16-Ⅷ ~宣戦布告(勝ち)~
彩湖学園1―Fクラスは、異様な緊張感に包まれていた。それもこれも、先日担任の教師によって告げられた、下位クラスとの決闘が、いよいよこれから始まるからである。
「……信じられるか?」
「いや? だって……あのGクラスだよ?」
FクラスもGクラスも、どんぐりの背比べとはいえ、明確にクラスが分けられている以上、そこにははっきりとした差が存在している。
具体的に言えば、Gクラスの異能者が5人がかりで、ようやくFクラスの生徒1人を道連れにできるくらい。つまり、Fクラスの生徒が10人もいれば、Gクラスの制圧は可能。それくらいの実力差だ。そして同じくらいの実力差が、1―Fクラスと1―Eクラスには存在している。
そんなEクラスどころか、Aまでの全クラスを相手取る決闘と聞いて、Fクラスの生徒たちはさらに耳を疑うことになった。
「アイツら、
「あり得る。鬼人の授業、キツいもんな。俺、少しだけGクラスになったことあるけど、あんなのマジで地獄だぜ。なんだったら、授業時間中、ずっと立ちっぱなしだし」
拷問に等しい責め苦に人格否定までされたら、やけくそになってしまうのもわかる。だが、劣等感に包まれたGクラスが決闘を仕掛けてくるというのは、少なくとも5年はなかったはずだ。それは、鬼人がちょうどGクラスの担任を務めるようになった頃と一致する。
「……例の、鬼人を倒したっつー編入生? アイツが絡んでるって噂だぞ?」
「どんな奴なんだろうね、その編入生」
「もしかしたら、宣戦布告に来るかも……」
Gクラスからの宣戦布告を待ち受け、Fクラスの戦闘自慢の生徒たちは、みな教室のドアの前に集まる。そして、指をボキボキと鳴らし、ドアが開くのを待ち構えていた。
クラス単位の決闘は、宣戦布告から始まる。それは、決闘を申し込んだクラスの代表が、敵のクラスへ乗り込み、ケンカを売ること。そうすることで、初めて決闘が始まる。
……もっとも、乗りこんだ時点で決闘が始まるため、乗りこんだ者は大概、袋叩きにされて終わる。なので、この役目を担うのは、クラスで最も戦力にならない者だ。それを分かっていて、Fクラスの面々はニヤニヤと笑っている。
――――――そんなニヤついていた生徒のうち最前列にいた3名の顔面に、ドアがぶち当たった。
「「「――――――ぶべらっ!?」」」
鼻血をぶちまけながら、3人は仰向けにひっくり返る。本来彼らにぶつかるはずのない教室のドアは、壁に固定されるためのリールが砕け、宙に舞ってから音を立てて教室に落ちた。結構な大きさのドアだが、決闘のために机は片付けられていたため、被害は少ない。
「なっ……!」
ドアが吹き飛んだ理由は、向こう側にいた人物の姿勢でわかった。ズボンのポケットに両手を突っ込み、突き出された右足。前蹴り、あるいはヤクザキックというべきか。それにより、教室のドアは蹴り飛ばされたのだ。
その姿勢を取っていた人物は、睨むような赤い瞳に、赤くとげとげした髪。どう見ても一般的な、勉強や部活に従事し、青春を謳歌しているような高校生ではない。もっと暴力的で粗暴な――――――そう、不良。そういう言い方が合致するだろう。
そしてFクラスの面々は、この男の顔を見たことがなかった。つまりは――――――。
「……鬼人を倒した、編入生……!」
「……アイツそんなに有名なのか」
編入生、
「……あー、あれだ。決闘の、宣戦布告、だっけ? それ、やりにきた」
首元をさすりながら教室へと入り込んでくる挑戦者に、Fクラスの一同は固唾を呑んだ。蓮の蹴りによって倒されたのは、Fクラスでも主力。核となる面々は、顔面を押さえて倒れたままだ。
「……ほ、本気なの? 貴方たち」
「あん?」
「私たちや、Aクラスまで、全員相手どるって話よ」
蓮を睨みながら声をかけたのは、Fクラスのクラス委員長である女子生徒である。蓮も彼女を一瞥すると、首をゆっくりと、ぐるりと一周させた。
「……あー、そうだな。そうか、他のところも回らねえといけねえのか。めんどくさ」
「ちょっと……聞いてるの!?」
委員長の言葉を無視して、蓮は教室の1番前、黒板の前へとずかずかと歩いていく。ドアを蹴破った迫力からか、クラスの誰も、蓮の進行を妨げることはしなかった。
そして、黒板の前に立つ。一体何をするつもりなのか、クラスの誰にも分からなかった。
******
彩湖学園1―Aクラスは、異様な緊張感に包まれていた。それもこれも、先日担任の教師によって告げられた、下位クラスとの決闘が、いよいよこれから始まるからである。
「……信じられるか?」
「いや? だって……あのGクラスだよ?」
「アイツら、
「あり得る。鬼人の授業、キツいもんな。俺、少しだけGクラスになったことあるけど、あんなのマジで地獄だぜ。なんだったら、授業時間中、ずっと立ちっぱなしだし」
「……例の、鬼人を倒したっつー編入生? アイツが絡んでるって噂だぞ?」
「どんな奴なんだろうね、その編入生」
「もしかしたら、宣戦布告に来るかも……」
全く同じような会話が、1―Aの教室でも繰り広げられていた。そして彼らも、今か今かと宣戦布告を待ち構えていた。
「……案外、他のクラスにボコボコにされて、うちのクラスには来ないかも――――――」
なんて、呑気に話していた時である。
教室の後方から衝撃波が突き抜け、クラスに風穴が空いたのは。
「――――――え?」
突風が吹いたかと思えば、窓ガラスが割れ、机や椅子が巻き上げられ、吹き飛ばされていく。教壇なんかは衝撃に耐え切れず、木っ端微塵に砕け散り、木くずとなって宙へ舞った。
あまりの事に、Aクラスの生徒たちは、悲鳴も上げることができなかった。ただ、全員、完全に油断していたからか、衝撃に立っていることができず、床に倒れこんでいる状態。
穴が開いた教室後方だった部分を見やると、穴の向こうからBクラスの生徒たちも、同じように倒れ、呆然としていた。その向こうにはCクラス、さらに向こうにはDクラス、Eクラスも。
立っていたのは、Fクラスの面々のみ。そして、全6クラスを貫いた風穴の中心、始点に立っているのは、見たこともない男子生徒。
こぶしを振りかぶった姿勢を見るに、この男のパンチで、教室の壁はまとめて吹き飛ばされた。目の前の状況を見るに、そうとしか考えられない。
「……おー、これで楽になったな。じゃあ……」
男はこぶしを引っ込めると、じろりと遠くにいるAクラスまでの生徒たちを睨む。
「――――――宣戦布告だ。お前ら全員、ぶっ殺す」
目の前の破壊に、赤い眼光。怪人だって震え上がる、「最強」の威圧。いくら異能持ちとは言え、普通の学生が、到底耐えられるものではない。
それだけで8割の生徒は失神し、6割の生徒は失禁してしまった。
******
「ただいま」
「あ、戻ってきた!」
蓮がGクラスの教室に戻ってくると、ゼロたちが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!? すごい音がしたんだが!」
「あ? ああ、大丈夫だけど。全然」
「というか、宣戦布告……無事に終わったの?」
不安そうに言う宮本に対し、蓮は軽く言い放った。
「ああ、それだけど……勝ったわ。決闘」
「「「え!?」」」
宣戦布告しに行っただけで、蓮は勝利をもぎ取ってきたのだった。
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