17-Ⅻ ~エイリアン・ワールド・ワイド~

『ご覧下さい! これは、CGでもフェイクニュースでもありません! 今、我々の目の前で確かに怒っている現実なのです!』

「ただいまー」

「あ、兄さん! 大変だよ、テレビ見て!」

「あん?」


 自宅に帰った蓮に、弟の翔が焦りながらリビングへと引っ張っていく。


 何事かと思ってリビングに行けば、家族そろってテレビを見やっていた。


「どうしたんだよ?」

「あ、蓮ちゃん! 大変なのよ、パパが……!」

「父さん?」


 ニュースはどうやらニューヨークの映像らしい。そして紅羽家父の厚一郎は、現在アメリカのニューヨークに単身赴任中だ。


 そして、ニュースの内容は――――――。


『……突如ニューヨークに出現した巨人が……その、何というか、あの……! 自由の女神に……!』


 ニュースキャスターの女性が赤面し、言葉に困るのも無理は無い。


 何せ、ブーメランパンツ一丁の巨人が自由の女神にしがみついて腰を振っているのだから。


『――――――FOOOOOOOOOOOOOOOO!』


 まるでゴリラが赤いブーメランパンツを履いているような姿の巨人は、甲高い声を上げながら、自由の女神にくねくねと股間を押し当てている。


 その映像を見た蓮は、呆気に取られて開いた口が塞がらなかった。


「……何だこれ!?」

「わかんないよ! いきなり現れたらしくて……!」

「まるで、キング・コングね……!」

「失礼すぎるだろ、キング・コングに」


 母のみどりや妹の亞里亞ありあも唖然とする中、蓮はなんとなく合点がいく。


 あれもおそらく、宇宙人。コミケの開催に興奮して地球に先乗りした、ヤトガミ・クラスタとかいうオタクども。


「どうしよう、あんなのがもし暴れたら、父さんが……!」

「……連絡は? 取った?」

「うん。もう、避難はしてるらしいけど、心配で……」


 そのころニュースでは、出動した米軍の航空機が変態コングに攻撃を仕掛けていた。戦闘機から何発もミサイルが撃ち込まれ、それに驚いたコングは慌てて逃げていく。


(……あ、変に暴れたりはしないんだ)


 どうやらあの変態コングは普通のヤトガミ・クラスタらしい。と言っても、バーンズたち宇宙警察たちから聞いた情報だけだから、蓮本人もいまいちよくわかっていないのだが。


 もしあの変態コングがヤトガミ・クラスタの中でも武闘派のヤトガミ・ソードだったら、それこそキング・コングのようなモンスターパニックになることは間違いないはずだ。奴に、そんな度胸はないようだ。


(まあ、所詮はオタクか……)


 それでも、自由の女神に腰をヘコへコさせているあたり、決して放っておいて良い存在でないことは間違いないのだが。


(何やってんだよ、宇宙警察……)


 バーンズたちの話だと、今地球中に宇宙警察が派遣されているはずだが。


『臨時ニュースです! エベレストに、正体不明の飛行物体が現れたとの情報が!』

『カンボジアのアンコールワットに、UMAが現れました!』

『パナマ運河で、巨大生物が泳いでいる映像です』


 そしていつの間にか、世界中のいたるところで謎の生物が現れたというニュースが広がり始めている。


「おいおいおいおい、どうなってんだよ……」

「本当にね……世界は、どうなっちゃうんだろう」


 心配そうに声をそろえた蓮と翔だったが、その意味合いは微妙に違う。


 翔は純粋に世界の行く末を心配しての発言だったが。


 蓮の場合は、「宇宙警察、何やってんだよ!」という、不満の表れだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る