4-ⅩⅩⅦ ~まだ27話目で解決なんて、するわけないでしょう?~

「うわああああああああああーーーーーーーーーーっ!」


 叫び声とともに、テレビ局のスタッフが吹っ飛んで壁に激突した。肺にたまっていた空気が、すべて吐き出される。


 彼を放り投げたのは、鉄の塊たるボーグマンだ。彼の左手には、ほかのスタッフが胸倉をつかまれている。

 そして、見覚えのあるディレクターが、後ろ手に縛られて床に座っていた。彼の眼先には銃を向ける朱部と、手の上で「あるもの」をもてあそぶ安里の姿がある。


「あるもの」は蒼く輝く、角が一つもない完璧な玉だった。自ら発光する類の鉱石なのか、一定の光をたたえ続けている。


「……これが、例の「お宝」ですか」

「そ、そうだよ。あいつら、洞窟の奥の奥に隠してやがった。取りに行くの、苦労したんだぞ?」

「で、これをあなた方はどうするおつもりだったんですか?」


 安里の目線が、じろりとディレクターに向く。その視線は氷よりも冷ややかだ。


「そ、それは……テレビで、何かに使えるかなって……」

「なるほどですね。でも、使った後は? どうするつもりでした?」

「……売るつもりだったよ。悪いか!」

「いいえ、別に」


 安里はにっこりと笑うと、お宝を写真に収める。そして、蓮にラインで画像を送った。


「とりあえずお宝確保は伝えました。蓮さん、そろそろ来るそうですよ」

「え、でも糸満市で暴れた怪物を止めに行ったんでしょ? ここから結構遠いけど……?」


 首を傾げる夕月だったが、その時、にわかに下のエントランスホールが騒がしくなった。


 下に降りて、正面入り口を見やれば。


 そこにいたのは、10tトラックを肩に抱える赤髪の少年が一人。


「……え、何アレ……!?」

「あ、蓮さん!」

「おう」


 愛たちが駆け寄ると、蓮はトラックを地面に置いた。後ろの荷台を開けると、大量の白い毛玉と、1体のヤシ落としが目を回して転がり落ちる。


「なるほど、精霊の梱包ですか。考えましたね」

「たまたま誰も乗ってねえトラックがあったからな。中身もなかったし」

「ちょうど荷物を出し終わった後だったんですか。なんにせよ、運が良かったですねぇ」


 安里がそう言う中、蓮はヤシ落としのデカい顔を平手でたたく。


「おい、起きろ。着いたぞオラ」

「う、うう……」


 どうやらトラックの荷台で運ぶまでは良かったが、その運搬の快適さは皆無だったらしい。ヤシ落としは鼻水と涎を垂らして、完全にグロッキーだった。


 白い毛玉の方はと言うと、一匹のキジムナーがぴょんぴょんと飛び跳ねた。そして、夢依めがけてジャンプし、頭の上に飛び乗る。


「あ、あの時の!」


 どうやら、夢依と島で仲良くなった一匹らしい。キジムナーは再開を喜ぶように鳴いていた。夢依もそいつの頭をそっと撫でると、キジムナーはさらに鳴く。


「……もう観念して、飼うの許してやったら?」

「……とりあえずガジュマルの樹を事務所に用意しないとですねえ」


 安里も、流石に本島にまで来てしまったら何も言えない。わざわざ帰してこいとも言えなかった。


「……さてと。それじゃあ、後は……」


 安里が指を鳴らすと、ボーグマンがテレビのスタッフたちを連れてきた。皆縛られて動けないまま、ヤシ落としたちの前に突き出される。


「この通り、泥棒さんたちも捕まえましたよ」


 泥棒の姿を見たヤシ落としは、なおも気持ち悪そうにむくりと起き上がった。そして、ゆっくりと地面に伏している彼らの前に近づく。

 彼らを見下ろす巨大な顔は、異様な迫力に満ちていた。


「貴様ら……よくもお宝を盗んだな!」

「ひ、ひい……!」


「絶対に、許さ……」


 そう言ったところで、ヤシ落としが急に両手で口を押さえた。


「うっぷ……」

「あ、ヤバいですね」


 安里がすかさず、夢依の目を手で覆う。

 それと同時に。


「おげえええええええええええええええええええええええ!」


 先程までトラックで揺られていたヤシ落としの胃液が、倒れているスタッフに滝のように降り注いだ。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 スタッフたちの悲鳴が、テレビ局前にこだまする。


「……おいおいなんだよ、今回ゲロばっかりじゃねえか」

「あなたが揺れるような運び方するからでしょう、この場合は」


 そうしてヤシ落としのゲロ、もといヤシ酒を大量に浴びたスタッフたちは、全員もれなく意識を失った。妙に恍惚とした表情をしているのは、酔っ払っているからだろう。


「フー……すっきりした。なんかもういいや。こいつらは」

「まあ、精霊のゲロ塗れって人生でそうそうないだろうしな」

「いや、普通はないよ……」


 蓮の言葉に冷静にツッコミを入れた愛だったが、ふと、彼女の視線がお宝に向いた。


(……あれ?)


 なんだか、お宝に見られているような気がしたのだ。


「……気のせいかな」

「あ? 何が」

「え、いや、何でもない」


 愛がそう答えたところで、上空から風を切り裂くような音が聞こえた。ふと上を見れば、米軍の戦闘機が上空を飛んでいる。


「あ、米軍だ。出てきちゃいましたね」

「まあ、倒す怪物はいねえけどな。あのでけえヘビも帰らせたし」

「来るだけ取り越し苦労ですよねえ」


 そう言いながら見上げていたが、米軍の戦闘機はどんどんと出てくる。そして、自衛隊の戦闘機まで出てくる始末だ。

 しかも、明らかに何かに向かって機関銃らしきものを撃っている。


「……え? 帰ったんですよね? ヘビは」

「ああ。俺が帰したもん。間違いねえよ」

「……じ、じゃあ、アレは何に向かって撃っているんですか……?」


 愛が呟くとともに、蓮はテレビ局の上へと駆け上がる。

 瞬く間に頂上に着くと、そこから見える景色を見て蓮は頭を抱えた。そして、ジャンプして安里たちの下に降りてくる。


「どうでした?」

「……まずいことになりやがった、クソ」


 それが、どういうことか。そんなことは、蓮が答えなくてもすぐに一同理解した。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーっ!」


 遠くから、怪獣のような雄たけびが聞こえてきたのだ。

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