15ーⅩⅩⅩⅣ ~地獄の門~

「グオオオオオオオオオオ……!」


 巨大天使を倒したサキュバス・アイは、魔界の中心で唸り声をあげていた。翻訳アプリその音声を聞き取り、表示される。


『蓮さん ドコ……?』


 尻尾を揺らしながら魔界を闊歩するサキュバス・アイは、蓮を探していた。


「蓮さんを探してるんだ……」

「でっかくなっちゃって、見失ったんですね」


 よく見ると指先の触手も、向かってくる天使を迎撃こそするものの、積極的に襲ってはいない。どちらかというと、ビルの中に入り込み、何かを探しているように見える。蓮はさっきまで自分がいた瓦礫の山で、恐らくまだ眠っているのに。


「……ということは、蓮殿さえ起こせば、まだなんとかなるのか?」

「でも、それだと瓦礫を何とかしないと……」

「……ボーグマンをギガントにすれば、瓦礫は吹っ飛ばせますが……」

「蓮くんも吹っ飛ぶわよね!? それ!?」


 そうなったら、今度はこの魔界の中から蓮を探さないとならない。仮に見つけたとしても、こんな状況でも寝てるあの男をどうやって起こせばいいのやら。ジョンに感触が似ていたサキュバス・アイは現在、ご覧の有様である。


「手詰まり、ですか……」

「というか、いつまで瓦礫に埋めてるつもりなんだよ。助けてやれよ」


 エイミーの苦言もその通りで、いくらほったらかしても死なないとはいえ、人が瓦礫の中にずっと埋まっているのまで放置するのはいかがなものだろう。


「……それもそうですね。こうなってしまった以上、こちらでできることも少ないでしょうし。ほっといてもし起きたら、それこそ怒られそうだ」


 安里も了承し、エイミーは後方に旋回して、瓦礫の場所に戻ろうとする。


 ――――――その時、上空が激しく光った。


「――――――邪神よ。地獄の底より目覚めし、悪しきものよ……」


 天の上から、腹の底にずっしりと響くような声がする。とても重々しい、男の老人の声である。サキュバス・アイも含めた、全員が空の上を見上げた。


「こ、この声は……!」

「ま、まさか……!」


 アイニとクロムは、驚きの余り口が半開きになる。聖教徒である彼らにとっては、この声を聞くことはない。しかし、仮に聞くことができたとしたら、それはあらゆるエクソシストを超える奇跡の体験だ。


 すなわち、神の降臨。そんなことが起こるのは、人間の有史以来、初めての事であった。


 眩い光とともに、そんな神――――――純白のオーラをまとった老人が空から舞い降りる。彼は空中、サキュバス・アイの前にたたずむと、ビンタで張り倒され、ビルに埋まっているメタトロンをちらりと見やった。


「……巨大天使をこうまで追い詰めるとは。やはり、私自らが出るべきだったな」


 神がメタトロンに手をかざすと、淡い光が彼女を包む。傷だらけだったメタトロンの身体は、みるみる傷がふさがっていった。


「か、神よ……。申し訳ありません……」

「気にすることはない。あれは私が何とかしよう。だが、お前にも協力してほしい」


 よろよろと起き上がったメタトロンと神は、サキュバス・アイと対峙する。


「何か手立てがあるのですか?」

「うむ。こういう時のために、前々から準備しておった。さて……」


 神は両手を上げて構えを取ると、魔力をため始める。そのままちらりと、空を飛んでいるドラゴンを見やった。


「……ほかの天使たちに、アレを何とかするように伝えねばならんのう」


******


「貴方たちっ!」


 空を飛んできた天使が、空を飛んでいるエイミーの方へとやってきた。


「ここは危険よ! 早く避難しなさい!」

「え、でも……!」

「ここにいては邪神と神様の戦いの邪魔になるわ! さあ早く離れて……」


 そう言う天使の背後に、「何者か」が迫る。


「……危ないっ!」

「っ! うあああああああっ!!」


 霊力を吸われた天使が、地上へと落ちていった。。慌ててエイミーたちは急降下し、落下するエイミーを救助する。


「しっかりしてください! 霊力なら分けますから!」

「あ、ああ……すまない……」


 愛から霊力を受け取った天使は、よろよろと起き上がる。そうして、頭を押さえながら、愛たちを見やった。


「……もうじきここら一帯に、が開くわ。貴方たちも巻き込まれる。早く逃げなさい!」

「じ、地獄の門?」

「それは―――――――」


 天使がそう言いかけた時、ズン、と、地面が大きく揺れた。と同時に、ゴゴゴゴゴ! と地面が唸る音がする。


「ま、まずいっ! 開くぞ、地獄の門が!」

「え、何!? 開くとどうなるんですか!?」

「いいから早く飛べ! 巻き込まれるぞ!」


 天使の必死の形相に、エイミーも思い切り空を飛ぶ。


 空を飛んだことで、一同は気づいた。


「……え……」


 地面に、巨大な穴が広がり始めている。恐らくはあれが地獄の門。


「邪神をあそこに落とし、無間地獄に落とすんだ。そうすれば、二度と這い上がっては来られないだろう」

「お、落とすって、そんなのできるんですか!?」

「それは――――――」

「……あの、ちょっといいです?」


 安里は天使の話を遮った。


「……何だ?」

「この地獄の門、あたりのものを巻き込んでますよね」

「そうだな。多少は仕方がない」

「……と、いうことは……!!」


 一同が下を見やると、もう遅かった。


「……蓮さんっ!!」


 瓦礫の中に埋まっていたままの紅羽蓮も、瓦礫とともに地獄の底へと落ちてしまっていたのだ。

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