10-エピローグ ~To be Continued……。~

「いやあ、いいもん見れましたねえ、今日は」


 香苗たちが事務所を後にして、残っているのはいつものメンバーのみ。蓮と言えば、先ほどまで香苗が使っていた応接用のソファで仰向けになっていた。


「さながら桃園の誓いでしたね。三国志の」

「それ、言いすぎ」


 けらけらと笑う安里に、朱部が冷静にツッコミを入れる。ああ、コイツらはいつも通りだ。


「つーか、なんでここであんな事やってんだよ」

「永井さんから連絡来たんですよ。立ち上げたばかりで拠点ないから貸してくれって」

「……あーそう」


 まあ、本人たちがいいなら、別にいいのだけど。


「それにしても、大変でしょうねえ。復活ライブ」

「そーだなぁ。あの連中、集めるの骨折れそうだし」

「そうじゃなくて、ほら、例の怪人ですよ」

「……あ、そうか」


 香苗たちが再びアイドルをやるという事は、またあの怪人のターゲットになりかねない、ということだ。


 今まではほとんど、直接手を出しては来ていないが……。


「まーた新しい犠牲者とか出てきてしまうかもしれないし」


 大金田、軽井沢、そして帯刀。この3人の死亡事件は、ワイドショーを大いに騒がせていた。

 特に帯刀は芸能界でもかなりの影響力を持っており、レギュラー番組を20本も持っていた。なので、テレビ側もてんやわんやである。


 世間的に大金田と軽井沢の死とは関連付けられていない。なにしろ、死因を説明されていないからだ。そりゃ、「首から上を切断されて身体を食いちぎられて死んでいた」なんて内容はショッキングすぎるから、テレビでは言えないだろうし。


 だが、芸能界の一部では、関連性を疑っている人物もいるそうだ。

 なんでそんなこと知っているのかと言えば、安里のところに相談が来たからである。


「い、命を狙われているかもしれない!」


 そう駆け込んできたのは、テレビ局のプロデューサーだった。洗いざらい吐かせたら、彼も帯刀と一緒にそういう事に興じたことがあるらしい。


「もうやめたらどうです? あなた、結婚してるんでしょ」

「……つ、妻とは、もうここ数年レスで……」

「そんなん理由になるかぁ! 店にでも行けよ!」


 そういう方には「奥さんと親身に相談してください」と言って、バイ●グラを握らせてお帰りいただいている。


 だがわりと真面目に、「アイドルに手を出したから殺される」と思っている芸能界隈の方からの依頼が、ちらほらと来ているらしい。蓮は溜め息をついた。


 口で言うは簡単だが、実際に現場を見た者としては、あんな行為は到底許されるものではない。


「……いっぺんホントに死ねばいいのにな」

「ちょっと、蓮さん!?」

「冗談だよ……」

「まーそんなに依頼も捌き切れないので、全部お断りしているんですがね」


 依頼が少ない少ないと普段から嘆くくせに、一杯来た時には捌く能力がない。それが、この事務所が儲からない理由なんだろう。


「ともかく、これで護衛依頼は復活でしょうねえ。ふふふ、前の依頼料とは別途請求しないとですね」

「鬼かテメー。新しくできたばっかりの事務所だろ? そんな金ねえだろうに」

「だからと言って、ボランティアでやるわけにも行かないでしょ?」


 こっちだってプロなのだ。依頼を受ける以上、報酬は必要である。


「それで、問題なのは例の怪人の方ですねえ」

「ああ、そうだな……」


 なにしろ、空間移動系の能力を持っていること、巨大な獣の首を従えていること、日本刀を持っていること、という情報しかないのだ。そして、瞬間移動系の能力を持っている、という事実が、蓮たちの頭を悩ませる要因である。


「――――――こんなもん、どうやって捕まえるんだよ」

「そこなんですよねー。仮に僕らが捕まえても、警察で抑えておけるかどうか」


 そういう話だ。どこでも自由に抜けられてしまうのであれば、捕まえる意味もない。考えうる方法としては、移動能力の弱点を突くか、移動能力をそもそも使えない状態まで叩きのめすか、はたまた……。


「……そもそも能力なんて使わせない、か」

「それ、一番難しくないです?」


 能力者を無力化する方法で、最も難しい方法。それは、「能力を使う気を失わせる」ことだ。そうしてしまえば、こちらが何もしなくても、向こうもおとなしくしてくれているから。だが、その難易度は力づくよりもはるかに高い。何より「もう使わない」なんて信用する方も難しい。

 だが、今回のケースでは、こうするか、はたまた殺す、もしくは死なない程度にしても能力を使えないほど叩きのめすほかない。


「ま、能力を封じることができれば楽ちんなんですがね」

「わかってんのか? 発動条件とか」

「まあ、一応。ちょっと調べものが必要ですけど」

「調べもの、ですか?」


 愛が首を傾げるのを見て、安里はふふふと笑う。


「――――――ま、詳しくは後編で明らかになりますよ」

「後編とか言ってんじゃねーよ!」


 思いっきりメタな発言をする安里を、蓮はどつき飛ばした。 

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