【第2部開始!!】紅羽蓮(あかばれん)は、最強さん。

ヤマタケ

第1話 ガール・ミーツ・最強さん。

1-プロローグ ~世界崩壊への序曲~

 ブラジルのとある町にある廃ビルを、パトカーが囲んでいた。ビル周辺に構える警官たちの武装は、もはや軍隊に近い。ビルの上には報道ヘリが何台も舞い、ブラジルどころか世界中のメディアが注目しているのがわかる。


 廃ビルには、世界的にも有名なテロ組織が、人質を取って立てこもっていた。怪しい邪神崇拝集団であり、今にも人質を皆殺しにし、世界を滅ぼす邪神を召喚しようとしている。その儀式場が、この廃ビルというわけだ。


 そして、今までにも儀式や生贄として大量殺人を繰り返している彼らは、世界的に指名手配される超凶悪犯である。


 そんな教団のテロリストたちは、廃ビルの隙間から外の様子を窺っている。機関銃を構える彼らの人数は3人。


 廃ビルの床には血で描かれた魔法陣が不気味に描かれており、上に数人の女性が魔法陣の線を結ぶように拘束されている。儀式の生贄とするために拉致してきたのだ。


 現在、儀式は最終段階。ここまで進めるのに、数多くの同胞を失っていた。今回も廃ビルに入り込むまでに、10人もの同胞が帰らぬ人となっている。


「なに、彼らの魂は、我らが悲願を果たすことで救われるだろう」

「我らも後を追うことになる。死後の世界で幸福に過ごすのだ。……さて」


 凶悪犯たちはそう言うと、ナイフを取り出した。


「生贄にするには、生きたままはらわたを引きずり出さなければならんのだ。銃ではできないからな」


 そう言いながら、女性の身体へとナイフを押し付ける。


 猿轡をかまされた女性は、金髪を揺らしながら泣きさけんだ。


「そう騒ぐな。神の生贄となるのだから、これほど光栄なことはないぞ?」


 押し付けられたナイフが、いよいよ女性の肉を切り裂こうとした、その時である。

 何かが転がる音がした。

 凶悪犯たちが見たのは、丸い何か。


「しまった! 閃光……」


 いうより早く、まばゆい光が廃ビルの一室を包み込んだ。


 光に凶悪犯と女性たちが目をくらませる中、ゴーグルをつけた特殊部隊がすかさず儀式場へと突入する。


「人質、確保しました!!」

「よし!!」


 特殊部隊のチーフは、凶悪犯たちを確保しようとする。


 しかし、目が見えなくなり、生贄を奪われることを想定していた凶悪犯たちは、すでに覚悟を決めていた。


「こ、こいつら……!! 自分のはらわたを引きずり出していやがる!!」

「ふ、フフフ……我らの魂は、神によって救われる……貴様らは、ほろ、びる……!!」


 凶悪犯の一人が呟くと、3人の凶悪犯たちは揃って何かを唱え始めた。


「な、何のつもりか知らんが確保だ!! 急げ!!」


 特殊部隊の精鋭が彼らを魔法陣から引きはがそうとしても、凶悪犯たちはそこから動こうとしない。

 全身に力を込め、激痛にさいなまれながら呪文を唱え続けた。

 そして抵抗を続けて10秒。

 呪文を唱え終えた彼らは、ふと抵抗をやめた。


「……ダメだ。死んでいる。3人ともな」


 特殊部隊の隊長は、首を横に振った。


「最後に何か言っていたようだが、わかるか?」


「いや、わからん。怪しいカルト宗教だし、福音でも呟いてたんじゃないか?」

「……まあ、そうだろうな」


 隊長は、死体で結ばれた魔法陣を見る。


(こいつらは、一体何をぼうとしていたんだ……?)


 隊長がそれを知る由はなかった。


***********************


「大変です!! ――――――邪神が、地上へ現われようとしています!!」


 地上から遠く離れたところで、頭に輪を浮かべ、背中に羽の生えた男が叫んだ。


「あと数秒で、地上へ顕現します!!」

「なんとしても食い止めろ!! 全天使を動員するのだ!!」

「しかし、神様!! 今、上級天使はみな邪神の眷属との戦いに手いっぱいで、それどころではありません!!」


「ぬ、ぬぬぬ……生贄を得たことでさらに力を増したか……!!」


 神様、と呼ばれた偉丈夫は、長い白髭をさすりながら脂汗を浮かべている。


「顕現の予定地は?」

「日本です!!」

「……あの魔法陣は、地球の反対側の座標へ召喚させるものだったのか……!!」


 天使の言葉に、神は焦った。


「……どのみち、もう間に合わん……!! 最小限に被害を抑えるしか……!!!」

「邪神、顕現します!!! 3、2、1……!!」


 神は、絶望的な状況に目を伏せた。


(世界は、滅びる――――――――――――――――!!)

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