16-ⅩⅩⅢ ~逆転の裏側~
――――――それは、少し前の事。
3―Cクラスの代表を含む、イケメンの男子生徒たち。学園内ではアイドル的な存在であり、異能の実力も高い、まさに勝ち組であった。
「いやぁ、頑張るねえ。生徒会長の幼馴染クン」
「でも、時間の問題だろうな」
「こんなクズどもに時間かけちゃって。やっぱりE組もゴミだよね」
「そーそー。俺たちだったらこんな奴ら、一瞬で皆殺しにできる」
4人の男子生徒。その知名度から「
「……つーかさ、ぶっちゃけ俺たちなら、生徒会長もヨユーだと思うんだけど」
「言えてる言えてる。最強っつったって、所詮女だもんなぁ」
「女なんてさ、ちょっと骨抜きにして痛い目見せたら、コロッと落ちるもんな?」
「はっはっは!」
顔の良い彼らは、今まで女に困ったことはなかった。いや、金に困ったこともない。圧倒的なESPで、弱者から搾り取ってきた。それは、この彩湖学園に来てからも、何も変わってなどいない。未成年だろうに酒を煽りながら、ゲラゲラと笑っていた。
「……つーかさ、ぶっちゃけ、俺らなら
「うん、それマジな」
「所詮1―Gのカスだろ? 俺らに負けるドーリねえって!」
「へー、そうかぁ」
「はっはっは! ……ん?」
高笑いした男が、違和感に振り向いた。なんだか、一つセリフが混ざっていたような……。
そこには、赤いとげとげした髪の男が立っていた。
その姿を、S4は知っている。学園新聞で見た、凶悪犯の姿だ。
「……紅羽、蓮……!?」
「よぉ。楽しそうだな。昼間から酒盛りか」
「ど、どうしてここが……!? センコーも知らない、俺たちの秘密の場所だぞ!」
「秘密の場所、ねえ……」
蓮は失笑してしまった。結局こいつらもガキンチョか。
「……で、凶悪暴行犯の紅羽くん。一体、何の用でここに来たのかな?」
「誰が凶悪暴行犯だ」
そう言って、蓮はじろりとS4を睨む。全員ピクリとは動くが、まだ事を構えるつもりはないらしい。
「俺ぁ文句言いに来たんだよ。テメーら……よくもハメてくれたな」
「ハメる? 僕たちが? 君を?」
4人は顔を見合わせて、そして――――――爆笑した。
「はははははははは! 何をバカなこと言ってるんだい、そんなことあるわけないじゃないか!」
「言いがかりも甚だしいよ! いくら僕たちが人気があって、君たちが落ちこぼれとはいってもさ、暴行までこっちのせいにしないでほしいな!」
「バカはおめーらだろ。……いや、マジで.バカだろお前ら」
蓮の言葉に、笑っている4人のうちの1人が、すっと真顔になる。
「……さっきからバカ、バカって。それしか言えないのかい、君は?」
「お前らに対して、バカ以外の言葉が見つからねーんだよ」
そうして、蓮は制服の内ポケットから、袋に入れられたものを4人に見せつけた。4人はそれを見て、目を丸くする。
それは、丸められたティッシュだった。
「……何だそれは」
「拭いたんだろ? これ使ってよ。それ以外に理由がないもんな」
「な……何を?」
「決まってんだろ。お前らが垂れ流した精子だよ」
あの場に、ティッシュはあったが、ゴムはなかった。つまり、犯人はおそらく、避妊なんぞしていない。まあ、強姦するのに避妊を気にする奴は、あまりいない気もする。
「自分の種を現場に残すとか、バカ以外の何だって言うんだよ」
「な、何言ってるんだ! そんなの、俺たちが使ったティッシュなんて保証はどこにも……!」
「風紀委員の施設に押収されてたからな。証拠になると思って、脱走した時にパクってきた」
蓮の言葉に、S4は少し黙る。だが、すぐに1人、眼鏡をかけた男が、眼鏡をクイと動かして返してきた。
「……そのティッシュに、僕らの遺伝子情報が入っているって? そんな証拠、どこにあるんだい」
「そうだよ。ただのティッシュじゃ、証拠にはならないぞ!」
「あー、そうだな。DNA鑑定でもしないと、わからないだろうな」
蓮はティッシュを袋から取り出すと、ぐっと握り占めた。その様子に、S4はぎょっとする。
「――――――そこでもう一つ。お前らがバカなのは、俺をハメようとしたことだ」
「何?」
「俺のESPな。――――――『DNA鑑定』なんだわ」
ESP『DNA鑑定』。それは、触れたものの遺伝子情報を読み取ることができる異能力である。遺伝子情報が入っている者に触れれば、その人物がどんな顔をしているのか、瞬時にわかるのだ。
