15-ⅩⅩⅩⅦ ~再度防がれる邪神の復活~

 ボーグマンを瓦礫の中から引っ張り上げると、腹から臓物のようにエアバッグが飛び出ていた。その中には、干からびた3人の男がくるまっている。


「あん?」


 引っ張り上げた蓮は首を傾げて、干からびた男の顔を見やった。見覚えがあるような、ないような……と思ったところで気づいた。こいつら、例の霊媒師3人組じゃないか。


「何やってんだ、こんなところで?」

「この感じ……何かに、魔力を吸い取られたんじゃないですかね?」

「何?」


 傍らにいた悪魔に解説を受けて、蓮はさらに首を傾げた。


「なんとかしてやれないのか? お前ら」

「ええ……俺たち悪魔は、魔力に限らず奪うのは得意ですけど……与えたことはないなあ」

「何だよ、使えねえな」

「すんません……」


 ともかく、ボーグマンが落っこちてきたということは、近くに安里もいるのだろうか。こいつはいつも、安里か、その姪っ子の夢依と一緒にしているのを、蓮は知っている。


「……いずれにしても、こいつらも上から落ちてきたってのは間違いないらしいな」


 蓮は上を見上げて、息を吐く。そして、膝をぐいぐいと屈伸し始めた。


「何をするんですか?」

「跳ぶ。コイツ、持って帰らねえといけねえだろうし」

「跳ぶ!?」


 上半身しか残っていないボーグマンと干物になった工口3兄弟を脇に抱えると、また上を見上げた。ゴールが見えないのを跳ぶというのは、いくら蓮でもちょっと怖い。


「ほ、本気ですか!? 地上までどれくらいの高さがあると……」

「……その言い方してもらえると、逆に助かるわ」


 地上までの高さがある。ということは上に跳びさえすれば、地上にたどり着けるということだ。それは蓮にとっては、非常にありがたい話である。何せ、上に跳びさえすれば、どこまででも跳んでいけるだろうからだ。


「……さて、後は跳ぶ場所だけど……」


 蓮は足元をぐにぐにと踏む。足場は少し柔らかい。軽く跳んでみると、それなりに踏ん張りが効きそうな足場だということはわかった。


(……これなら、何とかなるか)


 何せ、落ちてきた場所がここだ。となれば、出口はここの真上にある可能性が高い。だったら、落ちてきたところから、まっすぐジャンプしたかった。


「え、ちょっと、本気でやる気っすか!? ジャンプで!? 地上に!?」

「おう。自分で言うのもなんだけど、俺はマ●オよりも高く跳べる自信あるし」


 よっこいせ、と蓮はさらに大きく屈伸する。


「じゃ、行くわ。ボコって悪かったな」

「え、いや、まあ……」


 悪魔がぽかんとする中、蓮は軽く跳びはねた。

 そして着地と同時、膝を大きく曲げる。


 そして、次の瞬間。


 ドヒュン!! というすさまじい音を立てて、ロボ1機と人間3人を脇に抱えた蓮は、地獄のはるか上空へと矢のように跳んでいった。


******


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 自らの腰を踏みつぶされた邪神は、苦悶の絶叫を上げた。

 かつて生贄の儀式を経て、地獄の最下層から地上へと上り詰めたつい先日。地上へ顔を出した瞬間に凄まじい衝撃を受け、顔どころか全身を粉々にされながら地獄の底へと舞い戻ってしまった。


 それからおおよそ半年。ようやく、粉砕された肉体を時間をかけて再生し、ようやく下半身くらいは再生したばかりだというのに。

 突然腰骨のあたりに何かが大量に降ってきたと思ったら、物凄く嫌な予感がするものも落ちてきた。

 早くいなくならないかな、とずっと思っていたのだが、まさかこんないなくなり方をするとは思わないじゃないか。


 自分の腰骨の上で、蓮は大ジャンプをした。その結果、せっかく再生しかけていた腰骨が、バキっと砕かれた。


 その結果、何が起こるか。文字通り腰が砕けた邪神は、バランスを崩してさらに地獄の最下層へと落ちていく。


「え、ちょっと、何だ!?」

「落ちる! 助けてくれぇえええ!」

「うわあああああああああああ!」


 自分の背中をねぐらにしていた悪魔たちが、悲鳴を上げながら落下していく。

 この悪魔たちも哀れなことだ。あろうことか、自分の背中を地獄の最下層だと思っていたのだから。本当の地獄の最下層は違う。こんなところよりも、もっと過酷だ。


 それにしても、ああ。なんと、何と無念なのだ。


 せっかく地獄を這い上がってていたのに、これでまた一から登りなおしだ。


 いや、その前に、また肉体を再生させなければならないではないか。

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