5-ⅩⅥ 〜悪の組織とヤクザ者〜

 悪の組織。言葉だけで言うとザ・反社会勢力だが、その実態は普通の反社会勢力とは大きく異なる。明確な定義付けがされているわけではないが。


 悪の組織は、「世界征服」を目的としている組織だ。その組織が明らかに「もう世界征服するつもりねーだろ」という活動を取っていても、それは「なんやかんやあって世界征服のための準備中なんです!」と言えば一応悪の組織は名乗れる。

 そんな中、本格的な悪の組織の場合は「怪人」という構成員がいる。それは人為的な者か、はたまた自然発生かは別として、明らかに人間を超越した力を持つ者だ。そんな力を持っているのが、いわゆる「本物の悪の組織」なのである。

 なので、別の反社会勢力―――いわゆる「極道」というものは、この世界では完全にオワコンだ。何しろ、暴力で屈服させることでメンツを保とうとしても、普通の人間に怪人を倒せる道理はないのだから。

 それこそ紅羽蓮でも連れて来ない限り、一般ヤクザに悪の組織は潰せないのである。


 そして現在、徒歩市のヤクザ、寅不倶とらふぐ会組長寅元秀瞑とらもとしゅうめいが女怪人の椅子にされているのもそう言うわけだ。


「う、ううううううう……!!」


 女に椅子にされるなど、おおよそ68年生きてきた中でかつてない屈辱だった。女を足蹴にしたことは何度もあるが、いいように弄ばれたのは初めてである。


「……ふむ。まあ、及第点と言ったところか?」

「き、及第点、だと……?」


 自分の上に座る女は、どこから持ってきたのか、使用済みのコンドームを持っている。どうやら、中身を飲んでいたらしい。


 女は、口からペッと白い液体を吐きだした。それは秀瞑の顔にかかる。それが何かを知っている彼は、思わず顔をしかめた。


「不味い。お前の所の男は、ろくな種を持つ奴がいないのか?」

「た、種だと?」

「そろそろ妾達は計画繁殖の時期でな、強い雄を欲しているのだよ。本当はかなりいい種を持つ者を知っているのだが、そいつは事情があって、こちらも手が付けられなくてな。まあ、妥協という奴よ」


 妥協。男として、これほどの屈辱はない。女に辱められたどころか、さらには妥協扱いされるなど。秀瞑は恥と怒りで顔を真っ赤にした。


「ぐああああああああああああああああ……!!!」


 遠くから、男の悲鳴が聞こえる。荒れた部屋から、スーツ姿の男が飛び出て、倒れた。男は下半身が露になり、全身には青あざが見受けられる。


「た、辰則たつのり!」


 辰則は寅不倶会の若頭だ。次の自分の跡目を継ぐ存在でもある。ケンカの腕も一流で、殺しに一切躊躇いがない。格闘技も数多く習得してきた、戦闘マシーンだ。

 それが、見るも無残に倒れているではないか。


「お、オヤジさん……」

「辰則、お前、しっかりせんか……!」

「す、すんません……!」


 そう呻く辰則のむき出しの尻を、褐色肌の足が踏みつけた。「ぐあっ!」という情けない声を、辰則は上げる。


「ママ、こいつくらいだよ。使えそうなのは」

「ほう、そうか?」


 部屋の奥から出てきたのは、大柄な二人の女だった。片方は素手であり、もう片方は巨大な金棒を持っている。その体躯は大男ほどであり、筋骨たくましくも艶やかな肉体。金の髪から飛び出す、それぞれ赤と青の一本の角。口元から見えるのはもはや歯ではなく、牙という方がしっくりくる。それがヘビのような笑みを浮かべていた。

 この2人は、まぎれもなく怪人である。


「他は?」

「試してみたけど、どいつもこいつもダメだねえ。弱っち過ぎるよ」

「ねえ。あんなんじゃ育たないよね。こいつで何とか行けるくらいじゃないの?」

「ほう。で、どのくらい?」

「2割くらいじゃない? 受精するのは」

「ほーう……そうかあ、2割かぁ……」


 女はうーん、とうなり、首を横に振った。


「なら、ダメだな。貴重なメンバーをそんな貧弱な種の器にするわけにはいかん」


 女はぱっと立ち上がると、床に手を付いていた秀瞑を蹴り飛ばす。


「帰ろう。とんだ無駄足だった」


 そう言い、さっさと歩き去ってしまう。茫然とする秀瞑に、金棒を持った女がしゃがみこんだ。


「これに懲りたら、もう「女怪人なんて尻を叩けばいちころよ」なんて言わないことだね?」


 そう言って秀瞑の尻を金棒でバシンと叩き、その場を去っていく。


 この日、寅不倶会の構成員およそ380名が、謎の女3人により全員重症を負った。

 特に組長の秀瞑は、下半身の骨盤が粉々にされていたという。

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