14-ⅩⅢ ~徒歩拘置所への目的~

 世間一般的に、犯罪を犯した人間というのは、一体どこにいるだろうか。

 恐らく、愛のような一般の人だと、「刑務所」と答えるだろう。実際それは正解だ。そう、犯罪を犯した人間であれば。


 では、犯罪をしたと認められるのは? 


 それは、時だ。さらに言えば、執行猶予などもなく、実刑判決を食らった時。そうして犯罪者は、刑務所に収監されるのである。


 では、裁判がまだ終わっていない場合は、一体どこにいるのか。まさか、自宅にいるというわけにもいくまい。


 そう言った「裁判待ち」の人たちがいる場所。それが、「拘置所こうちしょ」だ。


 そして徒歩市の拘置所は、推定日本で最も怪人の多い拘置所である。本来ならば、日本国内でも有数の防衛設備をもって然るべきだが。


 ――――――12月25日現在、拘置所の職員は皆いなくなっていた。


 当然、「クリスマスだから」などという浮ついた理由ではない。巨大怪獣の出現により、職員は皆避難してしまったのだ。


 なのでわざわざロックのセキュリティを解除する必要もなく、あっさりと拘置所内には侵入できた。

 拘置所のメインスペースを通り過ぎ、まっすぐに安里たちは勾留エリアに向かう。裁判待ちの方々が、もれなく檻の中に収監されているエリアだ。


 勾留されている人たちは、堂々と檻の外を歩いている集団に驚きを隠せないようだった。


 そして、中にはこんな人も。


「……あ、お前、ニーナ・ゾル・ギザナリア!? なんでお前がここに!」

「……あ、何だお前、捕まってたのか。間抜けな奴だなぁ」

「誰のせいだと思ってやがる! お前のトコの赤青姉妹にやられてなきゃ、俺は今頃……!」

「悪いがお前に構っている時間ないんだ。またな」


 男はギザナリアを見たとたん、髪の毛を逆立てて騒ぎ出した。当のギザナリアはため息をついて、ひらひらと手を振る。


「お知り合いですか?」

「アレ、カーネル36サーティシックスの末席だった奴だぞ。昔、わらわの組織にちょっかいかけてきたことがあってなぁ。ちょっと軽く揉んでやったことがあった……気がする」


 カーネル36は0~36の合計37の組織で構成されており、数字が大きいほど末端になるのだが、末数になればなるほど入れ替わりも激しい。末席に名を置くだけでも結構なネームバリューになるのだが、末席になったからって別に偉くなったわけでもない。

 結果調子こいて大失敗をやらかし、あっさり数字をはく奪される――――――とかもざらなのだ。


「確か一番早くて、数字もらって3日で取られた組織とかありましたね」

「そうそう。あの時はカーネルの奴も「勘弁してくれ……」って頭抱えてたな」

「……ふんっ」


 カーネル36の話になり、エイミーは露骨に不機嫌になった。彼女の祖国、クレセンタ帝国もカーネルにより「5」の数字をもらっていたが、結局彼の気分次第で弄ばれたに過ぎない。末数がどうとかいうが、結局「0」であるカーネルの掌の上なのだ。それも含めて彼女は、国の仇であるカーネルに対し、沸々とした怒りを抱えている。


「……あの、安里さん、ところで、何でここに……?」

「愛さん、貴方は今まで関わった事件、覚えてますか?」

「え? ええ、もちろん」

「ええ。では、その犯人はどこにいるでしょう?」


 安里はそのように問うたが、そんなの決まっている。拘置所ここだ。そうでなければ、わざわざこんな時にこんなところに来ないだろう。


「……じゃあ、その人に会いに来たんですか……?」

「ええ。……ちなみに、この後会う方なんですけど、僕らだけで会いたいと思います」

「え、何でですか?」


 首を傾げる愛に、安里はスマホの画面を指さした。ちらりとみると、そこには信じられないチャットが書かれている。


 ――――――『蓮さんの弱点を知る方に会いに行くからです』


(……弱点!?)


 思わず声に出しそうになったのを、愛は何とかこらえた。


 今、こんな事態になっている原因、「最強」の蓮さん。


 そんな彼の、「弱点」を知る人……?


 愛はちらりと安里を見やったが、安里はにこりと笑うばかり。


 全くもって、想像がつかないし、それがとんでもない価値の情報があることは、愛にもわかった。それは、現状だけではない。目の前のギザナリアしかり、雷霆カーネルしかり、喉から手が出るくらい欲しい情報のはずだ。何せ、世界征服の巨大なハードルを除去できる可能性がある。


 というか。


(……その、蓮さんの弱点って。……弱点、ってことだよね……)


 そうでなければ、わざわざ拘置所にまで聞きに来る必要もない。


(大丈夫だよね? ……聞き出した後、こ、殺したりとかしないよね……?)


 ちらりと安里の顔を愛は見やるが、彼の顔は相変わらず飄々として薄っぺらであり、感情をうかがい知ることはできない。

 それが逆に、不気味さを醸し出していた。


「おい、アザト・クローツェ。なんでお前とこの娘だけなんだ?」

「顔見知りなんですよ。それに、あなた方はちょっと、面会するにはいかつすぎます。萎縮しちゃって、話せることも話せない」


 当の安里はギザナリアに対して、超適当な嘘をついていた。

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