14EX-Ⅹ ~NTRリベンジャー VS 普通のJK~

 紅羽蓮の魂の中で、火花が散る。閃光がほとばしる。けたたましく、打撃音が鳴り響いている。

 あまりにも激しい騒音に、魂の核にいる蓮は眉をひそめてうずくまっていた。うるさい、早く出て行ってほしい。だが、音を鳴らしている両者がいなくなる気配は一向にない。


「はあああああああああああっ!」


 甲高くも威勢のある声とともに、立花愛はこぶしを放った。

 放たれるこぶしは彼女の霊力の表れか、さながら稲妻のごとき速度と破壊力を誇る。淡い光を放ち、空を切る音が衝撃波となって、蓮の魂の世界を揺らす。


 そんなこぶしを真正面から受けるは、怪人NTRリベンジャー。髑髏の頭に燃え上がる股間という、異様な風体の怪人だが、その強靭な肉体は愛の攻撃をまともに食らっても、吹き飛ぶことはなかった。


 NTRリベンジャーは終始無言であったが、それでも愛に対し、明確な敵意を持っている。握りしめられたこぶしは、女子供にも容赦なく――――――いや、彼の場合は、女だからこそ一切の容赦なく、愛の顔面にカウンターパンチを浴びせた。


 ゴキン! という、骨と骨がぶつかる音。魂だけの世界のはずなのに骨という概念があるのも不思議な話だが、確かにそんな音がした。


 しかし。現実の世界ならば顔面は陥没し、即死していたであろうNTRリベンジャーの凶悪なこぶしは。


「――――――こんなの、全然痛くない!」


 愛の額を、割ることすらできない。そして、間合いが近い愛の右ストレートが、異形の顔面をとらえた。


「―――――――――――――っ!!」


 NTRリベンジャーは黒マントをはためかせ、暗い魂の世界をはるか彼方へと飛んでいった。

 どこまで飛んで行ったかもわからない、そもそも距離という概念がないこの世界。倒れたNTRリベンジャーがいたところは、先ほどと同じく、愛と蓮の魂の核がいるところ。

 よろよろと彼が起き上がるころには、愛はすでに間合いを詰め終わっている。


 しかし、愛は攻撃に転じなかった。ただ、ファイティングポーズをとる。

 彼女の心象風景の表れか、魂の世界に変化が生じ始めた。愛とNTRリベンジャーを囲むように、ボクシングのリングが下より現れる。そこに降り立った2人は、手にグローブを嵌めていた。


「小手調べはおしまい。……来なさい、こっからが本番よ」


 愛はグローブを構えて、NTRリベンジャーを見据える。NTRリベンジャーもそれに呼応するように、戦う構えを取る。

 蓮の魂の核を挟むように対峙する両者。互いにさっきをバチバチに放つ。魂だけの世界なので、放たれるそれは現実世界よりも凶悪で、鋭利だ。

 殺気を放つだけで、愛の身体にはわずかに火傷が生じる。NTRリベンジャーの放つさっきは、炎だ。めらめらと燃え上がる憎悪が、炎となって愛をじりじりと灼く。


 一方で愛の殺気も、負けてはいない。NTRリベンジャーの真っ赤な首筋に、何もしていないのに切り傷ができる。

彼女の殺気は、刀のように、繊細で鋭い。わずかに触れたものでも容赦なく切り裂く。それにしても、いきなり生命の根幹である首を狙うとは、愛の本気度がうかがえる。


互いに、殺気のジャブは十分。互いに現れた傷も、あっという間に治癒している。


 さて、ここからが本番。


 互いの漏れ出ていた殺気が、先ほどとは違う勢いで放たれる。燃え上がる炎と鋭く光る刃がぶつかるとき――――――戦いのゴングが鳴り響く。


 赤い爆炎と白い閃光が、音速を超えてぶつかり合った。


******


 殴打とともに、リングに血しぶきが飛ぶ。それほどの破壊力を伴う惨劇が、蓮の魂の中で行われていた。


 惨劇を起こしていたのは、ほかでもない――――――立花愛である。


 初撃のぶつかり合いと同時、愛は間合いを取ると同時に、体を左右にゆすり始めた。その勢いはまるで振り子のように、揺れるたびにぐんぐんと振れ幅が増す。それに呼応するように、彼女の霊力も高まっていった。


