4-ⅩⅩⅩⅠ ~大海獣の荒ぶる理由~
「――――ニライカナイと戦ううちにわかったのだが、彼は病に苦しんでいたのだ」
「病?」
「恐ろしい病だ。身体を蝕まれ、無限に続く痛みに苦しみ続ける。」
探偵事務所でのピューリファイの話は軌道が変わり始めた。ただ怪獣を倒すだけの話ではなくなってきたのだ。
「私は戦ううちに、彼の苦しみがわかってきてな。島に上陸したのも、その痛みに苦しんで上陸してしまっただけなのだ」
「はあ、それで」
「私は彼の病を取り除いてやることにした。私の浄化光線なら、彼の病を押さえることができる。そうして……私は浄化光線を、彼の口の中へ向けて放った」
「……口の中?」
「彼の病は、歯にできていた。歯の中に邪悪な気が溜まり、それが牙を内側から溶かしてしまう。やがて邪悪な気は彼の身体を痛みで蝕むようになってしまったのだ」
ピューリファイの発言に、一同は顔を見合わせた。分かっていないのは、そういう概念がないのであろう、ヤシ落としとキジムナーだけである。
「つまり、あれか……? あいつが暴れている原因ってのは……」
「ただ、虫歯が痛くて苦しんでいるだけ……?」
「そうみたいですねえ」
安里のつけた結論に、全員の身体から力がどっと抜けてしまった。「何だよ……」感がへなへなと座り込む各々の身体からにじみ出ている。
「ど、どうしたんだ皆!? 急に力が抜けているぞ?」
「ああ、気にしなくていいですよ、気が抜けただけですから」
「……ん、ちょっと待てよ、じゃあこれって……」
蓮がスマホで石碑の写真をピューリファイに見せると、どうやら覚えがあるらしい。
「ああ、それは私が彼の口の中の病を抑えるために浄化光線を口の中に撃ったところだな」
「怪獣退治じゃなかったのか……」
呟いたのはヤシ落としである。宝としてピューリファイを守っていた彼すら、この事実は知らなかったのだ。
まあ、石碑を見ただけだったら、初見でこれが治療行為だとは誰も思うまい。どう見ても口にビームを当てて怪獣を退治しているように見えるだろう。
「それで、彼の病は治ったのですか?」
「私は治ったと思ったのだが……治っていないのだろう。彼が再び目覚めて暴れているのは、痛みが再発したからだ」
「沖縄に現れたのは?」
「おそらく、私を探しているのだろうな。かつて彼を治療したように、私に助けを求めているんだ……」
事務所の中に、沈黙が走る。
「……聞きたいんですが」
「何だね?」
「虫歯を治せば、彼はおとなしく海に帰りますか?」
「もちろん。彼は本来、おとなしい怪獣なんだ」
その言葉に、安里たちは目を合わせる。
どうやら、満場一致のようだ。
「……なら、方針は決まりですね」
「おう」
「名付けて――――――『怪獣の歯医者さん』作戦」
「き、君たち……」
「協力しますよ。ピューリファイさん。あの怪獣さん、助けてあげましょう」
そうして、夢依命名の『怪獣の歯医者さん』作戦は始まったのだ。
まず、第一に蓮がニライカナイのところに先行し、足止めかつミサイル攻撃から彼を守る役目。要するに時間稼ぎだ。
そうしている間に、安里たちは古宇利島でオバーの避難をした後に、次の一手に入る。長い年月ですっかり小さくなってしまったピューリファイの肉体を、何とかしなくてはならなかったのだ。両手サイズの小さい玉っころでは、とてもじゃないがニライカナイを止めるほどの力はない。
なので、代わりの身体を用意しなければならない。そして、そのためには古い肉体を破壊する必要があったのだ。
そして、そのために必要不可欠なのが、立花愛である。
肉体を破壊した際にピューリファイの魂が昇天しないようにしなくてはならない。そして、そんなことができるのは愛意外にはいなかった。
なお、蓮には見られたくないという愛の強い要望により、蓮にはダッシュでニライカナイの足止めに行ってもらっているわけである。
「あががががががががががががががががががが!!」
そうして、ピューリファイの肉体である玉をドリルで破壊し始めて10分ほど。
かつて玉だったものは、粉々の破片へと変わり果てていた。
「愛さん、ピューリファイの魂は? ちゃんと残ってます?」
「は、はい! あります!」
「よろしい」
そうして、安里はポケットからとあるものを取り出す。
それは、1本のUSBメモリだった。
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