9-ⅩⅩⅩⅣ ~迫る嫉妬の魔女~

 ドローンが最後に捕らえた映像から数秒後、凄まじい轟音が桜花院の校舎に響いた。


「きゃああああああああああああ!?」


 耳をつんざく衝撃が、校舎を駆け巡る。グラグラと揺れる校舎に、学校にいる女生徒たちは、思わず頭を抱えてしゃがみこんでいた。


「な、何!? 雷!?」


 そりゃ、一般生徒にはわかるまい。ちょっと離れたところで、大爆発が起こっているなど。


「……安里さん、向こうの様子は!?」

「すみません、ドローンも跡形もなく消し飛んだようで」


 最後に捕らえたのは、糸を伸ばしたエンヴィート・ウィッチたちが、勢いよくぶつかったところだった。その瞬間、あの爆発が起こったのである。


「……萌音さんと、九十九さんは……!」


 嫌な予感が、愛の脳を掠める。あんな爆発の中心にいたのでは、木っ端みじんに吹き飛んでしまっているのではないか――――――?


 仮にあの爆発に巻き込まれたのが蓮であったなら、彼女はさほど動揺しないだろう。そしておおよその想定通り、あの程度の爆発は蓮ならば屁でもない。


 だが、それはあくまでも紅羽蓮の話。巻き込まれたのは、少なくとも蓮以下であろう女性2人なのだ。生きている望みの方が、もしや薄いかもしれない。


「……しょうがない。もう1機飛ばしますか」


 安里はそう言うと、手からドローンを形成する。同化侵食生命体であり、ドローンの構造をすべて理解している彼にとっては、息をするようにドローンを生み出すことができた。

 彼の手から誕生した小型ドローンが、素早く空へと舞い上がる。そして、爆発の起きた方向へと、まるで鳥のように向かって行った。


 そうして、爆発の現場へと赴いてみれば。


 そこにいたのは、一人の女性だった。


「……アラ? ナニカ、来タワネ」


 魔女のような帽子――――――のような、巨大な顔。それには、見覚えのある目玉が2つ付いていた。エンヴィート・ファイバーだったタンクトップについていた目玉である。


 それをかぶるのは、明らかに人間の女性的な肉体をしている生命体だ。細い腰、豊かな胸、丸みのある体格。それは明らかに人間のものであった。漆黒で、光沢があることに目をつぶれば。

 そして、彼女の頭部分は、帽子に完全に食われていた。頭を食らう帽子から、長い髪を束ねたであろう、赤い繊維の塊と、青い繊維の塊が飛び出ている。それが巨大な腕のような形となり、それぞれプラスとマイナスの温度を放っている。


 彼女が赤い手をかざすと、強力な熱波がドローン目掛けて放たれた。


「危ないっ」


 それを躱しながらカメラを、さらに怪人へと近づける。

 彼女の足元に、倒れている二人の女性の姿があった。


「すごいですねぇ、五体満足ですよ」

「いや、息は!?」


 ドローンを近づけると、二人ともかすかだが息があるのがわかる。よくあの爆発の中心で、生きているものだ。


 そして、合体したエンヴィート・ウィッチは、倒れている二人には見向きもせず、空を見上げる。


「……感ジル……」


 彼女? が感じているのは、言うまでもなくH・F・Eだろう。そして、顔を向けているのは、桜花院女子校の校舎の方角である。

 ふわり、と身体を浮かび上がらせるその姿は、まさに大魔女だ。


「あ、これマズい」


 ドローンで捉えたその様子に、安里は思わずつぶやいた。


「あの人(?)、ここに来ますよ」

「ええっ!?」

「それ、マズいんじゃないの!?」

「はっきり言って、ゲロヤバですよ」


 あんなものが来たら、文化祭が中止どころではない。それこそ、大災害になること間違いなしだ。下手すれば、被害は桜花院にとどまらない。


 この状況を、どうにかできると言えば――――――!


「……あの人しかいませんね」


 気絶している蓮をたたき起こすしか、あの怪物を如何にかする方法はあるまい。例え

物理攻撃が聞かなくとも、足止めくらいにはなるはずだ。その間に、何とかする手立てを考えればいい。


「……僕は保健室に行って、蓮さんを起こしてきます。愛さんたちは……避難していてください」


 安里はそう言うと、ワープゲートを作って移動してしまう。歩いて保健室に行く時間すら惜しいのだ。


 残された愛とエイミーは、校舎の隅でぽつんと立ち尽くしていた。


「……そ、そんな……」

「……どうするんだ、アイツが起きても……また、溶岩とかになったら、手も足も出ないんだろ?」


 合体したとはいえ、その能力が消えるとも、到底思えない。となれば、蓮が再び戦ったところで、先ほどの二の舞、となるのだろう。


 だとすればもう、打つ手は――――――。


「……あるぞ」

「「えっ!?」」


 絶望モードの愛とエイミーの耳に、低いトーンで夜道が語り掛ける。


「よ、夜道さん!?」

「や、ヤトガミ……さん!?」

「夜刀神流の奥義を使えば、おそらくあれは倒せる」

「ほ、本当なんですか!?」


 愛の問いに、夜道は頷いた。


「ああ」

「……っていうか、奥義って……!?」

「あー、それな。俺も驚いたんだよな」


 顎をさすりながら、当時の光景を彼は思い出す。


「あんなの新右衛門(愛のご先祖様)にも教えてもないはずなのに、なんでの型を知ってるんだってな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る