13-ⅩⅩⅡ ~追撃のエクソシスト~

 徒歩市上空を飛行している愛のスマホが、突然鳴り出した。


「わっ!」

『電話か!? こんな時に……!』


 飛行するエイミーは舌打ちするが、愛はその連絡先を見やった。もしかしたら、(頼りになる)蓮さんや安里さんかもしれない……!

 結果は、2人ほどではないが、愛にとっては信頼できる人だった。


「エイミーさん、私、電話出たいんだけど!」

『何!? ……ったく、わかったよ! 無茶な飛行はしないから、手短に済ませろよ!』

「ごめん、ありがとう! ……もしもし、アイニさん!?」

『愛!? ……貴方、今どこにいるの!?』


 電話の主はエクソシストのアイニ。愛に悪霊との向き合い方を、最初に教えてくれた人だ。

夜道と出会ってから教えを乞うことは少なくなったものの、時々気にかけて連絡をくれる、面倒見のいいシスターさんでもある。


「今、っていう人に友達が攫われてて……! 追ってるんです!」

『トゥルブラ!? ……やっぱり!』


 電話の向こうで、アイニが舌打ちしている音がする。エクソシストが知っているということは、悪霊案件なのか。愛はてっきり、怪人案件だと思っていたのだが。


『……いい!? あなたは今すぐそこから離れなさい! そいつは危険な吸血鬼ヴァンパイアなのよ! 今からクロム特級師がそっちに向かうから!』

「でも、このままじゃ逃げられちゃう……!」

『危ないって言ってるでしょ!? いいから戻りなさい!』


 電話の向こうでアイニは叫ぶが、「はいそうですか」と引き下がって帰るわけにもいかない。なにしろもう、徒歩市の上空に愛たちはいるのだから。


「……あっ! アイニさん、待って! アイツ、こっちを見た!」

『え?』


 愛の視界に入ったトゥルブラは、一目散に逃げようとする。その速度は、明らかに先ほどよりも速い。


「に、逃げられちゃう!」

『ちょっと、下手に追ったりしちゃダメよ! 危険なんだから……!』

「でも、このままじゃ十華ちゃんが……!」

『だから、それはこっちで何とかするから……何、ラブ? え? クロム特級師が? ……はぁ!?』


 なんだか急に、アイニが電話の向こうで勝手に困惑し始めた。愛もどうしていいのかわからないので、とりあえずエイミーにトゥルブラを追ってもらう。

 少しして、アイニから『もしもし!?』と通話が戻ってきた。


『――――――今、クロム特級師が合流するから! あなたたちは戻りなさい!』

「クロムさん?」


 エイミーは『誰だそれ?』と首を傾げるも、愛はその名前を知っていた。夜刀神刀を手に入れた時にやって来た、アイニよりも上級であるというエクソシストの男性だったはず。すぐに海外に帰ってしまったので、あんまり交流はなかったのだが。


「でも、クロムさん、一体どこにいるんだろ――――――?」


 そう言いながら、愛が眼下の街並みを見下ろした時だ。


 きらりと、白い閃光が、ビルの一角から走る。愛が霊流銃を放った時と同類の、白い閃光が夜空へと伸びていった。

 白い光はトゥルブラをまっすぐに狙っており、そして――――――。


「――――――よけられた!!」


 トゥルブラは空中で身をひねるように翻し、放たれた霊流銃を躱した。


******


 不意打ち同然の攻撃だったが、先ほどの高出力の霊流銃と比べたら大したことはない。

 トゥルブラは回避をしながら、そんなことを考えていた。


(彼女が撃った気配はない。となると、仲間のエクソシストか? あの子も、可愛い顔してエクソシストなのかネ)


 先日街で出くわした時も、彼女には同じく高い霊力を持った男の幽霊がいた。とすると、あの男がエクソシスト関係者なのか。


(――――――だとすると、随分と生きにくい世の中になったものだネぇ)


 そうして、再び愛とエイミーを警戒する。彼にとっては、今まで散々戦ってきたエクソシストの霊流銃よりも、たった今現れた尋常ならざる少女の霊流銃の方がよっぽど脅威度が高い。――――――というか、ドラゴン居たらそっちの方を警戒するって、普通。


 ――――――そんな普通の感性こそが、トゥルブラの油断だった。

 愛の方ばかりを警戒していたトゥルブラは、先ほど回避した霊流銃が消えていないことに気付いていなかった。


 そして、その霊流銃が、軌道を変えていたことも。


「――――――っ!?」


 音のない攻撃にトゥルブラが気付くには、いささか遅かった。


 気づいた時には、トゥルブラの右腕を貫いていたのだ。

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