13-ⅩⅩⅢ ~霊流弾丸(レイル・バレット)~

「――――――命中しましたね」

「さすが、お見事です! クロム特級師!」


 徒歩市中心街の建物の屋上にて、銀の拳銃と双眼鏡を構えながら、バランスを崩したトゥルブラを見やっている人物がいる。聖教徒の特級エクソシスト、クロムだ。その側には、大柄のエクソシスト、ラブが控えている。


 愛からの連絡を受けてすぐさまクロムに連絡し、すぐさまクロムも合流したのだ。徒歩市の中心街、クリスマスムードの中を警戒していたので、合流自体はすぐにできた。


 そして、彼の用意していた銀の拳銃を使って放った霊流銃レイルガンで、トゥルブラを撃ち抜いたのである。


「それにしても、よくこの距離から狙えましたね……」

「弾丸さえ見失わなければ、ある程度はコントロールできます。そういう風にしてますからね」


 特級エクソシストともなると、当然全員霊流銃を使えるのだが、その中でも個性を出すため、各々創意工夫をしている。クロムも当然、その例に漏れなかった。

 彼の場合は、霊流銃を霊力の塊としてではなく、実弾で放っている。一般的なのはアイニや愛の、霊力を指先に充填して放つ、というものだ。

 だが、彼はその手法を取らない。だが別に、クロムが一般的な手法ができないわけではない。あくまで「この方が効率的」という、彼の判断である。


 悪魔に対し有効と言われている純銀の弾丸に、彼は霊力を込めている。弾丸に込めた霊力は劣化しないようにして、いつでも使えるように保存していた。

 そしていざ戦闘時。同じく純銀製の銃を使って、クロムは弾丸を放って攻撃するのである。


 この時、拳銃にも霊力を込める。ここでの霊力は弾道操作のための霊力なので、弾丸に霊力をストックしておく必要があるのだ。


 クロムは元々、霊力の高い方ではない。その代わり、ストックしておくためのツールと、実際に霊力を使うときのコントロールを磨いた。


 トゥルブラの肩を貫いた弾丸は、一度外れたもののクロムの霊力操作によって軌道を変えて戻って来た。彼は、視認できれば自由自在に弾道をコントロールできる。

 今は夜であり、トゥルブラの周囲は闇だ。霊力の光で照らされた弾丸を見失う道理はない。


 そして、彼の強みは、それこそ連射が可能である、ということだ。


「トゥルブラの高度は?」

「少し下がった程度です。移動速度は落ちたようですが……」

「よろしい」


 すぐさま銀の銃に、次の弾丸を込める。撃つ際に霊力は込めるので連続で撃つことこそできないものの、弾丸さえ取り換えれば再び撃てる。「霊流弾丸レイル・バレット」というのは、クロムにしかない特徴であり、固有の技であった。。


 ――――――だからこそ、すぐさま霊流銃を充填できる愛は異質なのだが。


「……やはり、致命傷にはなりませんか。真祖ともなると、銀の毒もさほど効かないらしい」


 打ち込んだ純銀の弾丸は、一発当たれば並みの吸血鬼ならもがき苦しむ代物なのだが。恐らく、着弾の瞬間に身体を霧に変えて、体内に弾が残るのを防いでいる。瞬時にそんなことができるあたり、真祖は一筋縄ではいかない。


「ミズ・タチバナの霊流銃が、いい具合に奴にプレッシャーを与えていますね」

「ええ。しかし、あの娘があんなに凄まじいとは……!」


 ラブもアイニから聞いてはいたものの、実際に目の当たりにするととんでもない霊力である。あんな量、上級エクソシストでもいない。


「――――――霊力の使い方も、いい師に巡り合えたようですしね」


 クロムは呟きながら、次弾の装填を終えた。


******


「凄い、当たった……!」

『いや、ていうかなんだ今の!? 180度曲がったぞ!?』


 愛とエイミーが、クロムの霊流弾丸に目を丸くしていると、再びスマホからアイニの声が聞こえてくる。いや、正確にはずっと彼女は喋っていたのだが、聞いていなかっただけだった。


『愛! 聞こえる!? 今、クロム特級師の攻撃が、奴に命中したわ!』

「はい! 見てました」

『それで、クロム特級師があなたと話したいってことだから! 今から繋ぐわね』


 アイニの言葉から少し経つと、少し砂嵐のような音がする。そして、愛が効いたことのある、低く落ち着いた感じの男性の声が、少しくぐもって聞こえた。


『――――――あ、あ。聞こえてますかね?』

「……クロムさん?」

『うん。聞こえているようですね。良かった。お久しぶりです。ミズ・タチバナ。今、私はラブ牧師の持っている無線を通して、貴方と話しています』


 クロムはアイニとは別の場所にいるらしく、そこから無線でアイニとは通話をしているらしい。それをスマホと近づけることで、辛うじて通話を可能としているらしかった。


『私の霊流銃は、あなたほどの威力はありません。恐らく、あの程度ではあの男を倒すことはできないでしょう』

「……倒す倒さないはともかく、私のお友達が捕まってるんです! 何とかなりませんか!?」

『―――――――そのためには、他でもないあなたの協力が必要不可欠です』


 クロムの冷静かつはっきりした受け答えに、愛はごくりと生唾を呑む。


『助けましょう。必ず』

「……はいっ!」


 そうして、クロムと愛たちの、共同戦線が展開されようとしていた。

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