16-ⅩⅩⅩⅣ ~ポーカー・ゲーム~

 吹き上がるスモークから、湯木渡ミチルの姿が現れた途端、黄色い声援が上がった。どうやら、学園内の女子からの人気が非常に高いらしい。


「きゃああああ――――――! ミチル様――――――!」

「あんな卑しい男どもなんて、蹴散らしてぇ!」

「ミチル様ぁ――――――っ!!」

(……なるほどな)


 蓮は合点がいった。どうやら、この学園の生徒の支持は、男女で別れているらしい。副会長は男子、生徒会長は女子から。それぞれカリスマとして君臨しているわけだ。


「……生徒会長、副会長って言うけど、要するにツートップってわけだ」

「そういうことだ。天竜てんりゅうも、副会長だからって格下とは思わない方がいい」


 声援を受けながら舞台に上がったミチルは、天竜と並んで蓮たちの前に立つ。


「……本当にこの舞台に昇ってくるとは、恐れ入ったよ」

「テメーらが来いって言ったんだろうが」

「そうじゃない。……ここに来るまでの戦いを、乗り越えてきたってことさ」


 ミチルはそう言い、蓮に向かって手を差し出した。


「いい勝負をしようじゃないか。勝っても負けても、お互い恨みっこなしだ」

「……恨みっこなし、ねえ」


 蓮も、ミチルに対し、握手を返そうとする。


 しかし、それを遮ったのはゼロの手だった。蓮が握手するより早く、ゼロが握手を交わしたのだ。


「……1―Gの代表は俺だ。握手するなら、代表同士が妥当だろ?」

「……ゼロ……!」


 ミチルはじっと、握手をしているゼロを見やった。

 彼女の表情は、普段と変わらない、威風堂々とした笑み。だが、目の奥には、わずかに隠し切れない不快感がある。


 握手を終えると、両陣営は、舞台の端へと下がっていった。そうするように指示をされたのだ。


『さて、いよいよ最後の決闘が始まるところですが……! 最終戦は、「ポーカー・ゲーム」となっております!』

「「ポーカー・ゲーム」?」

『ルールを説明しましょう。両者1対1で決闘を実施してもらうわけですが、その順番は各チーム自由です。代表を先に出すもよし、温存しておくも良し。どちらを出すか、が重要なルールとなっております!』

「駆け引きって……」


 ルールについては以前も聞いていたが、あまりにも蓮に有利すぎる。ミチルが目を逸らしているところも含めて、不本意なのは明らか。この闘いは学園側が大いに関わっているようだ。


『それでは両陣営は舞台から降りて、最初の選手を選んで舞台に上がってください!』


 実況役の言葉通りに下に降りると、蓮とゼロは腕を組んで唸り始めた。


「……どうする?」

「どうするも何も、俺が出りゃすぐに終わっちまうだろ」


 ちらりと、盛り上がっている群衆を見やる。蓮が出て2人を叩き潰せば、すぐに終わるだろう。しかし、このボルテージは、ひどいくらい冷めるに決まっている。

 そうなれば、この学園に蓮の居場所はない。まあ、どうでもいいことだが。


「……な、なぁ。紅羽」

「あん?」

「ミチルだが……アイツの相手は、俺にさせてくれないか?」

「は?」

「頼む! この通り!」


 ゼロはパン、と手を叩いて蓮を拝む。それに対し、蓮は困ったように頬を掻いた。


「頼むっつったって……向こうの出方もわかんねえんだぞ? それに……」


 最初にゼロを選出したとして、相手が天竜だったらおしまいだ。ゼロは彼に勝てないだろうし、そうなれば蓮がミチルと闘うことになる。

 かといって蓮が出たら、無理やりゼロ戦わせるとしたら、蓮がわざと負けるしかない。そんなの、ミチル本人が頑として許さないだろう。


「お前が最初に出て、最初が会長になることに賭けるしかねえじゃねえか」

「……ああ、そうだな。確率は半々だ。……普通なら」

「普通?」

「ああ。前に言ったろ、アイツは正義のヒーローになりたいんだ」

「つまり?」

ような女じゃない。……頼む!」


 そう言われて拝み倒すゼロに、蓮はため息をつくしかなかった。


******


『さぁ――――――! 両陣営、一番手の選手が決まったようです!』


 実況の宣言に、誰もが息を呑む。誰がどう考えたって、1―Gの一番手は紅羽蓮に決まっている。なので、彼らが注目しているのは、生徒会がどちらを最初とするのか。それに尽きた。


『まずは3―A! 一番手は、何と……! 湯木渡ゆきわたり――――――ミチル――――――っ!』

「か、会長が!?」

「まさか、いきなり来るとは……!」


 観客の生徒たちは、大いにざわめいた。


「いや、でも……会長らしいっちゃ、会長らしいな」

「そうね。紅羽さえ倒しちゃえば、後は楽勝だものね」


 様々な感想が飛び交う中、ミチルは舞台の上に上がる。そして、舞台の対角線上からやってくるであろう、蓮を待ち構えていた。


『そして1―Gの一番手! ……えー、その……伽藍洞がらんどう是魯ぜろ――――――っ!!』

「「「「「……は?」」」」」


 実況としても、頑張って盛り上げようとしたのだろう。だが、結局盛り上がりには、大いに欠けてしまう。


 誰の期待も受けられない中、代表のゼロは、一人悠々と、舞台の上に上がった。

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