6-Ⅴ ~美女との同棲生活~

 キューとの生活は、思いのほか蓮の日常を変えることはなかった。というのも完全に犬扱いなせいか、ジョンとのルーティンにキューが加わるだけ、という事が殆どだったのである。


 ……というのは、蓮の視点での話。傍から見たら、かなりただれた生活となっていたことは言うまでもない。


 そもそもとして、基本キューは蓮にべったりだった。彼女は紅羽家から出ることはないのだが、家にいる時は大体蓮にくっついている。


「でっけえ妹みたいなもんだよ。亞里亞と大して変わんねえ」


 そう言う蓮は、彼女の積極的なスキンシップを嫌がることはない。ジョンも一緒にいるからか、犬と遊んでいる感覚だった。


 ジョンもジョンで、キューのことを妹分のように思うところがあるらしい。蓮が学校やらで家にいない間は、彼がキューの遊び相手、もとい面倒を見ていた。キューとお昼寝をするときは、必ず彼が彼女の枕代わりになっている。


 食事は蓮と同じもの。それは人間の身体構造と同じだから、とりあえず犬用のエサはまずいという理由だ。ただ、食べ方は犬のそれなので、蓮が「あーん」して一口ずつ食べさせてやる。


 お風呂はさすがに蓮がやるわけにいかない。というより、亞里亞から「絶対やらせないからね!!」とのお達しを受けた。なので、キューのお風呂は亞里亞の担当である。


「……キューちゃん、凄い良い身体してんね」


 キューの身体を洗っている亞里亞は思わずつぶやいた。

 きれいな白い肌に、透き通る銀色の髪。そして何より大きなおっぱい。


 自分に何一つないものを持っているキューのプロポーションに、亞里亞はやはり蓮の誘拐説が頭によぎる。


(……やっぱり、兄貴がどっかから誘拐してきたんだろうか……)


 男子校で女とは縁がないだろうし。探偵事務所でバイトしていると言っていたが、そんなところで出会いがあるとも思えない。以前仕事で桜花院女子校に行ったとか言ってたけど、不良の兄貴にいい出会いがあるとは思えなかった。


 紅羽亞里亞は、立花愛の存在を知らなかったのだ。だから、女に飢えている兄は、こんな美人をどこかから捕まえてきて……。


「……キューちゃん」

「?」


 亞里亞はキューの肩にぽん、と手を置く。


「辛いなら正直に言ってね? 私はあなたの味方だよ?」


 亞里亞の悲しいものを見る瞳に、キューは首を傾げるしかなかった。


 それから、亞里亞ともキューは仲良くなったようで。


「ただいまー……」

「おかえり、ダーリン!!」


 学校から帰って来た蓮に抱き着いてきたキューに、蓮の目は点になる。


「……ダーリン?」

「おかえり、兄貴」


 玄関で固まる蓮のところに、ポッキーを食べながら亞里亞がやって来た。


「お前、キュー、なんで……?」

「一緒にアニメ見てたら言葉覚えちゃった」

「アニメ?」


 どうやら蓮が帰る前に、一緒にテレビを見ていたらしい。それで出てきた「ダーリン」という言葉と、男女が抱き合う姿を見て、ラーニングしてしまったようだ。


「何のアニメ見たらそんなんなるんだよ……」


「ダーリン!! ダーリン!!」


 特に「ダーリン」という単語がお気に入りになったらしい。


「ねえ、兄貴」

「あ?」

「責任、取った方がいいんじゃないの?」

「何言ってんだよ。あと3日だけだぞ?」


 3日後には、モガミガワに突貫で作らせている元に戻す銃が完成する。そうすれば、擬人化している連中も、キューも、何もかも元通りだ。


 それにしても、普段自堕落な亞里亞がここまでお節介焼になるとは。ジョンは昔から蓮が面倒見ていたし、キューがいればまともになるかもしれないな。


「……元に戻っても、里親見つかんなかったら家いるか?」


 そう言ってキューの頭を撫でても、キューは意味が分かっていないようだ。


「……ま、そん時はそん時だな」


 蓮はそう言うと、自分の部屋に荷物を置きに階段を登っていった。

 そしてその後ろを、キューも着いて来る。


 そして部屋に着くなり。


「ダーリーン!!」

「うわっぷ!?」


 後ろからのタックルで、蓮はベッドへと吹っ飛ばされた。何事かと振り返ると、キューは満面の笑みを浮かべている。


「お、お前なあ……」

「えへへー……わあ!?」


 笑うキューだったが、便乗して飛び込んできたジョンが、今度はキューにのしかかる。


「揃いも揃ってよ……まったく」


 ジョンとキューの頭を撫でながら、蓮はベッドに寝っ転がっていた。のしかかられたことに対して、犬相手だとこうも怒りが湧かないものなのか。


「……いやあ、やっぱりまずいよ兄貴。これは」


 その様子を除いていた亞里亞は、絵面のヤバさに顔を覆った。

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