15-ⅩⅩⅩⅧ ~Fallen Down~
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
地上では、神と邪神化したサキュバス・アイによる、地獄への引っ張り合いが行われていた。地獄の門の吸引に加え、黄金の鎖が地獄の入り口からサキュバス・アイへと絡みつき、入口へといざなう。
一方でサキュバス・アイも、その巨体で神を圧殺すべく、前進しようとしていた。鎖の引っ張る力と、サキュバス・アイの怪力は、ほぼ互角である。
となると重要となってくるのは、周囲のファクターだ。
神サイドは天使たちが鎖を引っ張り、少しでも彼女を地獄へと引きずりこめるように力を込めていた。それに対しサキュバス・アイは大量の「何者か」を発生させ、天使たちの魔力を吸い尽くして止めようとする。
「引っ張る要員を守れぇ!」
「役割分担だ!」
「オーエス、オーエス!」
天使たちは連携プレーで「何者か」の猛攻を凌ぎつつ、鎖を引っ張っていた。というかなんだったら、この鎖そのものも、神が天使たちの一部を変化させたものである。なのでこの引っ張り合いの根幹を担っているのは、天使たちと言っても過言ではなかった。
そして愛たちは完全に、蚊帳の外へと追いやられていた。
「あわわ、どうしよう……!」
世界の終りのような光景に、とてもじゃないが「あれは自分の分霊なので、邪神ではありません!」などと言えるような状況ではない。というか、神なるものが現れているというこの現状、普通の女子高生に何をどうできるわけでもない。
「いやあ、しかし、困りましたね」
「何が?」
「蓮さんが地獄に落ちたってことは、ボーグマンも地獄に落ちたってことですよね。夢依に言ったら怒られるだろうなあ」
「新しいの造ったらいいじゃないの」
「それはそうなんですけどね?」
安里たちももう自分たちの手に負える状況でないことを悟ったのか、適当なところで見物モードになっている。
「……蓮殿は、本当に戻ってくるのでしょうか」
「にわかには信じられませんがね。地獄の最下層って言ったら、悪魔の中でも最高位のものがひしめき合うと言われていますから」
「……でも、あのネクロイ相手にあそこまで余裕で戦えるんだもの。もしかしたらッてことも、十分あり得ますよ」
葉金とエクソシストの2人も、座って体力の回復に努めていた。彼らは途中で「何者か」に霊力を吸われたこともあり、全快の状態とは言い難い。むしろメンバーの中で万全なのは、愛と安里くらいだ。
「……一体、どうなっちゃうんだろう……これ……」
「さて、どうなりますかねえ。……おや」
安里が見たところ、どうやら拮抗も崩れそうである。
「グゥ、ウ……!!」
サキュバス・アイが、少しずつ、本当に少しずつだが、地獄の門へと引きずられ始めたのだ。
「これは……」
「……頭打ちか!」
「え、どういうことですか!?」
「いくら無尽蔵の霊力を持つ愛さんの分霊と言えど、所詮は分霊ですからね。それではせいぜい、邪神くらいが限界ということでしょう」
愛の分霊は短期間ですさまじい成長を遂げた。それは周囲からのイメージの投影もあるが、何より元となった分霊の霊力が桁違いだったことに起因する。
しかし、その進化もここまで。これ以上の成長は、恐らくは見込めなかった。そして、
それでは神と天使たちの総力には、わずかながら及ばない、ということだ。
「――――――ようやく底が見えたぞ、邪神よ!」
「グ……グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
悲痛な咆哮を上げるサキュバス・アイの声は、愛たちの元、安里の持っていたスマホの
翻訳アプリにも届く。受信と解析の音を立てて、彼女の言葉は可視化された。
「
さながらち●かわのようにシンプルな言葉だった。それが逆に、愛には哀れに見える。
やがてどんどんと目に見えて、サキュバス・アイは地獄へと近づいていった。「何者か」たちは抵抗を見せるも、天使たちの連携に徐々に倒れていく。そして、「何者か」を生み出せば生み出すほど、サキュバス・アイ自身の力も削がれていることに、彼女は気づく余裕などなかった。
「今再び、地獄へと落ちよ! 悪しき邪神よっ!!」
まさにとどめを刺さんと、神がより一層強く魔力を込めた。黄金の鎖がそれに呼応するように、急激に地獄へとサキュバス・アイを引き寄せる。
緩急によりバランスを崩した彼女は、物凄いスピードで地獄へと引き寄せられた。
「
決死の思いで抵抗するが、一度体勢を崩された状態では抗うことはできない。奮闘虚しく、サキュバス・アイは地獄へと近づく。
そして。
「――――――行けえええええええええええええええええっ!!」
神と、すべての天使たちの願いを込めて。
サキュバス・アイの身体はとうとう、地獄の門の真上へと到達した。
「あっ……!」
空中に一瞬浮かんだままのサキュバス・アイと、愛は一瞬目があった気がした。その瞳は、悲痛に助けを求めていたようにも見える。真意はわからないが。
愛は、彼女に対し何の言葉もかけられなかった。
そして、黄金の鎖は、今度は下へとサキュバス・アイを引っ張るように動き出す。空中に浮いた彼女に、逆らう手段はどこにもない。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
邪神サキュバス・アイは、何の抵抗もできずに地獄の底へと落下していった。
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