13-ⅩⅩⅠ ~夜空を照らす霊流銃に~
「――――――おや、彼女、何かする気かナ?」
徒歩市の上空を飛行していたトゥルブラは、自分の下を飛ぶ少女たちを見やっていた。いや、少女たちと言っても、片方はドラゴンになっていたから少女と呼んでいいのかわからないが。彼は紳士なので、一応どんな姿でも「少女」扱いは忘れない。
一方、人間らしい女の子は、それこそ何かアクションを起こそうとしているようだが――――――。
「――――――へえ。
800年生きるトゥルブラにとって、その技は何度も見てきたもの。神の御名の元、異形である自分を誅滅せんとするために襲い掛かってくる、数多くのエクソシストが自分に挑み、そしてそのたびに見せてきた技だ。もっとも、そのほとんどはトゥルブラに手も足も出ず、敗北していったわけだが。
そんな彼にとって、エクソシストの必殺技である霊流銃は馴染みと言ってもいい。
(……まさかあんな少女が使うとは思わなかったが、この程度は――――――)
いくらでも対処できる。普通に回避すればいいし、何だったら弾き飛ばしてもいい――――――。そう思ったところで、トゥルブラの眉がひそめられる。
(……なんか、集まっている霊力が多くない?)
かつての記憶を辿ってみても、霊流銃を使ってきたエクソシストたちのチャージ時間は、せいぜい長くて20秒。それ以上は指先に霊力を保てず、暴発してしまう可能性があるからだ。
だが、自分の下の少女は、それ以上。実に3倍の、1分ほどもチャージしている。今まで見たことのない強さの光だった。
そして、1分のチャージを終えた愛が、とうとう霊流銃を放つ。平均の数倍以上にも長時間、そして濃縮された霊力は――――――。
「うおおおおおおおおお!?」
トゥルブラが思わずのけぞってしまうほど、強烈な霊流銃が、漆黒の夜空を照らした。
弾道を見るに、最初から当てるつもりはなかったのだろう。いわゆる威嚇射撃だったのだろうが――――――。
それにしても、威力が高すぎるだろう。もっとも、普通の女子高生である愛のぶっつけ本番の霊流銃で威力の調整など完璧にできるはずもないので、そんなものを求める方が酷なのだが。
「……いや、噓だろう!?」
あまりの威力に顔をひきつらせたトゥルブラは、ぱっと下を見やる。すると――――――。
「……んなっ!?」
さらにトゥルブラは驚きの声を上げた。愛は、もう既に2発目のリロードを始めている。
少なくともあんな威力の霊流銃を撃てば、並の霊能力者ならばしばらく動けなくなるはずなのだ。霊流銃による霊力の消費は、思いのほかエネルギーを消費する。
だが、並外れた霊力を持つ愛には、あの程度の霊流銃はさほどの消費ではなかった。
******
『お、おい! 愛、あれのどこが威嚇なんだよ!? 下手すりゃ十華もろとも消し飛んでたぞ! 今の技!』
「ちょ、ちょっと力みすぎちゃった……」
そりゃ、ぶっつけ本番だったし。夜道と霊力修行をするようになってから、この技の練習をすっかり忘れていた。……というか、夜刀神刀を拾ってから剣術と合わせた修行ばっかりだったので、この技の存在を忘れていたまである。
「……でも今ので、感覚掴んだから! 次はもっとうまく撃てるから!」
『次!? お前、まさか……!』
驚くエイミーの上で、愛はもう既に2発目の充填を開始していた。
『おいバカよせ! 変に何発も撃って、十華に当たったらどうするんだよ!』
「大丈夫……大丈夫だから……!」
『大丈夫なわけあるかぁ!』
あんなもの、素人が簡単に撃っていいものじゃない。ましてや普通の銃すら撃ったことのない日本人だ。さっきの威嚇射撃も、最初に狙った位置からさらに大きくずれていた。
撃った愛本人は、あまりの威力を放ったことでちょっと引きつりながらも笑みを浮かべている。ちょっとやばい微笑みだった。
(この傾向は、良くないぞ……!)
元地球侵略の前線部隊長だったエイミーはこんな症状を知っている。実戦経験の乏しい新兵などが初めて武器を使うと、気分が高揚してしまい暴走してしまいそうになるの事がままあった。この時の新兵らの表情と、愛の顔は同じような笑みだ。
(――――――トリガーハッピーは、宇宙共通か……!)
エイミーは急旋回すると、愛とトゥルブラとの距離を取った。思いがけない旋回に、愛の身体はがくんと揺れる。
「わっ!! エイミーさん!?」
『落ち着け、愛! あの一発で威嚇は十分だ! もう撃つな!』
呼びかけ旋回しつつも、エイミーは照らされたトゥルブラの姿を逃がさないようにしっかり追う。彼も今の威嚇射撃が効いたのか、こちらの様子をうかがっていた。そして、背を向けるように、再び飛び去ろうとする。しかし、さっきの光の影響で、姿はバッチリとらえられていた。
『逃がすか!』
エイミーは高度を上げると、再びトゥルブラを追い始めた。
******
「何!? 今の!」
「雷……?」
突如光に照らされた徒歩市メインストリートのネオン街は、騒然としていた。雪はぱらぱらと降っているので、雷がないとは言わないが。それにしても、異様だ。雷ならば光った後に、音が鳴るはず。その音がない。
奇怪な現象に周囲がどよめく中、口を大きく開けながら空を見上げている者がいる。ツインテールで茶髪の女性と、大柄な男。互いに白を基調として、十字のエンブレムが付いた制服を着ている。エクソシストのラブとアイニのコンビであった。
「……今のは、まさか……霊流銃か!?」
「それで、あんな出力で撃てると言ったら……!」
エクソシスト界隈でも、夜空を照らすほどの出力で撃てるほどの霊力を持っている者などそうはいない。そんなことができる人物は、アイニには一人しか思い浮かばなかった。
そして。
「……アレは……!」
一瞬光った夜空に照らし出された黒い影。上空にいるためはっきりとは見えなかったが、マントに男性のような姿をしている。
「まさか……!?」
ラブとアイニは互いに顔を見合わせると、すぐさま行動に移るために頷いた。
「……俺はクロム特級師に連絡を取る! お前は……」
「ええ! あの子に問い詰めないと! あんなところで何やってんだ!?」
そうして互いに、スマホを取り出した。
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