17-Ⅺ ~宇宙警察現地部隊~

「……うへえ、何か似合わねえ気がするな」

「そんなことないよ。似合ってる、似合ってる」

「ホントか……?」


 ジュテームの強制送還を見送った後、事務所の中で蓮たちは着替えていた。いつもは赤いシャツを着ている蓮だが、窮屈そうにしながら現在着ているのは、スカイブルーのジャケットだ。


「それが宇宙警察の制服だからね。それを着ていれば、現地の協力者だってわかってもらえるわよ」

「……にしてもこれ、ダセえなあ」


 ちょっと艶のあるジャケットに、蓮は眉をひそめる。ブルーナ曰く、「これが宇宙ファッションの最先端よ!」との事らしいが、地球人的には少し古いというか、なんというか。


「まったく、田舎惑星人はこれだから……」

「どうしても着ないとダメなのか?」

「そのジャケットは宇宙警察の証明にもなるからな」


 どうやらこのジャケット、警察手帳の役割も果たしているらしい。なんでも宇宙人にはこのジャケットを着ている者が、宇宙警察であると認識するそうだ。


「えー。いらねえよやっぱり俺は。嫌だよ、こんなの着た奴らで並んで歩くの」

「文句言わずにとっとと着ろ! そういう義務なんだよ」

「……ちっ」


 バーンズに言われ、蓮は渋々とジャケットに袖を通した。そしてその後ろで、他の面々もスカイブルーのジャケットに袖を通している。


「……まさか私が宇宙警察の服を着るとはな……」


 エイミー・クレセンタも、ぶつくさ言いながらジャケットに袖を通す。彼女もまた、現地での特別捜査員として抜擢されたのだ。


 そして、抜擢された人物(?)が、もう一人。


「……つーか、何でボーグマンなんだよ?」

「しょうがないでしょう。他にめぼしいメンバーがいなかったんですよ。僕や愛さんはもちろん、朱部さんも忙しいですからね」


 機械の身体の上にスカイブルーのジャケットを着ているボーグマンに、安里は苦笑いする。


「まあ、宇宙警察にもサイボーグやアンドロイドみたいな機械型はいるからな。そんなに珍しいことじゃない」

「コイツの場合はほぼ用途が家電なんだが?」

「でも、蓮さんを一番苦しめたのはボーグマンですよ?」


 安里の言葉に、蓮の脳裏に嫌な記憶がよみがえる。不快な音をまき散らし、強烈な閃光で目を潰し、おまけに臭い缶詰を爆発された記憶――――――いや、缶詰は朱部だったが、徹頭徹尾封じ込められたのはいい思い出だ。「最強」だろうが何だろうが、工夫次第でどうとでもされてしまう、という、良い教訓である。


「まあ、蓮さんが口で言うよりは戦力になりますから。なんだったら、犯人逮捕的な意味合いでは、蓮さんたちよりも有能である可能性があります」

「本当かよ、それ……」


 そんなことを言っているうちに、ボーグマンも着替えが終わった。と言っても、もともと機械なので下半身なんぞ気にする必要もなく、スカイブルーの制服を着ているだけなのだが。


「まあ、あくまで緊急事態だからな。本部に要請して、応援に来てもらうから。それまでは、よろしく頼む」

「……ま、いいけど。宇宙人が暴れてるなんて、どうやって――――――」


 そう、蓮が言った瞬間。


 ビ――――――ッ!! ビ――――――ッ!! という、けたたましいサイレンが事務所に鳴り響いた。


「うわ、何だ!?」

「宇宙人センサーに反応があったみたいですね」

「宇宙人センサー!? そんなもんいつの間に……」


 音のする方をパッと見やれば――――――そこにいるのは、ボーグマン。彼の頭部がグルグルと回転しながら、赤と青のランプを交互に点滅させている。


「……いやお前かよ!」

「とにかく、すぐに出動だ! 行くぞ!」

「あ、おい待てよ!」


 バタバタと出て行ってしまうバーンズを追い、蓮たちは慌てて彼の後を追いかけていく。


「行ってらっしゃい。じゃあ愛さん、僕らは今のうちに……」

「今のうちに、何ですか?」

「夕飯の準備をしましょうか。人数が多くなりそうですしね」


 安里は台所から鍋を取り出すと、にっこりと笑った。


*****


「うおおおおおおお、地球人! 本物の地球人だわ!! フオオオオオオホホホホホホ!」


 貴婦人のような笑い声をあげながら、ヤトガミ・クラスタの宇宙人が街中で暴れまわっている。逃げ惑う地球人を追いかけながら、手に持っているカメラのシャッターを切りまくっていた。

 何が恐ろしいって、地球人を追いかけまわす宇宙人の下半身は、昆虫のような太くて長い足が6本もあること。そしてその脚部にふさわしく、下半身そのものも肥大だった。上半身は、普通の人間っぽい見た目なのにだ。


「……何だ、ありゃ」

「あれは……有名サークル「美脚堂びきゃくどう」のアシスキーナだ!」

「アシスキーナぁ?」

「二足歩行生物フェチだって聞いたことがある! その手の同人をいっぱい手掛けてるんだよ」

「……ってことは……」


「みーんな、剣豪ヤトガミと同じ! 二足歩行! いい! いいわあああああああああ!」


 どうやらあの女は、ヤトガミの影響で二足歩行する生き物が好きになったらしい。それは、自分が6足歩行だからということも、少なからず関わっているのかもしれない。


「と、とにかく止めないと!」

「ああ! ――――――待て、エイリアン!」

「――――――っ!?」


 アシスキーナはバーンズの声にぱっと振り返り、並んでいる5人を見やった。そして、スカイブルーのジャケットを見て「ちっ」と舌打ちする。


「宇宙警察! さすがに気づかれたか……!」

「――――――宇宙警察、バーンズ!」

「同じく、ブルーナ!」

「同じく、エイミー!」


 宇宙人たちはまるで当たり前化のように、ポーズと名乗りを上げる。取り残されたのは、地球人である蓮とボーグマンだけ。


「え、俺も名乗んの!? ……え、えーと、蓮……」


 顔を真っ赤にしながら、適当にポーズを取る。そして、次はボーグマンの番なのだが。


 ――――――当のボーグマンはさっさと右腕を突き出すと、ロケットのごとく射出していた。


「えっ……あばばばばばあっ!?」


 ロケットパンチはアシスキーナの身体に当たると同時に、電流を放つ。もちろん死ぬほどの威力ではないが、無力化するにはちょうど良い威力だ。

 どさりと倒れたアシスキーナに対し、今度は手からネットが射出される。電撃で目を回しているアシスキーナは、そのまま捕縛されてしまった。


「……お、おい! いきなり攻撃はルール違反だろ!」


 バーンズがボーグマンを嗜めるも、当のボーグマンは全くどこ吹く風、といった様子である。そりゃ、ロボットに名乗り口上なんてできるはずもない。


「……頼もしい奴だな、確かに……」


 そんなボーグマンに、流れで名乗ってしまった蓮は、自分を恥じて俯いていた。

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