4-ⅩⅥ ~合流、無人島探検隊!!~

 紅羽蓮たち一行と安里夢依たち一行が島に上陸したのは、ほぼ同時だった。

 そして、互いに目を丸くする。


 お互い、へんてこな同行者が追加されていたからだ。


「……なんだその毛むくじゃら」

「そっちこそ、何そのでかっ鼻」


 そしてかくいう毛むくじゃらとでかっ鼻も、お互いの姿を見て驚きを隠せずにいる。


「き、キジムナー! お前らも捕まったのか!?」


 頭にヤシの木をはやしたでかっ鼻が叫んだ。そんな彼は蓮によって、後ろ手に縛られている。


「キジムナー? これが?」


 毛むくじゃらは正確に言えば小さい毛玉の集まりだ。そのうちの一つは夢依の頭にちょこんと乗っかっており、かつ、かなり元気がないようだった。


「よ、弱ってるの? その……子?」

「うん、私のせいで鬱になっちゃったみたいで……」


 鬱? と蓮たちは首を傾げたので、夢依は先ほどやらかしたことを素直に話す。


「あの野郎、遅刻した理由がそれかよ……!」

「でも、夢依ちゃんのために造ったってことは、やっぱり心配だったんじゃない?」

「だとしても、こんなおっかないもん造りやがって……!!」


 メランコリーの鬱にするビームの威力は正確には分からないが、それでも当たったものを鬱にする効果があるというだけでも相当のものだ。おそらく、もう片方も碌な能力じゃないだろう。


「ったく、あのバカはよ……」


「き、キジムナーは死んでしまうのか!?」

「さあ……」

「さあ、って!」


 でかっ鼻が夢依につかみかかろうとするのを、蓮が頭のヤシの木をひっつかんで止める。なんにせよ、細かい説明をしてもらうために、安里たちと合流しないといけない。


「……で、アイツがどこにいるか、だけどよ……」


 蓮は鼻をひくつかせながら言う。

 先程からぷんぷんと匂うのは、香ばしい塩コショウの香りだ。

 ボーグマンが示すアイコンには、すぐ近くにいるという事は分かる。だが、そんなもの見なくても、彼の居場所はすぐにわかった。


 蓮たちはそろって、向こうに上がっている煙を見上げた。


***************


「ああ、蓮さん。面白いもの連れてますね」


 合流した安里は、テレビクルーたちと一緒にバーベキューとしゃれこんでいた。バーベキューというイベントのせいか、ボートが沈む前はあんなに怒っていたディレクターも、すっかり笑顔で和気あいあいとしている。


「……なんだよ、お前らばっかり楽しやがって」

「そんな言い方ないでしょ、主に人命救助してたのはこっちなんですから」


 そう言って安里は蓮に魚を押し付けた。蓮もとりあえず頬張る。塩コショウが効いていて、そこそこに美味しい。

 蓮は「……ったく」とだけ言い捨て、それからは黙って魚を食べ始めた。


「おじさん、これ」

「ん?」


 夢依が両手に抱えたキジムナーを見せると、安里はじろりとそれを見る。


「何ですかコレ?」

「お、お前のせいでキジムナーがこんな風になったって聞いたぞ!」


 でかっ鼻が声を荒げる。彼は今、ボーグマンに両手を押さえられていた。安里は彼をみて一瞬目を丸くするが、すぐに元に戻る。


「ああ、ディレクターさんの頭にぶち当たったのは、あなたの頭のヤシの実ですか」

「答えろ! キジムナーを治せるのか!?」


 安里は夢依の両手からキジムナーをつまみ上げると、じろりと身体を見回す。いくらか指でつ付いて反応を見ると、どうやら原因が分かったらしい。


「ははあ、さてはメランコリーの力で鬱になってますね。外傷がないのにぐったりしている」

「叔父さんが作ったんでしょ、何とかならないの?」

「そりゃ何とかできますよ。僕が作ったんですから」

「ほ、本当か!?」


 でかっ鼻が顔を安里に近づける。安里の半身ほどもある顔面の迫力は凄まじい。安里は思わずのけぞった。


「治しはできますけどね、こちらとしてもいろいろと聞きたいことがあるんですよ。それを教えてもらうのが治す条件、というのはどうでしょうか?」

「む、むむむむむ……」


 でかっ鼻はしばしうなったが、観念したらしく座り込んだ。


「……いいだろう。ここまで来てしまったものはしょうがない」

「ほう、ここまで。やはりこの島には何かあるんですね」

「そうだ。今までこんなところに人間なんぞ来なかったのに、この間みすみす侵入を許してしまってな」


 おそらく、タレコミを流した大学生たちの事だろう。


「なるほど、この島にある石碑とやらを見に来たんです。触ったり荒らしたりするつもりはありませんよ」

「……本当か? お前ら、島のお宝を狙ってるんじゃ……」


 でかっ鼻の言葉に、テレビクルーたちの目が丸くなった。蓮たちも、思わず顔を見合わせる。


「……あんの? 宝」

「あ? あるぞ。俺たちが先祖代々守っている、大事な大事なお宝が……」

「いいですよ、もうその辺で」


 このままだと詳細なことまでべらべらと喋り倒しそうなでかっ鼻を、安里は制した。


「僕らは純粋に石碑を見学しに来ただけです。ね?」

「あ、ああ……」


 ディレクターに目くばせして頷かせると、安里はにっこりと笑った。


「なので、石碑の場所に案内してください。ちょっと見たら、すぐに帰りますから」

「そ、そうか……なら、いいぞ。案内する。だからキジムナーを治してやってくれ」

「はいはい、そうでしたね」


 安里はそう言うと、ぐったりしているキジムナーを手でくるむ。でかっ鼻は心配そうに見つめていたが、蓮達には何をやっているのかすぐにわかった。同化侵食だ。

 つまりは、キジムナーを浸食して、鬱状態を失くして再構築するというわけだ。事情が分かっているとおぞましい光景である。


 そして、少し手をムニムニさせた後。

 開かれた両手の中には、先ほどとは打って変わって目を見開いたキジムナーがいた。


「おお、キジムナー! 元気になった!」


 でかっ鼻の頭の上に、キジムナーが飛び乗る。にっこりと笑う安里は、さながら彼を救った扱いだ。原因もこいつなのに。


「おお、おお、良かった! 良かった!」

「それじゃあ、案内をお願いします。ええと……」

「おお、俺か! 俺は『ヤシ落とし』だ!」


 でかっ鼻、改めヤシ落としは、そう言ってニカッと笑った。

 そうしてがっしりと握手を交わす二人を見て、蓮は溜息をついた。

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