14-ⅩⅩⅡ ~選手交代~
徒歩市郊外での死闘は、陽が落ちるまで続いていた。怪獣1匹VS怪人3人。互いの戦力は、ギザナリアが参戦したことで拮抗していた。
――――――しかし、戦いを続けて、数時間。怪人3人にはあるが、怪獣にはないものが如実に現れて来ていた。
「……ぜぇ、ぜぇ……!」
大剣デストロウムに身体を預けながら、ギザナリアはよろよろと立ち上がった。その後ろでは、カーネルとタナトスの2人も、息を上げながら立っている。一方、怪獣となった紅羽蓮は、全身から熱気を放ち、悠然と立っていた。
「……ちっ……! バケモノめ!」
「まったくだ……かなり痛めつけているはずなんだがな!」
ギザナリアが蓮の攻撃を弾き返すことが出来ることで、3人のダメージ効率は飛躍的に上昇しているはずだった。タナトスの斬撃、カーネルの雷撃。この2つは蓮の動きを止めるには至らないが、体表面の細胞組織を破壊することは十分にできている。
問題は、それがほとんど蓮の体力を削るに至っていないことだ。
対して、怪人側の体力は、限界へと至ろうとしていた。ギザナリアも、武器の大剣デストロウムを握る握力が、かなり弱くなっている。
「まったく、弱体化しているんなら、もう少し叩き甲斐があってもいいんじゃないかね! 俺様でなければ、心が折れてるぞ!」
「そう言うなタナトス。心を折りたくても折れない哀れな女がいるんだぞ」
「やかましいわ!」
軽口を叩き合うくらいはできる……というか、それすらできなくなったら、本当に終わりだ。ギザナリアは緩んだ握力を、無理やり強めて大剣を握る。
眼前の蓮の腕が3人の元へと伸ばされたのを、跳んで躱す。カーネルが雷撃を放とうとして、それを察知した蓮がカーネルへと攻撃目標を定め、尻尾を伸ばす。それを弾き飛ばし、カーネルの大技を食らわせるのが、今までの戦いだった。
だが。
「……! ぐおおおおおおおおおおおおおっ!」
尾を弾こうとするギザナリアの筋繊維が、内側でブチブチと千切れる。そのたびに激痛で表情は歪み、ほかの箇所の筋肉は弛緩していった。
とうとう蓮の攻撃を弾ききれず、ギザナリアはカーネルもろとも、尻尾によって押し潰されてしまう。地面へと叩きつけられた2人は、吐しゃ物をまき散らしつつ、そのまま宙へと浮いた。
「――――――ギザナリア! カーネル! ……っ!」
タナトスが声を上げた瞬間にはもう、蓮のターゲットは彼に移っている。そして、彼の攻撃を防げる者は、どこにもいない。
咄嗟に、全身をブレードで覆うのが限界だった。蓮の握られたこぶしが衝突する。そのサイズは、巨大な岩に等しく、破壊力は岩の直撃とは比べ物にならない。
長い戦いに加え、蓮の身体という恐ろしく硬い物体を切り裂き続けていたブレードが限界を迎えるのに、十分な一撃だった。
無数のブレードはあまねく亀裂が走り、とうとう砕け散る。最悪なのは、蓮のこぶしの勢いは一切衰えなかったことだ。
「……クッソオオオオオオオオオ――――――!」
ガード姿勢のタナトスに、こぶしが衝突する。
「……タナトス!」
「マズい……! アレは、マズいぞ!」
ギザナリアもカーネルも、その直撃に身の毛のよだつ恐怖を覚える。
今まで蓮の攻撃は、尻尾しかほぼほぼまともに食らっていなかった。それは、彼の尻尾の攻撃の方が、まだマシだったからである。
怪獣と化してはいるものの、フォルムは人間に近い。つまり、人間時代の動き――――――紅羽蓮としての本来の武器であるこぶしや蹴りは、本人が一番力を伝えやすい攻撃だ。対して尻尾など、普通人間に生えてはいない。慣れない部位による慣れない攻撃。それは予測不能である反面、さほど破壊力はない攻撃だった
だが、こぶしはマズい。恐らく、蓮が最も慣れているであろう攻撃。力の乗った攻撃に、タナトスの意識は一瞬で刈り取られた。
その威力は、タナトスを徒歩市のはるか後方まで吹き飛ばしてしまった。あっという間に見えなくなった戦友の姿を、ギザナリアたちは呆然と見やる。
(――――――マズいぞ! 戦線が、崩れる!)
