9-ⅩⅩⅦ ~文化祭中止宣言……!?~
「――――――宇宙生物?」
「ええ。そうなんですよ。信じられないかとは思いますが」
「信じられるわけないでしょう! そんな話」
桜花院女子特進科校舎、理事長室。そこに、3つの人影があった。一つは、安里修一。
もう二つは、文化祭実行委員長の白詰草四葉、そして桜花院女子理事長の染井桃子だ。いきなり個人の携帯に連絡が来て、この場に呼び出されたのである。
「そんなものが、この学園内にいるって?」
「その可能性があります」
「……だから、文化祭を中止しろと?」
委員長は、強い軽蔑の意思を明確にして安里を睨みつけた。
「……荒唐無稽にもほどがあります。どう考えたってあり得ない!」
「確かに、にわかには信じがたいね……」
「……ま、こっちとしてもはっきりしたエビデンスがないのが心苦しいですがね」
安里は肩をすくめた。唯一エンヴィート・ファイバーを探知できるEサーチャーは、絶賛行方不明中だ。彼には、宇宙生物の存在証明ができなかった。
(まあ、論点はそこじゃない。問題はそれで文化祭が中止になってしないといけないという事)
桜花院女子文化祭、「桜花祭」はこの学園の一大イベントだ。それを中止させるというのは、なかなかに説得の骨が折れる。
「……さては、勝負をうやむやにする気ね?」
「はい?」
「普通科の出し物が特進科に勝てないから、勝負そのものをなくすつもりでしょう!」
指をさして喚く委員長の言葉に、安里は思わず面食らってしまう。なるほど、そう言う捉え方もできるか。
おそらく彼女の意識は、普通科、そして自分への対抗心だろう。自分が絡んだ時点で、彼女を説得するというのはより厳しくなってしまった。なにしろ、「VS安里」という色眼鏡を、常にかけているのだから。
たかがテストの点で負けたくらいで、こうも人を恨めるものか。逆に感心すらしてしまう。
(とはいえ、今その感情は邪魔ですねえ)
笑顔の裏で、こっそり背後から「自分」を伸ばす。そして、委員長の後ろにスタンバイ。あんまりやりたくないが、最終手段として「侵食」してしまえば、中止させること自体は簡単だ。
とはいえこれは最終手段。対話で解決できるのなら、それに越したことはないのだ。
「……実はいま、紅羽蓮さんがこの学園内にいます」
「何!?」
安里は取っておきのカードを出した。この学園内に於いて、紅羽蓮の名は警戒レベルを引き上げるには十二分の威力を発揮する。
「安心してください、意識がない状態です。……件の宇宙生物にやられてね」
「……あの、紅羽を……?」
理事長の顔を、冷や汗が伝う。彼女は蓮の凄まじさを、その目で見ていた。
「宇宙生物かどうかなんてのはどうでもいい。とにかく、あの蓮さん以上に凶暴で危険な生物が近くにいる。それで、十分ではありませんか?」
「……そ、それは……!」
「はいこれ、証拠」
食い下がる委員長に、安里はスマホで気絶している蓮を見せた。さっき写真に撮っておいたのだ。
「……本当か?」
「ここまで疑わると、さすがに傷つきますよ?」
未知の宇宙生物より、やはり既知の最強だな。そう思いながら、安里は内心ほっとする。
「考えて、いただけますね? こっちだって、何も好きでこんなこと頼んでるわけじゃないんですよ。心苦しいんです、ホントにね」
理事長はしばらく、じっと考え込んでいた。委員長は、焦るように安里と理事長を交互に見ていた。
彼女の立場的に、ここで文化祭を中止したくはないのだろう。いや、それは当然か。ただ、理由がどうあれ伝統イベントが失敗したとなれば、キャリアが傷つくのは間違いない。
「り、理事長……?」
「……紅羽蓮の事を、委員長はどれだけ知ってる?」
「え? ……校舎を破壊したとは……」
「素手で、と言うのは?」
「へ?」
蓮が危険と言うのは確かに学校を破壊したことだ。だが、どうやって破壊したのかは案外知られていない。というか、素手で校舎を破壊したと認識する方が、普通どうかしている。
「そんな奴が、あんなざまになっているというのを、私は見過ごすことはできないな」
「……じ、じゃあ……!」
委員長の顔が絶望に染まる。理事長は顔を伏せたまま、頷いた。
「……文化祭は、中止―――――――」
「待ってください!」
言いかけたところに、理事長室に声が飛び込んできた。
その声に3人が振り返ると、入り口に二人の女子生徒が立っている。
息を切らして立つのは、立花愛とエイミー・クレセンタだった。
「……あれえ!?」
せっかくいい感じに中止の方向に持って行きかけてたのに。
予想外過ぎる邪魔者に、安里は驚きを隠すことができなかった。
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