 NTRリベンジャーはぞくりと背筋が粟立つのを感じて、後ろに下がろうとする。しかし、そこはコーナー。逃げる場所はもう、どこにもなかった。


 愛の振り子が最高潮に達した時、破壊の一撃は炎をまとった顔面を容赦なくとらえる。剝き出しの頭蓋骨に何度も何度も、愛はこぶしを叩きつけた。


「ああああああああああああああああああああっ!!」


 猛烈に繰り出されるデンプシー・ロールには、愛の渾身の霊力がこもっている。傍から見れば少女のひ弱なパンチだが、実際の破壊力はとんでもなく重い。

 筋骨隆々のNTRリベンジャーがガードしようにもしきれない、ということが、その破壊力を物語っている。


 言っておくがNTRリベンジャーだって、好きでなされるがままに打たれているわけではない。女相手にも、いや、女だからこそ容赦しないのがこの怪人だ。反撃できるなら、この少女をボコボコにしてズタズタにしてやろうという気概はある。


 だが、できない。そんな余裕はない。この少女から放たれる猛攻は、彼が今まで叩き潰してきた女たちとはパワーが違いすぎる。

 というか、憑りついた男の中に侵入してきて襲い掛かってくるなんて、さすがのNTRリベンジャーだって想像できてなかった。もちろん普通はできない。


 なので、この女は普通じゃない。


 それがNTRリベンジャーの結論であり、かといってこの女に一方的にやられたままでよいかと言われると、そんなことはなかった。


「―――――――っ!!」


 愛のデンプシー・ロールを、NTRリベンジャーは躱した。それは、横によけるのではなく、縦によける回避。つまりは、上体反らしだ。


 振り子の勢いのまま大きくこぶしを振りかぶった愛の身体が、がら空きになる。強靭な腹筋・背筋と脚力(あくまで魂だが)で身体を反らしたNTRリベンジャーは、身体を元に戻す反動でこぶしを繰り出した。


 渾身の霊力を込めたこぶし。この一撃にすべてを賭け、目の前の少女の魂を跡形もなく消し飛ばさんとするため。


 言葉は発さないものの、全霊力を込めているであろう一撃は、数秒のための後に放たれた。右のこぶしに、あふれんばかりの炎を宿して。


 そして、姿勢を反らした状態から戻ったNTRリベンジャーは気づく。


 愛が、いつの間にやら距離を取っていることに。


 デンプシー・ロールからNTRリベンジャーが逃れた瞬間に、愛はもう行動に移していた。即座にデンプシーの回転を止め、後方に下がったのである。

 こんな動きを現実世界でやろうものなら脚の筋繊維がずたずたに引きちぎれそうなものだが、ここは魂の世界。この世界での愛の筋力は、彼女の霊力に依存する。

 そして世界でも随一の霊力を持つ愛にとって、こんな動きは造作でもない。


 反らした身体が耐え切れずに持ち上がるNTRリベンジャー。しかし、愛はまだ打たない。

 真の一撃は、その後。奴の反らした勢いとともに繰り出される、渾身のこぶし。それに、合わせる。


(――――――――――――っ!)


 気付いたNTRリベンジャーだが、もう止まれない。勢いとともに、炎のパンチが放たれる。


 そして。


 落雷のような轟音が、魂の世界に響いた。


 炎のパンチに合わせて繰り出された、愛のカウンターパンチ。

 それは図らずも、JOLTカウンターと同じ形。こぶしだけでなく、全身の力も乗る、驚異の一撃。


 そんな恐ろしいものが、NTRリベンジャーの顔面をとらえたのだ。


 生きていられようはずもなかった。

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