1-Ⅺ ~突入、桜花院女子高~

「それじゃあ、行ってきます!」

「気を付けてくださいね。蓮さんも、護衛お願いしますよ」

「わかってるよ」


 翌日の午前8時。安里探偵事務所から蓮と愛は、桜花院へと登校を始めた。最寄り駅は同じなので、多少は距離が近い。そのため、出る時間もいつもより少し遅かった。


「何より、電車乗らないので痴漢もありませんしね」


 などと安里は言っていたが、速攻で朱部に頭をはたかれていた。愛はその様子に苦笑いするほかない。


「安里さんって、いっつもあんな感じなの?」


 昨日夜に話をしたからか、二人の距離感は少し縮まっていた。


「ん? ああ、いっつもへらへらしてやがる」

「朱部さんもよくできますよね。あんな人(?)の頭を叩くなんて……」

「むしろツッコミ待ちだからな、ああいうこと言う時」

「へえ……」


 そうこう言っているうちに、周りの生徒が女子ばかりになってきた。それに、やたらと高そうな車が、さっきから自分たちの横を通り過ぎていく。


「どいつもこいつも車登校とは、贅沢なこって」

「本当にね。って言いたいところだけど、しょうがないんじゃないかなあ……」


 愛がそう言った先には、長い長い上り坂の先にちょこんと見える校門。ここを上らないと、学校には辿り着けない。少なくとも、か弱い女の子が昇るにはきつそうだ。


「……何だこりゃ。お前、これいっつも歩いて登ってんの?」

「うん。普通科の子は大体そうだよ」


 という事は、今歩いている連中がそうか。それで、特進科のお嬢様は車で悠々と登るわけだ。貧富の差が登校時点で現れている。蓮はなんだか悲しくなった。


「じゃあ、行こうか」

「おう……」


 愛は特に気にした様子もなく、ぐんぐんと坂を上っていった。蓮も別に疲れたりはしないが、彼女に合わせて登っていると、かなりの数の女生徒を追い抜いている。


「結構ペース早いのな、お前」

「昔剣道やってたことあって。運動してたから……」


 そう言えば、安里がそんなことを言っていたか。それにしても、かなり運動神経はいいのではなかろうか。

 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから車が走ってきた。それは蓮たちの少し前で止まると、窓が開いて、中から顔が現れる。


 金髪のロングヘアーに同じく金色の目。そして、世間一般では美人だろうと言われる顔立ち。そんな女が、愛たちの方を見据えた。


「あら、おはようございますわ、立花さん」

「あ、平等院さん」

「平等院?」


 平等院、と呼ばれた彼女は、愛と蓮を交互に見据える。


「……こちらの殿方は何ですの?」

「紅羽蓮さんって言って、私の護衛をしてくれる人」

「護衛?……ああ、例の痴漢ね?」

「ちょっとそれどころじゃなくなってきちゃって……」


 そこまで言い、愛の表情が曇る。気丈にふるまってはいるが、昨日は山のように事件が動いているのだ。そのせいで、ほとんど朝まで話し込んでいた。


「ふうん。庶民が護衛なんて、いかがなものかと思いますけど。まあ、事情が事情ですし、仕方ないですわね」


(おい、なんだこの女)

平等院十華びょうどういんとおかさん。特進科なんだけど、1年生の頃は同じクラスだったの)


「何をお二人で話していますの……あら?」


 十華は不満げに顔を寄せると、蓮の方を向いた。


「……なんだよ」

「……あなた、お名前は?」

「あ? 紅羽蓮、だけど」

「へえ。紅羽……ま、覚えてあげても良いですわ」


 出しなさい、という声とともに、そのまま十華は学校へと向かってしまった。


「なんだあれ?」

「さあ……平等院さん、あんまりほかの人には興味ないはずなんだけどなあ」

「興味ない?」

「まあ、特進科のお嬢様って結構嫌味言ってくる人多いんだけど。あの人は私くらいだよ。他の人には見向きもしないって」

「お前、それ……」


 どう考えたって「愛のみを狙う特定の人物」で「お金持ち」じゃないか。現状を考えれば、怪しさ満点の最有力候補である。


「いるじゃねえか、特定の奴!」

「で、でも、恨まれるようなことはしてないよ……?」

「ホントかよ。気づいてないだけじゃないだろうな?」

「そんなこと……」


 ない、と言い張る愛の周囲の気配を、蓮は感じ取っていた。


 お嬢様だけではない。周りの、それこそ普通科の連中も、愛から少し距離を置いている。

 最初は自分がいるから、と思っていたが、そういうわけでもないらしい。


(こいつ、元々嫌われてるんじゃ……?)


 しかし、何とも腑に落ちない。性格が悪い、というわけでもないだろうし、コミュニケーションだって普通に取れていた。現状、この女が嫌われる理由を、蓮は知り得ない。


「……昔なんかやらかしたとか?」

「ないよ!? 全くないから!」


 強く言い張る愛に、蓮は少々気圧された。

 本人が全く自覚がないとなると、周りに聞くしかないわけで。

 とはいえ愛の側を離れたら、何されるかわかったものでもない。というか、一緒にいる自分を巻き込もうとしてくる可能性の方が高いのだ。


「こりゃあ、聞き込みするってのも苦労しそうだわ……」


 普通ならわけのない上り坂だったが、蓮の足取りは心なしか重たかった。


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――――――小説をご覧いただきありがとうございます。


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蓮「何でこんなところに学校建てたんだよ。通学きつすぎだろ」

愛「それは私もホントにそう思う」

安里「調べたところ――――――土地代が安かったみたいですよ?」

蓮・愛「「すっごい切実な理由!!」」

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