4-ⅩⅩⅩ ~紅羽蓮VSニライカナイ~

 古宇利島まで車を飛ばしてきた安里たちは、オバーをテントの中に招き入れていた。事務所には夕月たちがいるので、向こうに行っても大丈夫である。


「さて、次は……」

「あの怪獣ですね」


 古宇利島からは、怪獣ニライカナイの姿は見えない。だが、那覇市にいるのは間違いないのだろう。警報が鳴り響いているわ、戦闘機が飛び回っているわで本島は大騒ぎだ。


「蓮さんは、一足先に向こうに行ったんですよね」

「ええ。足止めにね」


 安里はそう言うと、安里たち以外誰もいなくなった安里家のリビングのソファに腰かける。そして、テーブルの上にピューリファイである蒼玉を置いた。


「な、なあ。自分から提案しておいてなんだが……」


 蒼玉は不安そうな声を出す。それを尻目に、安里は様々な工具を取り出し始めた。そして、これ見よがしに電動ドリルを回転させる。


「その……もうちょっと物騒じゃない手段はないのか?」

「何言ってるんです。そんなこと言っている場合じゃないのはあなただってわかっているでしょうに」

「だ、だが……」

「愛さん」

「は、はい!」


 安里の指示で、愛がピューリファイを両手で押さえた。


「う、うう……」

「我慢してください、お願いですから」

「そうですよー。そもそも、あなたの身体が残ってないのが悪いんじゃないですか」


 ピューリファイの肉体で残っているのは、もはやこの蒼い玉しか残っていなかった。かつてこの地球に来た時の肉体は、ニライカナイと戦った時に限界を迎えたという。そして、この姿ではとてもニライカナイを止めることはできない。


 そこで、今回の施策というわけだ。


「愛さん、魂がどこか行っちゃいそうだったら、押さえ込んでくださいね」

「わかってます。でも……いけますかね?」

「できなくてもやるしかありませんよ」


 そう言い、安里はドリルをピューリファイへと近づける。


 甲高い掘削音が、安里家に響いた。


 ついでに、「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」という、ピューリファイの悲鳴も。


**************


 怪獣ニライカナイの上を、戦闘機が飛び交っていた。ビルや建物は爆発で崩れ落ち、瓦礫と土煙にまみれた、さながら戦場だ。


「ったく、こちとら普通の男子高校生だっつーの!」


 そんな戦場を駆けまわる一人の影がある。紅羽蓮だ。

 彼は、戦場を駆けまわりビルの上を跳びまわっていた。その理由は、ニライカナイの囲い込みだ。


 ビル群からニライカナイが移動しようとすると、その移動しようとする進行方向に立ち塞がる。そしてニライカナイを蹴り飛ばして、進ませないようにしていた。


「おとなしくしてろ!」


 そう言いながら再びビルの上へと着地する。


 そして、蓮の役目はもう一つ。


 上空から、ニライカナイめがけて数発のミサイルが発射される。


 そのミサイルへ向けて跳ぶと、拳を叩き込んだ。


 閃光が走り、大爆発が巻き起こる。蓮はそんなものものともせずに、再びビルへと着地した。


「な、何だ!? ミサイルが怪獣に届かないぞ!」

「誰かが邪魔しているのか!?」


 中継をしているヘリコプターも、一体何が起こっているのかを必死に探ろうとする。

「どうやら怪獣は、何かミサイルを無効化する装備を持っているようです!」


 マスコミのカメラも、戦闘機も、ニライカナイの光線を警戒してかなりの高度を取っていた。

 その為、蓮の姿は豆粒ほどにしか見えない。おまけに土埃で視界も悪く、一人の人間をはっきりとカメラに捉えることは難しかったのだ。

 これは、蓮にとっては嬉しい誤算である。このままでは、思わぬ形でテレビデビューするところだ。


 ところで、どうして蓮がニライカナイを守っているのか。


 ニライカナイが振り上げた腕が、ビルを突き崩した。蓮はそこから飛びのくと、後方のビルに着地する。あまり足止めも長くはもたない。


「……あいつら、本当に来るんだろうな」


 再びミサイルを蹴り飛ばして着地しながら、蓮は舌打ちする。


 向かい合うように、ニライカナイの巨大な眼球が蓮の姿を捉えた。そして、低くうなり始める。


「……随分と機嫌が悪そうだな、オイ」


 蓮を敵と認識したのか。ニライカナイの口に、光が集まり始める。蓮のいるビルめがけて放たれれば、後方の市街地にも被害が及ぶのは間違いない。

 だから、撃たせない。蓮は素早く跳ぶと、ニライカナイの左頬に飛びつく。

 そして、蓮は腕を振り上げた。


「―――――そんなもん撃つんじゃねえよ。口に悪いぞ」

 

 そして、ポンと。

 ニライカナイの頬を軽く触った。


「―――――――――――っギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 それだけで、ニライカナイの光線は途切れる。それどころか、ニライカナイは絶叫を上げて倒れこんだ。

 手足をじたばたとさせ、手を左の頬に添える。そして、そのままもがき苦しんでいた。


 ビルに着地した蓮は、鼻で息をつく。


 以前、船でニライカナイと遭遇した時。蓮は奴に拳を振りかぶった。


 だが、拳が届く前に、ニライカナイは叫び、口を押さえて海へと飛び込んでいった。


 あの時はぽかんとしたが、ピューリファイに真相を聞いた今ならよくわかる。


「――――――お前、なんだろ」


 蓮は倒れるニライカナイを見下ろしながら、苦々しげに呟いた。

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