面白い記事ですヨ?」

「……革命、ですか。1―Gクラスが? まさか」


 チャールズの隣に座っている秘書にタブレットを見せると、そこには学園新聞部のHPが映っている。大々的な見出しで、「革命の炎」というタイトルとともに、睨むような目つきの、とげとげした髪の少年がセンターを飾っている。


「……この生徒は? 見覚えがありませんが」

「先日編入してきたばかりの生徒ですヨ。名前は、紅羽蓮クン」


 確か編入試験において、歴代最高の威力を叩きだしたと試験官から報告を受けている。半面、ESP値はぶっちぎりの最低。結果、1―Gへの配属になったと聞いていたが。


「まあ、威力が高ければ、ある程度上にも行けるでしょうからネ。ただ、面白いのはそこじゃない」

「じゃあ、何です?」

「革命というくらいだからネ。編入してきたばかりの生徒が、クラス単位での決闘なんて思いつくと思うかい?」

「クラス単位……おかしいですね。確かに鬼河原先生の授業は厳しいことはわかっていますが、クラスの全員を引っ張ってまで上を目指すというのは……」


 編入したての生徒に、そんな発想をするとは思えない。となれば……。


「1―G内で、彼を煽った者がいるということでしょうか?」

「さすが。勘が冴えてますネ」

「そんなの、一体だれが……」


 秘書は首をひねっていたが、タブレットから車窓へと視線を戻したチャールズは、ニヤリと笑う。


「……見当がついているという表情ですね」

「そう見えるかナ?」


 チャールズは高い鼻を鳴らして、車窓の外に映る富士山を眺めていた。


******


「……ついに、ここまで来たか……!」

「いよいよ次は、3―Gクラスとの戦い……!」

「とうとう、挑むのね。エリートのクラス3に……」


 伽藍洞是魯、中村、宮本の3人は、寮の談話室でごくりと息を呑んでいた。

 革命の灯は紅羽蓮という業火が加わったことで、もはや大炎上と言っても過言ではない事態へとなっている。

 クラス1はおろか、上位のクラス2まで、ほぼ蓮1人で制圧してしまった。いよいよ、学園最上級の、クラス3との戦いが迫っている。


「……正直、震えが止まらないよ。僕たち、一体どこまで行っちゃうんだろ?」

「でも、ここまで来たら、行くところまで行くしかないんじゃない?」

「だな。やっぱり肝は、紅羽なんだろうけど……」


 3人はちらりと、天井を見やる。当の蓮本人は、「眠いから寝る」と、早々に部屋へと戻ってしまった。まるで革命の炎そのもののような男だからか、全くコントロールが利かない。


「……そういえば、学園新聞見た? 紅羽くん、でかでかと撮られてたね」

「ああ。どこの誰が撮ったんだろうな、あんな写真……」


 新聞の内容は、蓮にしか触れていない。「鬼神」「暴力の化身」「女子も構わず泣かせる極悪非道の男」など、言いたい放題だ。この記事を書いているのはクラス3の生徒なので、何処かヘイトスピーチのような目的もあるのかもしれない。


 その記事を見て、ゼロは顔をしかめる。


「……俺らの事、全く書いてないな」

「そりゃ、ね? だって僕たち、何もしてないもん」

「本当に、後ろついて走ってただけよね……」


 正直言うと、着いて行くのも精いっぱいだったわけだが。


「……これから先、正直紅羽一人じゃ厳しい戦いになると思う。だからこそ、俺たちがあいつをサポートしてやらないとな」

「だね。サポートって言っても、どこまでやれるかは全然分かんないけど……」

「……そうね」


 あの「最強」相手に、サポートと言ってもどこまでできるのか。それは全くわからないが、彼を革命に引きずり込んだ以上、それは必要なことだ。


「――――――となると、やっぱり情報収集じゃないかな。二ノ瀬才我くんの」

「ああ。それで、『特別待遇推薦』って前言ってたけど、実は――――――」


 そのようにゼロが、何かを言いかけた時。


「―――――――――――たのもおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ――――――絶叫とともに、談話室の壁が粉々に吹き飛んだ。クラス2を倒し、さらに設備を拡張したばかりの、寮の談話室の壁がである。


「「「うわあああああああああっ!!?」」」


 ゼロたち3人は、衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 濛々と立ち込める土煙の中に、人影が映った。細い女性のシルエットに、巨大な男のシルエット。さらに言えば、巨大な男のシルエットの周囲には、とげのついた玉のようなシルエットが浮かんでいる。


「お、お前は……!」


 その姿を見たゼロは、驚きの声を上げた。煙から出てきた茶髪のロングヘアの美女生徒は、瓦礫をものともせずに寮へと入ってくる。

 その後ろから着いてきたのは、巨大な鉄仮面の男子生徒。彼の周囲には、巨大な鉄球がふわふわと浮かんでいる。恐らく壁を破壊したのはこいつだ。


「……革命の話し合いの途中、お邪魔するわよっ!」


 そして何より目立つのは、彼らの制服についている腕章。それぞれ、「生徒会長」「生徒会副会長」と、役職が表示されている。


「彩湖学園生徒会長、湯木渡ゆきわたりミチル! 敵陣ど真ん中に、華麗に参上よっ!」


 歌舞伎のように手のひらを突き出すポーズと共に、テンションの高い生徒会長は、ゼロたちに向けて高らかに言い放った。

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