単純な話だが、ギザナリアたちの決死の抵抗は、怪獣と化した蓮にとっては「足止め」にすぎない。さほどダメージを食らう訳でもなく、ただ全身を妨げられ、ノックバックによって後方へと引き戻される。そんな程度のものでしかない。
なので、戦力が一人削がれるだけでも、ギザナリアとカーネルにとっては非常に痛手だ。
なぜなら。――――――「
「……っ! こっちに来やがった!」
カーネルの頭上に、蓮が迫っていた。両腕を後ろに引き、連打の構えを伴って。
逃げようと思ったが、長時間の戦闘で体内の雷電も空に近い。回避はできなかった。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
地面が、蓮の巨大な拳で激しく揺れる。その衝撃は、振動で周囲の山を崩すほど。破壊の中心にいる雷霆カーネルは――――――もみくちゃにされ巻き上がった土砂に埋まり、どうなったかもわからない。
「……ちっ! 後は芋づる式ってわけか!」
蓮のギロリとした視線が、山の上にいるギザナリアに向く。案の定彼女を見ても、蓮には何の反応もない。
「……弱くなっててこれとはな。ホントに、普段の接し方考えるぞ!」
もうちょっと、優しくしてあげよう。具体的には、お年玉を30%くらい多めに上げてもいいかもしれない。だってもう年の瀬だ。
蓮のこぶしが、ギザナリアに向かって飛ぶ。ギザナリアはふぅ、と息を吐いて、デストロウムを構える。
「―――――――メリークリスマスだ、蓮ちゃん」
こぶしと、デストロウムが激突する。他2人とは異なり、真っ向からの力のぶつかり合い。そう簡単に吹き飛ばされたりはしない。代わりに、強烈な衝撃波が周囲の山々を破壊していく。
「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
全身の筋繊維が千切れる不快感と激痛が、ギザナリアを襲う。一方で蓮の方は、まるでビクともしない。ただ、圧倒的なパワーを、彼女にぶつける。
――――――限界が来たのは、ギザナリアではなかった。
「……っ! なっ!? デストロウムが……!」
黒曜石の刀身に、ビキビキと亀裂が入る。蓮の巨大な拳を受けているのもそうだが、何よりこの数時間でかつてないほどに酷使しているのだ。どんなに耐久性があろうと、保つはずがない。
(……あん、の……っ! ヤブ科学者……!)
ギザナリアの怒りは、デストロウムを調整した科学者であるDr.モガミガワに向けられる。彼の調整は完璧であり、完全なるとばっちりだったが、壊した蓮本人を怒る気には、どうしてもなれなかった。
蓮のこぶしがいよいよギザナリアに迫る――――――。その瞬間を、まるでスローモーションのように見えた。もう、蓮のこぶしを止める術は――――――。
『――――――いやぁ、良くここまで持ちこたえてくれましたね』
(……アザト・クローツェ!?)
不意にギザナリアの耳に、安里の声が響く。どうやら、気づかないうちにマイクロデバイス的なものを耳の近くに着けられていたらしい。
『選手交代です』
その言葉と同時、迫ってくる拳が、急に遠ざかった。同時に、後方からの風切り音と、何かがぶつかる炸裂音が、同時に鳴り響く。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
見れば蓮の身体が、大きくのけぞっていた。視界の外から、何かに強烈に殴りつけられたかのように。そしてそのまま、仰向けにひっくり返る。
ふらふらとへたり込みながら、ギザナリアは見た。怪獣と化した蓮を吹き飛ばしたものの正体を。空中で急旋回し、後方――――――町の方へと戻っていく、漆黒の巨大な腕を。
ズシン、ズシンと、地面が揺れる。振り返れば、巨大な角を冠した、禍々しい漆黒の巨人が歩いてくるのが見える。
巨人の右腕は欠損していたが、飛んできた腕がくっつき、元通りになる。そしてギラリと、赤い瞳が光り輝いた。
「……アレは……確か……」
アイドル絡みの殺人事件でギザナリアが蓮の日本一周に付き合わされた時。
敵対組織の抗争で試運転すると言っていた――――――。
『――――――お待たせしました。ボーグマン・ギガント・マジン・エディションです』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます