4-ⅩⅩⅨ ~宇宙人ピューリファイと怪獣ニライカナイ~

 かつて、地球の陸地が海に沈む前のこと。


 一つの生命が、遠い宇宙のかなたから地球へと飛来した。蒼い光をたたえるその姿は、さながら巨人というべきだろう。


 その者の名はピューリファイ。銀河のはるか彼方、地球からはおおよそ6千万光年離れた恒星からやって来た旅人だ。


 彼は流浪の旅人であり、遠い故郷を離れて気が遠くなるような時の間、宇宙空間を彷徨っていた。そして、長い旅の果てにたどり着いたのが、この地球である。


 彼は、美しいものが大好きであり、旅をしていたのも、美しいものを探しての事だった。そんな彼がこの星の美しい自然に魅了されるのに、時間はさほどかからなかった。そして、この自然を守りたいと、この星の自然の守護者を勝手に名乗るようになった。そんなことを言う者が他に誰もいなかったので、言ったもん勝ちだったのだ。


 そして、彼は長い年月を地球と地球の命を守るために費やした。襲来した侵略宇宙人を撃退したり、地球の不浄を浄化したりと、実に数百万年戦い続けたのだ。


 だが、長い間闘い続けた彼の身体は、限界を迎えようとしていた。彼はとある陸地に自分の身体を石像として封印し、眠りについた。


 彼が眠りから目覚めたのは、人間が陸地に住み始めて、陸地が大陸と分断されて島となり、随分と経った頃である。


「……私は、肉体は眠りについていたが、魂は活動状態だった。ちょうど、今のように。そして、ある時、人間たちの悲痛な叫びと願いが聞こえたのだ。助けてほしい、という」


「それって、もしかして……」

「あの怪獣か」

「ああ」


 かつて、島を襲ったあの怪獣と、ピューリファイは戦ったというのだ。

 

「あの怪獣は、島の者にはこう呼ばれていた……「ニライカナイ」と」

「ニライカナイ……」

「ああ。ニライカナイは島で暴れまわり、村を壊滅寸前にまで追いやった怪獣なんだ」

「ヤバいじゃん!」

「私は、最後の力を振り絞ってニライカナイと戦った……」


 そうして、ピューリファイはニライカナイと3日3晩に及ぶ闘いの事を話し始めた。強力な光線を吐き、力強い手足で暴れまわるニライカナイには、かなり苦戦を強いられたという。当時、肉体が衰え力が弱っていたという事もあるが。


「……それで、その時……で……だから……ああ、あの時はそう言えば……」


 なんだか、延々と話し始めたピューリファイを、安里は適当なカバンの中に放り込んだ。


「お話はそれくらいにしましょう。こっちも急ぎなんでね」

「ジジイの昔話聞く余裕、ないもんな」


「ま、待て! まだ、肝心なことを話していないんだ!」


 カバンに入れられたままのピューリファイが、必死に叫ぶ。


「あんだけ長々と話して、まだ核心話してなかったんですか?」


 どうやら、この元巨人は話をするのが苦手なタイプだ。話の途中で思いついたことまで話して、脱線しまくるタイプ。


「あ、ああ! ニライカナイの秘密を!」


 そして、ピューリファイは語り始めた。

 戦いの真実と、ニライカナイの真実を。


「……何だって!?」


 それを聞き終わった蓮たちは、慌ててポータルへと飛び込んだ。


**************


 米軍の戦闘機が、巨大怪獣を囲うように飛んでいる。浦添市で暴れる怪獣は、那覇市へと向かっていた。このまま本島の内陸に上陸させるわけにはいかない。


 戦闘機の照準が、怪獣を捉える。すでに、この怪獣への攻撃命令は下っている。


「照準よし! 発射!」


 戦闘機から放たれたミサイルが、まっすぐ怪獣めがけて放たれる。


 大きな爆音を放ちながら、怪獣の身体でミサイルは爆発した。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 怪獣は、大きな悲鳴を上げながらビルへと倒れこむ。ビルは粉々に砕け散り、怪獣の下敷きとなった。


 だが、致命傷にはなり得ないらしい。あの毛におおわれた表皮がぶ厚く、ダメージが入らないのだ。


 怪獣はむくりと起き上がると、口を開いた。すると、そこに何やら紫色の光が集まり始める。


「……な、何をする気だ!?」


 戦闘機のパイロットが言うと同時に、口の光がビームとなって空に放たれる。


「うわああああああああああああああああああ!」


 戦闘機は急旋回するも、翼が光線に掠り、爆発した。パイロットは済んでのところで脱出しており、ひとまずは無事である。


「モ、モンスター……!」


 着地したパイロットは、不幸にも怪獣のすぐ近くだった。怪獣が振るう腕が当たって砕けるビルが、ちょうどパイロットの真上である。


「ノ、ノーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 ビルの落石が、轟音を上げてパイロットを直撃する。


 もうだめだ、と目を塞いでいたパイロットだったが、しかし痛みはなかった。

 恐る恐る目を開けると、自分の周りに岩が転がっている。

 そして、自分の真上に落ちていたひときわ大きな岩は。


 赤い髪の少年によって、受け止められていた。


「ワット……!?」

「……あんた、大丈夫か?」


 ネイティブな日本語を話すという事は、日本人なのだろう。日本人にしては、随分と珍しい髪の色と目だが。

 そして、パイロットはネイティブな日本語も理解可能だった。沖縄の基地に勤務して4年。日本人とのやり取りも慣れたものである。


「だ、ダイジョウブ、デス」

「……そっか」


 少年はそう言うと、軽々と岩を放り投げる。まるでゲームや漫画の主人公のようだ。


「あぶねえから、早く逃げろ」

「き、キミハ……!?」


 パイロットの質問を聞くこともなく、少年はまっすぐに怪獣のいる方へと走っていった。

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