16-ⅩⅩⅣ ~虚実混じりの勝利~

「……本当に、バカな奴らだぜ」


 倒れ伏しているEクラスの男の上に座り、蓮は不機嫌そうにつぶやいていた。Eクラスの生徒たちは、突如復活し、突如現れた蓮に対し、本当になす術もなくやられていた。増援部隊を寄越そうにも、蓮の復活と圧倒的な蹂躙を見届けたのか、来る気配がない。おかげで、ゆっくり休めてはいるが。


「俺一人止めるために、女犯す奴がいるかっての。しかも、無関係だぞ?」

「……それにしても、『DNA鑑定』って……」


 ボロボロになり、教室の壁にもたれているゼロと中村は、蓮に問いかけた。


「お前、そんなESPを持ってたのか? 知らなかった……」

「バッカ。そんな都合いい能力ねーよ」

「え?」

「『DNA鑑定』なんてESP、持ってねえって。嘘だよ、嘘」


 あの場で言ったことは、大半がハッタリである。証拠品のティッシュをパクったりもしていないし、『DNA鑑定』なんて異能を持っている、なんていうのも嘘。すべては、彼らに自白をさせるための狂言だった。


「じゃあ、どうやって犯人を特定したの……?」

「俺の知り合いにそういうのが得意な奴がいるんだよ。だからDNA鑑定したってのはホント」

「え、じゃあ、犯人の特定は……」

「それも、そいつがな」


******


 蓮がやったことは、風紀委員が押収していた証拠品のティッシュを見つけること。それを安里に渡された端末にくっ付けると、バーコードを読むような、「ピッ」という音が鳴った。


『オーケー。わかりました。あとは学園のネットワークにクラックして、生徒名簿と……遺伝子コードがわかれば、ちょい、ちょい、ちょい……と。はい、出ました』


 ものの数秒で、犯人は割り出せてしまった。蓮の端末に映るのは、S4の男の1人。


『プロフィールを見る限り、常に4人くらいで行動しているようです。恐らく、他3人も共犯って扱いでいいと思いますよ?』 

「……とりあえず、証拠はあるし、後はどうするんだ?」

『そうですねえ。ひとまず、自白が欲しいです』

「自白? この証拠じゃダメなのか?」

『脱走犯のクズが提示する情報なんて、何の価値もないですよ。それなら、「僕たちがやりました」って犯人に言ってもらえれば、その方が信憑性が高い』

「……叩きのめして吐かせるか?」

『それじゃあダメです』


 暴力で吐かせるのは確かに簡単だ。だが、それでは「暴力に屈してしまい、自白を強要させられた」という構図が成立してしまう。逃げ道ができてしまうのだ。


『だから、彼らがあくまで自分から、何の反省も悪びれた様子もなく、「僕たちがやりましたwウェーイw」みたいな感じで言ってもらえると、とっても助かります』

「何だそれ……」


 そのため、あくまでも彼らの自白を促し、かつ暴力はいけない。そんなミッションを、蓮は命じられてしまったのである。


「でもどうすんだよ。こっち、アイツらがやった証拠、まともに出しても取り合ってもらえねえんだぞ」

『そうですねえ……。じゃあ、向こうにそう言ってもらえるように誘導しましょうか』

「誘導?」

『せっかくの異能学園なんです。そんな感じの異能、でっち上げちゃいましょう』


 考えてみたら、直接見でもしない限り、相手がどんな異能を持っているかなど、わかりはしないのだ。本人の中で完結する異能、と言われたら、それを嘘と証明する方法はない。安里修一は、それを逆手に取った。


 おおよそのシナリオも、安里がその場で考えたものだ。嘘に本当のことを織り交ぜ、真実としての強度を高める。DNA鑑定は本物、その方法は偽物……という風に。


 そうすることで、彼らは思いこむ。蓮は真実を知っている。だが、証明する手段はない、と。結果、調子に乗って自分たちの行為をあっさり白状したのだ。


 まさかそれが、生徒会長に共有されていることなど、全く思わずに。


 蓮たちに対する認識が最底辺のクズなのだ。まさか、連絡先を交換しているなど、夢にも思わない。結果、蓮の冤罪は晴れ、決闘への参加権は復活した。


 そして、最後に。彼らの居場所だが。


「……まさか教室になんていねえよな」

『そうみたいですねえ。あ、場所、ここだ。座標送っときますね』

「おう。どうやって見つけた?」

『どうもなにも……。教員が使ってる周知掲示板に、普通に載ってましたよ? 何だったら、アジトにしてる教室の場所も』


 蓮が彼らの事を「バカ」と呼んだのは、それが起因する。彼らは自分たちがいるアジトを、教師にも秘密の場所と呼んでいたのだ。それが、筒抜けであるとも知らずに。


******


「本当に、おめでたい奴らだったよ」

「……アイツらも、結局は学園の掌の上か」


 そう聞くと、S4の連中も哀れに思えてくる。もちろん、悪いのはアイツらだが。


「……さて、と。じゃ、行くかぁ」


 のそりと立ち上がると、ゼロと中村も、よろよろと立ち上がる。それを見て、蓮は目を細めた。


「……休んでろよ、けが人ども」

「そういうわけにも……行かないよ」

「代表の俺がいかなくて……誰が勝利宣言するんだよ」


 どうやら、無理やりにでも着いてくるつもりらしい。こいつらも大概バカだ。


「……好きにしろよ、もう」


 そうして蓮たちは、ケガ人のペースに合わせてゆっくりと歩き出す。蓮が叩きのめしたのは3―Eクラスの精鋭たち。そんな奴らを全滅させられて、彼らに戦意は残っていなかった。


 教室に赴くと、すでに3―Eの代表生徒が、土下座で待ち構えていた。縦ロールの髪の、いかにもお嬢様という感じの女子生徒である。


「……お願いします、勘弁してください。どうか、殴らないで……!」

「バカ。殴るかよ」


 蓮は土下座する女子生徒の前にしゃがみ、伏せられた顔ににじり寄った。


「――――――殴ったりしたら、死んじまうだろうが?」

「ひっ……!」


 顔を上げることもできないほどの恐怖に、女子生徒は身体を震わせる。


 そのまま蓮たちが勝利宣言をして教室から帰った後も、彼女は丸1時間、土下座の体勢から動くことができなかった。

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