4-ⅩⅩⅩⅢ ~炸裂、浄化光線!!~

「……へ、変身した……!?」

「ああ、これが私の新しい姿だ!」


 コクピットに響き渡る声は、あの蒼い玉から聞こえた声だ。つまりはピューリファイの声である。


「お前、これって……」

「私の魂を、先ほどのUSB? とやらに移し替えたのだ。前の肉体を破壊し、そこのお嬢さんに魂を移してもらった」


 蓮はぱっと、視線をそらして口笛を吹いている愛の方を見た。一瞬ぽかんとするが、そうもしていられない。すぐに意識をニライカナイに向ける。


「グ、グオオオオオオ?」


 ニライカナイは巨人の姿が突如変貌したことと、その姿が自分が探し求めていた物であったことに動揺を隠せないらしい。ちょっとか細めの変な声を出している。


「ニライカナイ……病で苦しいんだろう。今すぐに楽にしてやるからな!」


 ピューリファイとなったボーグマン・ギガントは、手を交差させる。そこに青い光がどんどんと集まり、チャージされていった。


「おいおいおいおい、大丈夫なのかこの技!」

「何か問題が? 手からビーム出すなんて今日び普通でしょうに」

「出し方の問題だよ!」


 そして、チャージが溜まったところで、両手を勢いよく広げる。


「……浄化ピュリフィーム、光線……!」


 再び腕をX字に交差させることで、蒼く輝く光線が、ニライカナイの口内に直撃した。


「おお……これは! まさに石碑の通りだ!」


 事務所のテレビで様子を見ていたヤシ落としたちが呟いた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 光線を浴びているニライカナイはうめき声を上げながらも、その光線を受け入れているようだった。過去の経験が、この光線が自分を害するものではないという事がわかっているのだろう。


「おおー……これなら、いけんじゃねえの?」

「どうでしょうかね? 虫歯ってほっとくと悪化しますし」

「いやでも、たかが虫歯だろ?」


 様子を見て、蓮がそう判断した時だった。


「ぐ……ぐう……っ」


 突如、ピューリファイが苦しみ始めた。交差させる腕が、危うく下がりそうになる。


「ど、どうした!?」

「……お、押し返されている……! 彼の病に!」

「は?」


 虫歯がどうやってビームを押し返すんだ、と思ったのもつかの間。


 ニライカナイの口の中から放たれたどす黒いオーラが、光線もろともボーグマン・ギガントを吹っ飛ばした。

 そして、ボーグマン・ギガントが吹っ飛ぶという事は。


 中にいる蓮達にも、その衝撃はもろに来るわけで。


「「「うわあああーーーーーーーーーーーーっ!」」」


 ボーグマン・ギガントは、近くのビルを粉々にしながら倒れる。コクピットは揺れに揺れ、照明もチカチカとブラックアウトしかけた。

 蓮たちはシートベルトをしていたために、激突などはせずに済んだ。本当にシートベルトは大事。車の後部座席でたまにシートベルトをサボる自分を、蓮は恥じた。


「いててて……どうなってんだよ!」

「わ、わからない。だが、病は長い年月をかけて進化していたようだ!」

「ま、当然歯磨きなんてしてないでしょうしね。怪獣だし」


 安里はまるで分かっていたかのように、ボーグマン・ギガントの体勢を立て直す。一方のピューリファイは、ひどく動揺しているようだった。


「しかし、私の浄化光線が効かないならどうすれば……!?」

「……こうなるかもと予定していたプランBで行きましょう」

「プランB?」


 安里は周囲の視線を集めるように溜めると、答えた。


「……あの怪獣の虫歯を引っこ抜きます」

「「「「ええええええええええーーーーーーーーーーっ!!!」」」」


 朱部とボーグマン以外の全員が驚きの声を上げた。


「ぬ、抜くって、アイツの歯をか!?」

「そうですよ。それしかないでしょう」

「で、でも、抜くって、どうやって……?」


「作戦はあります。そして、ここにいるメンバーなら……それができるんです」


 安里がそう言っていると、ニライカナイが再び暴れ出した。どうやら虫歯がまた痛み出したらしい。


「ピューリファイさん。あなたの光線、虫歯は浄化できなくてもそれ以外は浄化できていますか?」

「え? あ、ああ。口の中の環境は幾分かマシになっているはずだ」


 暴れるニライカナイを抑えながら、ピューリファイは答える。


「それならいけますね……右腕、ちょっと変形しますよ」


 安里がコクピットを操作すると、ボーグマン・ギガントの右腕が変形した。それはさながら、巨大な注射器だ。中には透明な液体がなみなみと入っている。


「な、何だこれは?」

「ニライカナイを近くのビルに固定してください!」


 安里の指示で、ボーグマン・ギガントはニライカナイと取っ組み合う。向こうもすごいパワーだが、ボーグマン・ギガントも負けじと踏ん張る。姿勢を低くし、タックルの要領でニライカナイをビルまで押し込んだ。


「今です、注射を!」


 言われるがまま、右腕の注射をニライカナイのわき腹に刺しこんだ。ニライカナイは悲鳴を上げたが、やがて口を開けたまま動かなくなる。


「な、何をしたんだ!?」

「麻酔です。これなら口の中で暴れてもさほど感じないでしょう」


 安里はそう言うと、蓮の方を振り向いた。


「……また俺か!?」

「はい。そして、夢依」


 安里は夢依のところまで行くと、頭をぽんと触る。


「出番ですよ。待ちに待ったね」

「……そんな待ってない」


 その手を払うと、夢依は立ち上がった。蓮もそれに続いて、コクピットから立ち上がる。


「愛さんはここに残ってください。色々計測器とか見ててほしいので」

「わ、わかりました」


 そう言って、蓮、安里、夢依の3人はボーグマン・ギガントのコクピットから外に出た。


 そして、ボーグマン・ギガントの腕をつたって、ニライカナイの開いた口元へとやってくる。


「覚悟はいいですか? 今から怪獣の口の中ですけど」

「行かなくていいんなら行きたかねえよ」

「くさそう……」


 だが安里は笑って首を横に振った。


 蓮たちも一瞬いやな顔をしてから覚悟を決める。


「……あー、やっぱ行きたくねえー……!」


 決めきれない覚悟のまま、蓮は安里たちを抱えて怪獣の口の中へと飛び込んでいった。

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