だが、わかるのはあくまで顔だけ。名前もわからないし、何だったら顔も、整形なんかされてしまってはわからなってしまう。便利なようで、意外と使い道のない能力であった。それゆえの、1―Gクラスである。
「お前ら、有名だからな。ティッシュ触って、すぐにわかったよ」
「お、お前……!」
「う、嘘つけ! お前の身体能力が、ESPじゃないわけないだろうが!」
「ああ? こいつは自前だよ」
実際、こっちの方が嘘だと思う。だが、こればっかりは本当の話なのだ。
「……さぁ、どーする? 何だったら、本当にDNA鑑定してもらってもいいんだぞ?」
蓮はただ、ジロリとS4を見つめる。彼らは互いに見合い、すぐに構えを取った。どうやらやる気らしい。
「――――――いや、いい。ここは異能学園だ。そんなしょぼくてピンポイントな能力も、ないとは言えないからな」
「……その口ぶりだと、もう隠す気ないんだな?」
「ああ。そうさ。俺たちが、あの女子生徒を犯した。お前に罪を擦り付けて、決闘への参加をできなくするためにな」
言いながら、彼らの手にはオーラがたまっていく。そういうタイプの異能か、と蓮は思うが、いまだに突っ立ったままだった。
「……それに、ちょうどよかったんだよ。あの女、巨乳だったろ? 前からあの乳を揉みしだいてやりたいって、思ってたんだ」
「ああ。俺も、あの胸を好きにしてやろうって、ずっと思ってた。……その時のティッシュが、きっとまぎれちまったんだな」
「今度から、輪姦するときはゴミ袋も用意しとかないといけないね」
「まあ、あの子も良かったろ。俺たちみたいな勝ち組で、処女卒業できたんだからさ」
「痛い痛いって、泣いてたけどな! ははは! 嬉し涙か!」
聞いているだけで外道である。蓮はため息をついた。こんな連中は、どこにでもいるものなのか。世も末だ。
「……それで? 真実を知った紅羽くんは、一人冤罪を掛けられた復讐に来たと?」
「何でそう思う?」
「だって、君みたいなクズの言うことを、誰が聞いてくれるって言うんだい! 周りはみんな、僕らの言い分を信じるに決まってるさ!」
高笑いするイケメンたちに、蓮はため息をつく。なんとも哀れな。哀れすぎて涙が出てきそうだった。
「……ほーう、そうか。まあ、そりゃそうだわな」
「あ?」
首を傾げるS4に対し、蓮は内ポケットから、もう一つ何かを取り出す。
それは、通話中のスマホ。通話相手は――――――『
「だってお前らがやったんだもん。やった本人が言えば、嫌でも信じるよな」
*****
スマホから真実を聞いた
先ほど蓮から電話がかかってきたときは、たいそう驚いた。確かに宣戦布告の時、電話番号を交換したのだが、かかってくるとは本人も思ってなかった。
『ちょっと今からスピーカーにするから、聞いててくれるか』
「え!? 何を言って……!」
などと言っていたら、聞こえてきたのは。
『――――――ああ。そうさ。俺たちが、あの女子生徒を犯した。お前に罪を擦り付けて、決闘への参加をできなくするためにな』
聞こえてきた別の男の発言に、生徒会室は騒然とした。
「……今の声、S4……!?」
「アイツら……! なんてことを……!」
驚く書記と会計に対し、ミチルの行動は素早かった。これにより蓮が何を自分に求めているのか、瞬時に判断したのだ。
「――――――風紀委員と放送委員に通達! 紅羽蓮が冤罪だったこと、および生徒会長権限において、彼の決闘への参戦権の復帰! これを、学園全体に至急通知せよ!」
「は、はい!」
生徒会長の号令に、役員たちは慌ただしく動き出した。そして、副会長の
「ライカ。……頼めるか」
ミチルは天竜に、スマホの画面を見せる。サービスたっぷりで、GPSまで表示されている。
「――――――わかった」
副会長、天竜ライカは、ズシンズシンと足音を立てて歩き出す。その背中を見送り、少ししてミチルはふぅ、と息を吐いた。
(……ゼロの奴、まさか……)
こうなることを見越していたのか。そして、蓮が戻ってくるまで、たった2人で耐え凌いで……。
『全校生徒にお知らせします。生徒会長権限により、1―Gクラス、紅羽蓮くんの決闘参加権が復活いたしました。只今より、紅羽蓮くんが決闘に参加いたします。繰り返します。生徒会長権限により――――――』
そう思っていたところに、先ほど指示したアナウンスが鳴り響く。
同時に、テレビに映っていた3―Eによる蹂躙が、紅羽蓮による蹂躙へと変わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます