11-ⅩⅩⅦ ~ライブ後センチメンタル~
「えーーーーーーっ!? 蓮ちゃん、寝てたのぉ!? ラストで!?」
「しょうがねえだろ、疲れてたんだよ、こっちは」
蓮の大失態を聞いた京華は、思い切り彼をどついた。
ライブは終わり、観客は皆帰った後。蓮と安里は、楽屋にてDCSの3人にねぎらいの声をかけに来ていたのだが。
「何やってんだよ!」
「いってえ! やめろよ、こちとらケガ人なんだぞ!」
「……ケガって、いったい何したらそうなるのさ……?」
「うるっせえな、色々あるんだよこっちには」
「ねえ蓮ちゃん、それで……園長先生は……?」
香苗の問いかけに、先ほどまで悪態をついていた蓮が、黙って首を横に振る。
「顔出すのはやめとくってさ」
「……そう」
*******
少し前。帰る観客に紛れ、園長夫妻と蓮たちがドームの外に出ると。
ドームの入り口に、車が止まっていた。そこには、蓮の顔を見て顔を引きつらせている、中年の男がいる。警視庁怪人特課の刑事、水原であった。
「おー。お勤めごくろーさん」
「……そちらも、ご協力感謝ですわ。……で?」
水原は、園長を見やった。園長は、黙ったまま頭を下げる。
「……犬飼と、言います。この度は……」
「あー、待った。こんなところで聞くのもなんです。……行きましょうか?」
他の帰る客もいる。水原が車に乗るのを促すと、犬飼は後部座席に座った。副園長はおろおろしていたが、彼女も、水原とともにいた兼守に促され、共に車に乗る。
「……蓮くん」
「あん?」
車の窓を開けた園長が、蓮に呼びかける。
「……香苗ちゃんに、伝えてくれないかい?」
*******
「心の底から、応援してるってさ」
「……犬飼園長……」
「いい人じゃん! かなっちのライブ、見に来てくれるなんてさ」
「……うん、そうだね……!」
香苗の目からは、涙が溢れていた。
京華とアザミを含むほかのメンバーは、園長が殺人犯であったことは知らない。真犯人は、おそらく適当な犯人像をでっちあげることになるだろう。
真実を知っているのは、香苗だけだ。
「にしても、信じらんない! 私たちのライブ、最後の最後で寝るとか!」
「……そんなに疲れてるなら、無理に来なくてもよかったんだよ? 別に……」
「うるっせーな。来たんだからいいじゃねえか」
「……にしても、紅羽くん、香苗推しだったんだね」
「あ?」
アザミが言う言葉で、蓮は気づいた。
そういえば俺、あのTシャツのままじゃん!
「あ、いや、これは……!」
「わかってるって。幼馴染だもんねえ? 気を利かせちゃってぇ、このこの」
京華がニヤニヤと笑いながら、蓮の右肩をつつく。肩に穴が空いているからマジで触ってほしくないのだが、この状況でそんなことを言えるわけもない。だまって、口を紡ぐしかなかった。
「……で、どうだった? 私たちのライブ!」
「あ?」
「いくら寝たって言っても、途中までは見てたんでしょ?」
「あーアレか……お前らなあ、かくし芸大会じゃねーんだから」
「え、私ブレイクダンスは小学校からやってるよ?」
「私も。弟がドラム始めたから、便乗して……中学くらいからかな」
お前もかい。つーか、それも弟絡みなのか。
「で、誰が一番良かったの? 蓮ちゃん的には」
「三者三様過ぎるだろ。決められるかよそんなん」
蓮はそう言って、楽屋から去ってしまう。そろそろ香苗たちも退去の時間だ。
「では皆さん、本日はお疲れさまでした。3日ほどですが、オフにしますので、しっかり休んでください」
「「「はい!!!」」」
路場に言われ、3人は元気よく返事した。先ほどまでライブをしていたというのに、大したスタミナである。
香苗たちがドームの裏口から出ると、蓮が待っていた。
「……じゃ、かなっち! 私たち、親が迎えに来てるから!」
「私も。じゃ、また事務所でね」
「あっ……うん!」
アザミと京華が立ち去り、2人きりになると、蓮はわざとらしく首を回した。
「……帰るか」
「うん……」
徒歩ドームから蓮たちの家のある床田町は、結構遠い。タクシーを使おうかとも思ったが、眠気覚ましに駅までくらいは歩くことにした。
「……あー、いってぇ」
「ケガ、大丈夫なの?」
「心配すんな。そのうち治る」
ライブも終わったので、隠す必要もない。さっきから、眠気はするのに肩は痛くてたまらないという、最悪の矛盾を抱えていた。おかげで気分は最悪だ。
「……園長先生は……」
「行っちまったよ」
「そっか。悪い事しちゃったな」
自分が「アイドルを目指している」なんてことを、口走ってしまったばかりに。優しかったあの人は、怪物になってしまった。
「でもそうじゃねーと、お前あのオッサンに膜破られてたろ」
「ま、膜って……! デリカシーないよ、もう!」
そのおかげで香苗の純潔が守られたのも、まぎれもない事実だ。そう考えれば、園長が怪人になった意味はあったのかもしれない。
もちろん、殺人なんぞ許されることではないし、その罪は償わなければならないだろうが。
「どうなっちゃうんだろうね、幼稚園とか……」
「さーな。そこまで面倒見れねえよ、俺は」
「……そうだよね……」
2人の口数は、少ない。京華やアザミが期待していたような、そんな雰囲気ではなかった。
結局、駅に着いて互いの家に着くまで、2人は無言だった。
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