16-ⅩⅩⅤ ~破壊の鉄球~
「解決しましたか、それは良かった良かった」
『まあな。蓋開けてみりゃ、しょうもねえ話だったぜ』
決闘に何とか勝利し、その報告をしてきた蓮に対し、安里は電話をしながらハンドサインを出す。それは、事務所に待機していた愛に、蓮の潔白と勝利を伝えるものだった。
「蓮さん、良かった……!」
「まあ、本当にそんなことしていたら、貴方が処女捨てた意味ないものね」
「やめてください、蓮さんに聞こえたらどうするんですか」
「聞こえないわよ。スピーカーじゃないし」
ほっとする愛と、そんな愛を茶化す朱部だったが、直前までそんな雰囲気ではなかった。本当に蓮が別の女とシたのかもしれない、という可能性が、愛の周辺の空気を重くしていたのである。
「だから言ったじゃないの、そんなことできるタマじゃないわよ、彼は」
「でも……」
不安に駆られる愛をよそに、安里は蓮との電話を続けている。
「……それで、例のS4さんはどうしたんですか? あの後、一悶着あったんでしょ?」
『ああ、それなんだけどな……』
蓮の言葉には、何だか含みを感じる。
どうやら、安里が想定した通りの展開とは、なっていないようだった。
******
蓮が生徒会長にS4の悪事を暴いたとき、彼らは怒りに身を震わせていた。
「き、貴様……!」
「よくも、やってくれたなぁ……!」
殺気立ち、全身からESPのオーラが漂い始める。4人から放たれるオーラは、今まで戦ってきた生徒たちの比ではないことは、蓮にも分かった。
(……ま、だから何だって話なんだけどな)
蓮も構える。この後ゼロたちの加勢に行かないといけないのだ。チンタラしている余裕はない。
ひとまず、二度とこんなことできないように、アイツらの顔面でも潰しておくか。貶められたのもそうだし、イケメンなのも結構腹立つし。
――――――そう思った矢先だった。
「「「「――――――がはっ!?」」」」
アジトの壁を破壊して、巨大な棘付きの鉄球が、4人全員を横なぎにぶっ飛ばす。
いや、ぶっ飛ばすとかそんな次元ではない。鉄球が4人へと体当たりし、反対側の壁へと叩きつけたのだ。
「……あ?」
蓮がぽかんとする中、鉄球がふわりと浮いて離れる。破壊された反対側の壁の中で、蓮が想定していたよりもズタボロになっている4人の姿があった。少なくとも、体中の骨が折れているだろう。棘が刺さった個所からは、赤黒い血がドバドバとあふれ出ていた。
そして、鉄球の飛来してきた方向には――――――。
「……お前……
鉄仮面の大柄な男が、鋭い眼光を光らせていた。
「……紅羽、蓮。お前の冤罪は晴れた。決闘への参加権は復活する」
鉄仮面のせいでくぐもった、低い声だった。だが、どうも蓮の味方らしい。
「早く行け。
「わかってるよ。……けどな」
蓮としては、その場をさっさと離れたかった。しかし、そういうわけにもいかなかった。いや、正確には、行かなくなったと言った方がいい。
「……そいつら、どうする気だよ」
蓮は、倒れているS4の頭上で、超高速で回転している鉄球を睨んだ。
誰がどう見ても、この鉄球を自在に操作するのが、天竜のESPなのだろう。そして、学園最強の生徒会のESPともなると、その精度も規模も桁違いだ。
たった一撃で4人を戦闘不能にした鉄球が、さらに高速で回る。こんなのがもし落ちてきたら、全身はズタズタにされるだろう。ミンチどころではない、細切れになるのが目に見えている。
どう見ても、天竜がこいつらを殺そうとしているのは間違いなかった。
「……こいつらに、生きている価値はない」
「そんなの、お前が決めることじゃねえだろ」
「いや。女に乱暴する奴は死んでも構わない」
天竜の眼光が、より強く光る。蓮は頭をぼりぼりと掻いた。このまま放置していたら、殺人を見逃してしまうことになる。
かといって、ここで天竜と闘い始めるなんてことになれば、間違いなく決闘は間に合わないだろう。とはいえ、、人を殺すのが前か悪かなんて問答をするのも、色んな意味で不毛だ。
「……違う、そうじゃねえ。そいつらは、殺したらダメなんだよ」
「何?」
天竜が高速回転させていた鉄球が、ぴたりと止まった。
「殺したらそこで終わりだろうが。……こいつらには、死ぬ前にやらなきゃいけねえことがある」
「……何だ、それは」
「決まってんだろうが。こいつらが
「……そんなの、被害者は望まないだろう。顔も見たくないはずだ」
「だからこそだ。自分らがどんだけのことしたか、わからせてやらねえとな」
そしてS4の元へ近づくと、蓮は。
身体に空いた風穴を、ぐりぐりと踏みつける。
「―――――――うぎゃあああああああああああああっ!!」
「もちろん、そっから先も地獄は味わってもらうけどな。それは、殺したらできねえんだよ」
「……恐ろしいことを考えるやつだな」
「だからこいつらを、とっとと病院に連れてけ。……そしたら、後は俺がキッチリ落とし前着けさせる」
「……落とし前? こいつらが、そう簡単に反省するとは思えんが?」
「心配いらねえよ。俺は落とし前着けさせるのは慣れてるからな。それで反省しなかった奴はいねえ」
そう言い、くるりと踵を返す。天竜も、蓮の話の意図を理解したらしく、4人を鉄球に乗せて、諸共ふわりと浮かべた。
「……もし、それでも反省しなかったとしたら、こいつらはどうなる」
壁から去り際、蓮へと天竜は問いかけた。
いちいち答える時間はない。
蓮は、黙って首を横に振るだけに留めた。
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