15-ⅩⅩⅩⅤ ~巨大天使、敗れる。~
「あ……」
「あ……」
「あああああああ――――――っ!!」
誰も見ていない間に、一番とんでもない事態になってしまい、愛は絶叫した。そりゃ、自分の彼氏が地獄に落ちてしまったのだ。叫びたくもなる。
というか、そんな叫んでもいられなかった。
「ウオオオオオオオオオオオオオおっ!!」
「す、吸い込まれる……!!」
開いた地獄の門は、ものすごい吸引力で周囲のものを吸い込んでいる。それは風というか、引力というか、とにかく「周囲のものを吸い込むという概念」的なものが働いていた。巻き込まれないように、エイミーは全エネルギーを集中して飛翔する。
捕まるもののない「何者か」と天使たちも、みるみる地獄の門に吸い込まれていた。敵味方の選別はできないらしい。
「ぬああああああああああああああっ!!」
決死の飛翔で、何とかエイミーたちは地獄の門の吸引圏内から逃げきる。その位置から見やった光景は――――――まさに、地獄であった。
吸い込まれる有象無象に、吸引によって倒壊する建物。赤い空にちかちかと光が瞬き、
「ぜえ、ぜえ……」
「エイミーさん、ナイス飛翔ですよ。いやあ、しかしひどいなあ、これ」
「写真撮っときましょう。今度の事務所のブログにちょうどいいわ」
「エクソシスト的には、神秘の秘匿のためにやめていただきたいんですが」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? れれれれれ、蓮さんがっ!!」
「まあまあ。蓮さんだったら自力で這い出てこれるでしょ」
「……いや、それは厳しいだろうな」
いつの間にかエイミーの尻尾にしがみついて地獄の門から逃れていた天使が、沈痛な面持ちで首を横に振る。
「地獄の門は、落ちた対象を地獄の最下層に落とす。落ちる先は地底のはるか底の底。悪魔たちがひしめく地底に、落ちて生きていられる者はいない……その、貴方の友人は、申し訳ないが……」
「そ、そんな……!」
天使の言葉に、愛は青ざめ、くらりと倒れそうになってしまう。倒れそうな彼女を支えたのは、朱部だった。
「……地獄の悪魔ですか。蓮さんなら、何とかなりそうですけどね」
「それはそうだけど、そんな深いところから帰ってこれるのかしら」
「それは……どうでしょう。とにかく彼が起きてくれないことには……」
「……貴方たちは、一体何の話をしているんですか?」
「お気になさらず。こっちの話ですから」
怪訝な顔をする天使を安里は笑顔ではぐらかすと、取っ組み合いをしているサキュバス・アイとメタトロンを見やった。
「うおおおおおおおおおっ!」
「グオオオオオオオオオオッ!!」
まるで相撲のように、がっしりと組み合って動かない。互いに力は互角のようだ。だが、腕が多い分、サキュバス・アイの方が力を入れやすいようだ。その分は彼女の方が上。
だが、メタトロンの後ろには神が付いている。神の援護による能力上昇魔法によって、メタトロンのパワーは通常時よりも上がっていた。その分は彼女の方が上。そして神というだけあって、その魔法はかなり強力だった。
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……っ!」
ちょっとずつだが、メタトロンがサキュバス・アイを押していく。強靭な爪が巨大天使の肌を切り裂くが、決死の形相で押し込む彼女は、意にも介さない。
「うむ、見事じゃメタトロン。ここまで押し込めば……! むん!」
地獄の門へと少しずつ近づいていくサキュバス・アイに、金色の鎖が突如として巻き付いた。太い鎖は、神の魔力によって作り上げられたもの。人ならざる邪神であっても縛り付けることのできる、神の秘密兵器だ。
「……かあああああああっ!」
地獄の門から伸びる鎖は、みるみるとサキュバス・アイを巻きこみ、地獄の門へと引きずり込んでいく。逆に言えば、こうまでしないと地獄の門へと邪神を引きずり込むことはできなかった。
「――――――グオオオオアアアアアアアアアアア―――――――ッ!!」
サキュバス・アイは咆哮を上げると、背中から大量の「何者か」が飛び出す。
「何者か」たちはメタトロンに貼りつくと、一斉に魔力を吸い取り始めた。
「ぐっ……! ああああああっ!!」
みるみると魔力を吸われて、メタトロンは膝をついた。それだけではなく、体もどんどんとやせ細っていく。
「ぬぅ……魔力供給が追い付かんだと!?」
神も脂汗を浮かべながら、必死に魔力をメタトロンへと送る。
だがヒルのように群がる「何者か」たちは、供給された魔力を片っ端から吸い取っていた。そして吸った魔力の分だけ、どんどん大きくなっていく。
「――――――グオオオオオオオオオッ!!」
そしてサキュバス・アイが雄たけびを上げると、「何者か」たちは一斉に光り輝く。何が起こるかは、もう火を見るよりも明らかだ。
魔力を吸い取った「何者か」たちは、メタトロンの周囲で大爆発を起こした。
「ぐああああああああああああっ!!」
巨大な天使であるメタトロンにとって、「何者か」1体1体はさほど大したサイズではない。たとえ魔力を吸って爆発したとしても、たいしたダメージにはならないだろう。1体なら。
だが、無数に身体にまとわりつかれて、一斉に爆発されれば話は別である。
全身から血を吹き出し、今度こそ巨大天使は倒れ伏した。サキュバス・アイはメタトロンを掴むと、そのまま神へと彼女を投げつける。
「なんとっ!」
神の強力な結界により、直撃はしない。だが、メタトロンは到底戦えるような状態ではなくなってしまった。
「やはり、邪神……! 一筋縄ではいかぬか!」
神は両手を構え、己を睨むサキュバス・アイを見据えた。
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