4-ⅩⅦ ~安里修一は、わかってる~

 例の石碑は、島の中央に位置しているそうで、ヤシ落としとキジムナーが、森の中を先導して歩いてくれていた。


「俺たちはこの島の植物の精霊でなあ。俺は見ての通りヤシの木、そんでこのキジムナーはガジュマルの木の精霊なんだ」

「精霊……」


 勝手に話してくれるヤシ落としの話を、ディレクターは首を傾げながら聞いていた。

 首を傾げていたのは、この精霊たちがカメラに全く映らなかったからである。カメラに収めることができれば、一大スクープになっただろうに。


「ま、そうだわな。アイツらも俺も、根っこはおんなじよ」

(……まあ、そりゃ夜道さんは、カメラには映らないですよね)


 刀の中から聞こえる夜道の声に、愛が心の中で答える。精霊も幽霊も、同じ「霊」なのだから、現世の機械でとらえられないのは当然だ。


(……あれ? だったら、なんでボーグマンさんはあの精霊さんたちが見えてるんだろう)


 愛はそそそと安里の近くによると、そのことをこっそり耳打ちする。


「ああ、そんなことですか。ボーグマンのカメラは特殊なんですよ」

「いや、特殊って……霊が見えるカメラなんて、どうやって作ったんですか?」

「ほら、愛さんに憑りついた悪魔がいたでしょう。ネ……なんでしたっけ」


 ネ……何某というのは、愛に憑りついた悪魔の事だ。愛に憑りつき呪いを振りまいた悪魔だったが、蓮たちによって倒され、最終的には安里に浸食された悪魔である。


「ボーグマンの目には、彼の眼球を流用しているんですよ。なので、ボーグマンには霊的存在が見えるんです」

「……え、ちょっと待ってください。それって、安里さんが持ってたものをボーグマンに……」

「ええ、そうですよ」

「……ってことは……まさか……」


 青ざめる愛は、安里の顔を見た。にっこり笑う安里は、閉じていた眼を開く。

その眼球は、見覚えのある不気味な光をたたえている。


「ええ、なんか面白い方を連れていますよね」


(ばれてるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?)


 愛の心の叫びを察したのか、安里はにっこりと笑った。


「心配なさらず。他の方は知りませんから」

「ほ、本当ですか?」

「知られたくないんでしょ? 特に、蓮さんには」


 安里の言葉に、愛は小さく頷いた。

 すでに降霊やら憑依やら、さらには霊能探知までやっているので、今更だと思うが、最後の一線である、夜道に憑依されて戦えることだけは、どうしても隠したいらしい。


(だから、今更だと思いますけどね)


 そこまで言うのは野暮だというのは、流石に安里でもわかることだった。


 安里と一通り話し終わった愛は、蓮の近くへと戻ってきた。


「お前、何話してたんだ?」

「えっ? いや、なんでも?」


 蓮はじろりと愛の顔を見るが、「ふーん」とだけ言って再び黙り込む。愛はほっと胸を撫で下ろした。

 蓮が黙り込んだ理由は、再び焼き魚を食べ始めたからだ。


「ところで、撮影はどうするんですか?」

「ああ、今夜近くに泊めさせてもらえるそうだ。だから、明日道のりとかを撮影する感じだな」

「まー、典型的なやらせですねえ」

「しょうがないだろう。ここで下手に騒いで気を悪くされたらかなわん」


 ディレクターは安里にそう言い、ため息をついた。何しろ、撮影機材のほとんどがだめになってしまった。残っているのは、小型のカメラにマイク、照明が一つずつだけだ。

 おまけに、この島に来るには片道でも6時間はかかるのだ。このままでは、帰るに帰れない。


「……修一君、ごめんなさいね。こんなことになっちゃって」

「いえ、いいですよ。これはこれで結構面白いことになっていますしね」


 詫びる夕月に安里はあっけらかんと答えた。


「それにしても、あなたのお友達、すごい……人? を連れてきたわね」

「それは僕もびっくりですよ。ま、だからこそつるみ甲斐があるってものです」

「……楽しそうね、修一君」


 夕月は蓮たちを見やると、ふっと笑った。


「ええ、居心地いいですよ、ウチの事務所は。今度来ます?」

「……うん。そうする」


 この言葉は、安里に夕月たちの元へ来る気がないことを、はっきり告げていた。

 夕月も、安里の言葉にうなずくしかなかった。

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