10-ⅩⅩⅩⅩⅠ ~一撃(ONE PUNCH)~
香苗たちが資料を読み込み、「プロデューサーと会うから付き添いで来てほしい」と蓮に連絡が来たのは、DCS再結成から3日後の事だった。
「お、面白いことになりそうですね。僕も見に行っていいです?」
そう言い、安里と、なぜか朱部、夢依、さらにボーグマンまでもが、物見遊山に来る羽目になった。いくら何でも大人数すぎるので、こっそりと隠れての見物である。
そして、香苗たちと合流した蓮は、路場を待ち構えることになる。合流してから30分後、路場は徒歩でやって来た。
いい大人なんだから車ぐらい使えと思わなくもないが、なぜ徒歩で来たかと言えば、待ち合わせ場所が公園だから。香苗と蓮が再会した、あの公園である。
「……お待たせしてすみません」
「いえ……大丈夫です」
香苗、京華、アザミの3人は、公園のベンチで待ち構えていた。蓮はその隣のベンチに座って、息を切らしている路場を見やる。
安里たちがどこにいるかと言えば、路場たちの後ろでサッカーをやっている。安里は路場に顔が割れているので、わざわざ別人の顔を作っていた。ちなみにボーグマンの役目は、サッカーボールである。なぜそれにした。
(……そこまでして聞きたいか? こんな話)
否が応でも目につくバカどもに眉をひそめていると、路場が呼吸を整えて話し出す。
「こうして会ってくださった、という事は……お話を聞いてくださるという事でいいのでしょうか?」
「……あくまで、話を聞くだけだよ。とりあえず、ね」
アザミの言葉に、路場は唇を噛みしめると、すぐさま綺麗な土下座を披露する。
「――――――本当に! 申し訳、ありませんでした!」
傍から見れば女子高生に大の男が土下座して謝るという、事案臭漂う光景である。
「私にできることで許して下さるなら、なんでもします! ですから……!」
「……なんでも、ですか」
「はい、できることなら……!」
香苗は、路場の言葉をゆっくりと咀嚼する。その様子を、京華も、アザミも、蓮もどうするのかと見やっていた。
「……だったら、顔をあげてください」
「え?」
香苗に言われ、顔をあげた路場は、完全に油断していた。
だからこそ、顔をあげた瞬間の光景に目を疑う。
香苗はいつの間にやら路場との間合いを詰めており、立ち上がるのを待っている。
何だろうと、立ち上がった瞬間。
「……え?」
香苗が腰を落とし、身体をひねる。右こぶしは下向きに、そして固く握りしめられていた。
「――――――うあああああああああああああああああ!」
香苗の腰の入った右ストレートが、路場の左の頬を捉えた。
「ぐふぅっ!」
思い切り振り抜かれた拳に、まさか女の子、しかも香苗が自分を殴るなんて思いもよらなかった彼は、虚を突かれた一撃に後ろにひっくり返る。
殴られるとわかっていれば、歯を食いしばるなど、多少なりとも防御はできるのだが、完全に不意打ちだったためにそれすらできなかった。
もろにパンチを食らった路場は、しばらくその場でぶっ倒れている。
「……う、嘘……!」
「香苗が……殴った!?」
京華もアザミも、ポカンとしている。いや、そりゃそうなるしかないだろう。
(おー、今のいいパンチだったな)
パンチの打ち方を教えた蓮は、香苗の腰の入ったパンチに、うんうんと唸る。
さらに、路場の後ろで遊んでいた安里たちは、その様子をバッチリ撮影していた。
「……ゆ、夢咲さん……?」
路場がむくりと起き上がると、殴った香苗本人が、拳を押さえて立っている。
「……言いたいことは沢山あります。でも、いくら言ってもきりがないから……今の一発に全部込めました」
そう言って、香苗はふっと笑った。
「だから私の分は、これでいいです」
「え……!」
驚く路場を尻目に、香苗はベンチにストンと戻る。
「い、いいの……? あれ、だけ……?」
「うん。二人はどうかわかんないけど……」
「……香苗、ずるいよ」
DCSの中で、一番事務所からの被害を被っているのは彼女だ。そんな彼女が、パンチ一発で路場を許してしまう、という事ならば。
「……私達だって、そんなに怒れないじゃん」
「……ごめんね」
「謝ることじゃないでしょ」
「そーだよ。それに、そのやり方超カッコよかった!」
京華はうんうんと頷くと、彼女も立ち上がった。
「――――――うりゃあああああ!」
彼女は路場の元に駆け寄ると、彼の尻に思いっきり回し蹴りを放つ。
「うぐっ!」
「じゃあ、私はこれでチャラ! 反省してよ! ちゃんと!」
「も、勿論です……」
京華の蹴り……ではなく、香苗の拳のダメージが大きく残っているのだろう。路場の声は、随分と弱弱しかった。
「……いいのか、本当に」
「うん」
蓮から見た、香苗の表情は晴れ晴れしている。これだけでも、彼女の家に乗り込んで引っ張り出した甲斐があるものだ。一歩間違えば逮捕だったけど。
「すっきりしたけど、やっぱり手が痛いね。もう、人殴るのはやだなあ」
そう言って、香苗はあっけらかんと笑う。ふと視線を路場に移せば、京華とアザミが2人して彼にプロレス技をかけていた。あの蹴りで終わりじゃないんかい。
というか、いい加減にしないと路場が参ってしまうだろう。
「……ボコボコにするのはいいけど、この後話あること忘れんなよな?」
「わ、わかってるよ。……多分」
いい笑顔で路場の関節を極めている二人を見やりながら、香苗は困ったように笑った。
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