16-ⅩⅩⅡ ~中村の意地~
中村のESPは、「肩代わり」という能力だった。文字通り、任意の対象の何かを肩代わりすることができる能力である。
あまりにも地味すぎる能力。且つESP値も低く、任意の対象は誰か1人のみ。さらに言えば中村自身が肩代わりすることをあまりよく思っていなかったため、威力も低かった。そのための1―Gクラス判定である。
そんな彼は、自分のクラスの代表である
「……お前、まさか……!」
唖然とするゼロの前で、中村の全身から血が噴き出す。先ほどの異能の集中攻撃、そのすべてのダメージを、ゼロから肩代わりしたのだ。
ふらりと倒れそうになる中村だったが、それでも彼は決して倒れなかった。膝を押さえて、無理やり背筋を伸ばす。
「……やっぱり、痛いなぁ。こんな能力、一生使いたくないと思ってた……」
誰かの痛みを引き受ける能力。そんなものバカバカしい。
誰だって、自分の身が可愛い。自分が痛いのも嫌なのに、他人の痛みを自分が受ける理由が、中村にはわからなかった。正直、今だってはっきりとはわかっていない。
だが。
「――――――お前らは生きていても何にもならない! 社会のゴミどもが!」
誰かの役に立たなければ、生きている価値などない。そして、勉強も運動もできない自分が役に立つと言えば、誰かの痛みを引き受けることだけ――――――。
だが、痛いのは嫌だ。自分が痛いのなんて……。
そんな矛盾が、中村の中でずっとぐるぐると渦巻いていた。
だからこそ、
しかし、蓮はいなくなってしまった。革命など、できるはずもない。
だが、ゼロは責任として、一人で戦場に向かってしまった。
中村は、動き出すことができなかった。彼の革命の真意を聞き、揺らいでしまったから。
1―Gクラスはクズどもの集まりだ。最初から参加しなかった以上、後ろめたさからずっと、他の生徒は革命に参加はしないだろう。何より、勝算などない勝負には乗れない連中だ。それは中村も同じである。
だが……。
「――――――でも結局、痛かったよ。君を、見殺しにするなんて……」
「……何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
3―Eクラスの生徒が、異能で中村を吹き飛ばした。中村のしょぼいESPとは比べ物にならない、強力で攻撃的なESP。荒れ狂う風に、中村は吹き飛び、全身を切り刻まれる。
「中村! ……ってめぇ!」
ゼロは怒りに任せて、風を放った生徒を殴り倒した。しかし同時に、別の生徒から大量の攻撃を受ける。――――――が、ゼロにダメージはない。中村が、彼へのダメージを肩代わりしていたからだ。
「もういい、やめろ中村! お前、こんなの肩代わりしていたら、本当に死んじまうぞ……!」
「……がはっ……! ダメだって、君が、倒れたら……! 革命は、本当に終わっちゃうだろ……!」
全身ズタボロになりながらも、再び中村は立ち上がる。立っているのがやっとだったが、その目は決して死んでいない。
「代表が……! 倒れたら……! 決闘は、負け、なんだから……!」
「中村、お前……!」
「……さっきから、鬱陶しいんだよ! このクズどもが! さっさと倒れろ!」
業を煮やしたのか、3―Eの生徒たちは、2人を囲んで叩き始めた。圧倒的なESPで叩き潰す快感よりも、直接痛めつけなければ気が済まない。そんな苛立ちが勝ったのだ。
「ぐうううううううっ!」
歯を食いしばりながら、ゼロはエリートを引き倒し、逆に殴り倒す。そして、中村を襲っている連中にも掴みかかり、殴り合った。
「バカが! この数相手に、たった2人で勝てるわけねえだろうが!」
上から押さえ込まれ、顔を踏みつけられる。だが、ゼロはなおも鋭く、睨む。そうするしかできなかった。
終わりだ。中村も一瞬の盾にはなったが、もう動けない。あとは代表のゼロが、量も質も上の異能者たちに嬲られるだけ。テレビで中継を見ていた者たちは、それを確信していた。
だが、中村も、目は最後まで死んではいなかった。
「……勝て、るさ」
「何?」
「僕は臆病のクズなんだ。ただの罪悪感だけで、こんなことなんて、できない……」
「何だと?」
「勝ち目のない勝負なんて、乗ったり、しないんだ……!」
中村の言葉に、彼の身体の上に座っていたEクラスの生徒は、顔をしかめた。
まるで今から勝ち筋があるかのような言い方に、イラっとしたのだ。
――――――それと同時に、校内放送のアナウンスが鳴り響く。
『……全校生徒にお知らせします。生徒会長権限により、1―Gクラス、紅羽蓮くんの決闘参加権が復活いたしました。只今より、紅羽蓮くんが決闘に参加いたします。繰り返します。生徒会長権限により――――――』
「……は?」
中村の上に座っていたEクラスの生徒は、アナウンスの意味が理解できなかった。
だが、理解することはすぐにできた。
鬼のような形相の赤いとげとげ髪の男に、頭を掴まれたからだ。
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