4-ⅩⅩⅩⅡ ~フォームチェンジは男のロマン~
ニライカナイが暴れまわり、蓮が止められる範囲のビルはほとんどなくなってしまっていた。
これ以上暴れられると、ミサイル攻撃から庇いきることができなくなる。
「ちっ……あいつら、まだかよ!」
思わず舌打ちが出る。蓮の身体は傷こそないものの、土埃やら爆風やらでぱっと見ボロボロである。沖縄に行くからと着ていたアロハシャツも、とっくに脱ぎ捨てられていた。
米軍の戦闘機の数はどんどんと増えていた。なかなか倒せないニライカナイに、業を煮やしているのかもしれない。もし光線を放っていたら、空母からミサイルが飛んでくるんじゃないかというほどの規模になっている。蓮が光線を防ぎまくっていたので、そこまでには至っていない。
そして、ニライカナイが再び攻撃しようとして、また歯の痛みに苦しんで倒れた時、戦闘機から一斉にミサイルが放たれた。
「げっ!」
ミサイルの数は数十発。しかも四方八方から放たれている。
「くっそ……!」
蓮はビルから跳ぶと、ミサイルめがけて片っ端から蹴り飛ばしていく。なんならミサイルを蹴って次のミサイルに跳んでいく。
だが、最後の1発は、間に合わなかった。足場にしようとしたら、ちょうどすり抜けてしまったのだ。
肝心のニライカナイも、歯が痛くてミサイルどころではないらしい。
ミサイルが、ニライカナイの方に命中して炸裂した。
「うわっ!」
爆風に、宙に泳いでいた蓮は思い切り吹っ飛ばされた。ニライカナイも悲鳴を上げている。
そして地面に叩きつけられた蓮がよろよろと起き上がると、ちょうどそこはニライカナイの頭の前だ。倒れこんでいる彼の真正面にちょうど落ちたらしい。
「グオオオオオオオ……」
ニライカナイは涙と涎を垂らして、低くうなっていた。歯の痛みとミサイルの痛み、色々なものが相まっているのだろう。その表情に、蓮は思わず同情してしまう。
蓮はニライカナイに歩み寄ると、彼の口の中を覗き込んでみた。
「うえっ! なんじゃこりゃあ!」
まるで洞窟の入り口のようなニライカナイの口からは、ひどい匂いがした。以前食らったシュールストレミングよりはまだましだが、それでもかなりひどい。
そして、肝心の口の中。暗いのでよくわからないところもあるが、肉眼で見えるだけでもかなりひどいことになっていた。特に奥歯は真っ黒になり、歯茎まで侵食している。原因の虫歯は奥にあって、そこから虫歯菌が歯全体に広がっているようだった。
(こんなの、どうやって治すんだ……?)
そう思っていると、再びミサイルの飛来音がする。蓮はニライカナイの上に飛び乗ると、そのままミサイルを弾き飛ばした。
だが、このままではジリ貧である。
とうとう我慢できなくなって、蓮はミサイルを蹴り飛ばしながらスマホを取りだした。
『もしもし、安里です』
「お前ら、まだかよ!? こっちももう庇ってらんねえぞ!」
『もうそろそろ着きます。あと3分もたせてください』
「3分!? 無茶言うな、ミサイルめちゃめちゃ来るんだぞ!」
『その心配もないですよ。あ、見えた。切りますよー』
そう言って、安里は電話を一方的に切ってしまう。苛立ちにスマホをぶん投げそうになったが、流石にここでぶん投げたら絶対回収できなさそうなのでやめておいた。
「3分もミサイル防げってのかよ……! あれ?」
身構えた蓮だったが、肝心のミサイルが一向に降って来ない。
何事かと上を見上げると、戦闘機が蜘蛛の子を散らすように散開している。
「……何だ?」
その疑問の答えは、おのずと明らかになった。
めちゃめちゃデカいボーグマンが、空から降ってきたのだ。
すさまじい地響きと土を巻き上げて、巨大ボーグマンは大地へと降り立った。蓮は其れをぽかんと見つめることしかできなかった。
その身長は、ニライカナイと同等の大きさだろうか。そりゃあのサイズが空から降ってきたら、戦闘機だって逃げ出すだろう。
「……もしかしなくても、アレだな」
ボーグマンがゆっくりと、こちらへ向かって歩き出す。ニライカナイもよろよろと起き上がり始めていた。どうやら、何かに反応しているらしい。
互いに一歩ずつ歩み寄るたびに、沖縄本島が激しく揺れる。建物の倍ほどある2体の大きさは、それぞれ50mほどだろうか。蓮はちょうどニライカナイの頭の上に乗っていた。
ニライカナイの頭の上から、蓮は巨大ボーグマンの頭へと飛び移った。コンコンと頭を叩くと、頭部分が開く。乗った覚えのある、ボーグマン・ギガントのコクピットだった。
「蓮さん、どーも」
手をひらひらと振る安里を見やってから、蓮はコクピットに降り立つ。内蔵されていた時計を見ると、先ほど電話してからちょうど3分だ。
「……これ、人型になったのか」
「当たり前でしょう。そもそもボーグマン・ギガントのデフォルトは人型ですよ」
「れ、蓮さん! とりあえずこっちに!」
「……愛!? それに夢依も」
蓮はコクピットの席に座っている愛と夢依を見て面食らった。この2人は来ない物だと思っていたのだ。
「何できてんだよお前ら!」
「わ、私はピューリファイさんの魂を見張る役目で……」
「私は叔父さんに必要だって言われたから」
必要? と蓮は首を傾げるが、安里は意にも介していない。
「……それで、準備はできたのかよ」
「それは……うん」
愛が頷くと同時に、ニライカナイが吠える。突然現れた自分並みのサイズの巨人に驚いて、警戒しているらしい。
ボーグマン・ギガントも構えの姿勢を取っていた。
「さーて、それではいきますよー……」
そう言うと、安里が一本のUSBを取り出した。
それは、「Purify」と書かれた蒼いUSBである。
それを、コクピット内のボーグマン本体の脊髄部分にあるスロットに差し込んだ。
「『ボーグマン・ピュリファイ・エディション』です!」
USBを装填されたと同時、ボーグマンの目が互いに光る。
そして、銀色の身体が蒼く変化し、身体には独特の紋様が刻み込まれていく。頭部分が変化し、鋭い刃へと変わっていく。
やがて眼のライトの色が白から黄金へと変わり、その姿は完全に蒼銀へと変貌した。
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