4-ⅩⅩⅧ ~上陸、大海獣~

 沖縄県庁では、緊急対策本部が立てられていた。もちろん、理由は糸満市に上陸したという怪物たちである。大暴れしている奴らを、何とかしなければならなかった。


 だが、ほんの10分前、事態は急転した。


 どういうわけか糸満市の怪物は海に帰ったという。ひとまず後を追い、戻ってこないかの警戒だけさせているが、当面の心配はなさそうだ。避難命令を解除しようと思ったその矢先、一人の職員が顔色を変えて本部へと飛び込んできた。


「た、大変です!」

「どうした!?」


「浦添市に、巨大怪獣が上陸しました!」


 浦添氏は、県庁やテレビ局がある那覇市の北にある市である。そこの海岸から、巨大な怪獣が上陸したというのだ。


「先ほどの怪物との関連性は!?」

「わかりません! ですが、糸満の怪物よりもはるかに巨大です!」

「米軍より連絡が入りました! 怪獣への攻撃を開始するとのことです!」

「……一体、何だというんだ……!」


 県知事は額を伝う脂汗を拭うこともできず、椅子の上で固まることしかできなかった。


**************


「うわあ、怪獣映画みたいになってる!」


 愛たちは、テレビ局の上層階の展望台から、怪獣が現れたという浦添市の方角を見やっていた。

 高い所だと良く見えるもので、見覚えのある巨大生物と、自衛隊、米軍の戦闘機が戦っているのがわかる。巨大生物は二本足で歩いており、ビルも超える大きさだった。先ほどのアカマタよりもはるかにデカい。


「あの海が縄張りなんじゃないのかよ!?」

「縄張りから遠征でもしに来たんですかね?」

「ど、どうするんですか? このまま、あの怪獣がここまで来たら……」

「どうするもこうするも、アレはあんな戦闘機なんかじゃどうにもならないでしょうね」


 そう言いながら、安里はいそいそと何かを準備し始める。テントだ。


「何やってるんですかこの非常時に!?」

「叔父さん、こんなところでキャンプでもするの?」


 安里の奇行に一同は驚いていたが、蓮と朱部は安里の意図がわかった。

 周囲の声も気にせず、安里はテントを立て切ってしまう。


「さあさあ、皆さん、とりあえず入ってください」


 そう言って夕月たちを押しこめる安里の後に続いて、愛たちもテントの中に入る。


 そこにあったのは。


「……事務所!?」


 すっかり見慣れた、安里探偵事務所の光景がそこにあった。


「ひとまず、避難は完了ですかね」


 安里はやれやれと息をつくと、テレビをつけた。沖縄での怪獣襲来のニュースが、緊急速報ですべての曲から流れている。


「事務所とテントのポータルを繋いでおいたんです。ここにいれば安全ですよ」

「……あなたたち、この間このテントで寝てたわよね。つまり……」


 朱部の指摘を、安里は華麗にスルーした。


「ま、とりあえず夕月さんたちはここにいてください。あんなのがいたんじゃ、古宇利島じゃ不安でしょうしね」

「あ、じゃあ、おばあちゃん連れて来ないと!」

「察しがいいですね夢依。というわけで僕は戻ります」


 にっこり笑うと、安里は蓮の手首を掴んだ。


「……は?」

「何してんですか。行きますよ」

「え、俺も!?」

「当たり前でしょ。か弱い僕一人で行かせる気ですか?」

「お前か弱くねえだろ!」

「ひどい。僕の腕はさながらモヤシなのに」


 安里が袖をめくると、本当に真っ白な腕が現れる。白すぎて人間の腕であるかも怪しいほどだ。


「じゃあ、後行くのはボーグマンくらいですかね。皆さんは留守番を……」

「待ってくれ!」


 聞き覚えのない声に、事務所は静まり返る。


「……ん?」

「私も連れて行ってくれ!! お願いだ!」


 一同が声のする方を振り向くと、そこにいたのはヤシ落としだった。だが、当のヤシ落としも首を傾げている。


「お、俺は何も言ってないぞ?」

「……喋っているのは、私だ!」


 再び声がする。だが、姿は見えない。いや、誰も声が出ると思っていなかった、といった方が正しいか。


 喋っていたのは、ヤシ落としに返した「お宝」そのものだった。


「お願いだ、私を連れて行ってくれ!」


「う、うわああああああ!?」


 驚いたヤシ落としが、お宝を手放して床に落っことす。


「いてっ!」

「いや、お前が驚くのかよ!」

「驚くだろ普通、お宝が喋ったら!」


 ころころと転がるお宝を、愛が拾い上げる。


「だ、大丈夫ですか?」

「いたたた……すまない」

「あの、あなたは……?」


「ああ、私の名はピューリファイ。1000万年前にこの惑星へとやって来た、君たちで言う宇宙人であり、地球の守護者だ」

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