12-ⅩⅩⅩⅣ ~開催、オータムフェス~

 そうしてやって来た、「てくてくロードオータムフェス」。結構大々的に宣伝していたからか、結構な人が集まっていた。それに、駅で降りた人も、何らかのイベントの気配に気づいてか、商店街を回っている人もいる。


「おー、結構にぎわってんな」

「ね!」


 蓮と愛も、今回は一お客さんとしての参加であった。とはいえ、今回のイベントに一役も二役も買った身、色々なサービス券をたっぷり松から用意してもらっての参加である。


「アイツらも来ればよかったのにな」

「夢依ちゃんが、人混み苦手だからねえ」


 まあ、散々試食もしてたし、食べることについては問題ないだろう。飲食店組合のほかにも、色々と屋台が並んでいるようなので、おやつにも事欠かないが。


「――――――あ、紅羽さん!」

「ん?」


 後ろから呼ばれて振り返ると、ゴリラのような顔の大柄の男が立っていた。


「うわああああ! ……あれ?」

「お久しぶりです、路場ろばです」


 デカいが物腰丁寧なこの男は、芸能事務所「スタンドアップ・プロダクション」のプロデューサーを務める路場という男だ。蓮たちは以前、彼に依頼されたアイドル絡みの殺人事件を解決したことがある。会うのはそれ以来だ。


「びっくりした……! いきなり声かけんなよ、ビビるだろうが!」

「はあ、すみません。その、特徴的な髪型と色だったので、つい」

「……ったく……。何してんだ、こんなとこで」

「このイベント、うちの事務所も協賛してるんですよ。ほら」


 路場が指さす方を見ると、イベントブースに設置された舞台で、女の子が2人歌って踊っているのが見えた。


「あれか?」

「はい。うちの新ユニット『ピス☆トル』です。これ、デビューシングルです」


 手渡されたのは、1枚のCD。ステージにいる女の子の写真と、サインが書かれている。曲名は「打ち抜き☆バンバン」。


「……あー、その、何だ。アイツらは、元気にしてんの?」

「はい。DCSの皆さん、紅羽さんには、いたく感謝しています。今日は東京での仕事で、忙しくて来れませんでしたが……」

「……ま、忙しくしてんなら何よりだ」


 蓮はCDをカバンにしまうと、アイドルブースから離れる。


「あ、香苗さんから伝言です! 『アイドルはやっぱり楽しい』と!」


 路場の叫びに右手を上げた蓮は、愛と一緒に人混みの中に消えていった。


******


 蓮と愛がひとしきりイベント会場をぶらぶらしていたのは、何もデートというわけではない。とある人物を探していたのだ。


「……あ、いた!」


 探していたのは、美味よしみ真保まさやす。腕にギプスを着けていたので、目立ってすぐわかった。彼は商店街のベンチに、一人座っていた。


「おい!」

「……ああ、君たちは」


 真保は穏やかにほほ笑んだ。愛が十華の家で会い、最初に受けた印象とは、随分と違う。だいぶ丸くなったもんだと、彼女は思った。


「ホントに来てたのか。一人で?」

「いえ。あちらに」


 顎で示す方向を見ると、飲食スペースで楽しそうに話しながら、ご飯を食べている母子がいる。母と、息子と娘の3人。そのうちの一人は、蓮たちも見覚えのある顔だった。


「あれ、アンタの家族か」

「ええ。私がいるとどうしても堅苦しくなってしまうので。離れてるんです」


 真保の黙食主義は、過去の強烈なトラウマが原因である。それは、そう簡単に治るものではない。結局、彼は食事の時に会話することはできなかった。

 今、美味家は彼らなりの、食事中の団欒方法を模索している最中だという。自分のやり方に子供を付き合わせるのは、親としてどうなのかと思ったのだ。今は、食事のタイミングをずらすなどして、家族とコミュニケーションを取っている。


「今までは考えもしなかったけど……いつかまた、家族で話しながら食事ができるといいなと。そう、思っています」

「……そうか」

「それ、とってもいいと思います。でも、無理はしちゃだめですよ?」

「……ありがとう、2人とも」


 そう言うと真保は、すくっと立ち上がった。


「――――――さて。そろそろ約束の時間だ」


 真保は家族に話をつけ、ある店へと向かう。それは、蕎麦屋の「更科」だ。蓮たちも、真保についていく。

 ――――――てくてくロード、最初にして最後の大勝負が始まろうとしていた。

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