14-Ⅹ ~蟲忍流秘伝奥義~
壊れた池面寺からの救助作業が一通り終わり、萌音と九十九も意識が戻った。2人とも、命に別状はなく、ケガも全く動けないほどではない。
ムシニンジャー5人は、池面寺の外れに移動していた。
そしてそこには、多々良葉金と、助け出された住職、
裏切り者の葉金がここにいること自体、おかしい事である。だが、そのことについて異を唱える者は、誰もいなかった。それどころではないことを、テレビを通して知ったからだ。
「――――――徒歩市に、巨大怪獣出現……!」
「それが、あの……翔くんのお兄さんだっていうの……!?」
ただモテヘン念が復活しただけではない。寄りにもよって、あの紅羽蓮に憑りついた。その事実は、蓮の強さを知る全員を青冷めさせるに十分である。
詩織、明日香、穂乃花の3人は紅羽蓮と葉金との戦いを目の当たりにし、自分たちよりはるかに格上である葉金を圧倒する様を見ていた。そして萌音と九十九の2人は葉金が勤め、蓮が通う綴編高校に乗り込んだ際に、わずかながら相対している。
なので、わかっていた。
この男は、到底自分たちがまともに戦える相手ではないことを。
「……そんなの、どうしようもないじゃない! 私たちが束になっても、まるで敵わないのよ!」
「だからと言って逃げたら、大勢が犠牲に……!」
「そんなの絶対ダメよ! お義兄さんはともかく、翔くんのキャリアが台無しじゃないの! 大量殺人者の弟なんて重荷、背負わせるわけにはいかないわ!」
戦える相手ではない。だが、それは彼女たちが戦わない理由にはならない。
「――――――どんな相手にも果敢に立ち向かって人々を守る。それが、蟲忍流だものね」
「愚問だな」
萌音と九十九も頷く。たとえ相手が紅羽蓮だろうと、彼女たちの戦意は潰えない。
「それに、翔くんのお兄さんってことは、逆に言えばモテヘン念さえ何とかすれば……」
「そうね。確かに乱暴だし不良で目つきも悪いし女の子でも容赦なく暴力振るったりするけれど、むやみやたらに暴れるような人じゃないから!」
女の子にも容赦なく暴力振るうというのは、主に詩織の事だった。彼女の場合、翔に夜這いを仕掛けようと毎晩のように紅羽家に侵入を試みていた時期があったので、そのたびに撃退されていただけなのだが。そのせいで眠れず寝不足になっていたので、目つきが悪いのはそれもあっただろう。代わりに葉金が止めるようになってからはいくらかマシになったが。
(……蓮殿、評価は結構ボロカスなんだな)
結構一緒にいる時間の長い葉金にとっては、若干耳の痛い部分ではある。このことは、本人には隠しておいた方がいいだろう。
「……個人的に、ああなる前の蓮殿とやり合った所感だが」
「戦ったの?」
「ちょっとな。それで……結論から言えば、モテヘン念を引っぺがすことは……可能だ」
幽体離脱の術を用いた際。想定外の抵抗こそあったものの、引きずり出すこと自体はできていた。あの時は、蓮の抵抗などもあって、葉金の右腕が折れるに終わった。現在も右腕は折れたままのものを蟲霊を使って無理やり固定しており、動かすたびに激痛が走る。
「モテヘン念も、想定外に抵抗力はあったが、幽体離脱ができないほどの霊ではなかった。次に幽体離脱を試みれば、引っぺがすことは可能だろう」
「可能って、言っても……」
問題は、どうやって引っぺがすか、だ。
幽体離脱の術は相手に直接触れないといけない上に、霊体を引っぺがすためにはそのまま霊体を掴み続けていないといけない。当然、霊体を引っぺがされそうな相手は抵抗してくる。並みの妖怪程度ならいいのだが、今回ばかりは相手が悪すぎだ。
「……加えて、巨大怪獣になってるんでしょ? そんなん、どうやって押さえ込むってのさ」
「……手なら、ある」
「あるの!?」
驚く明日香達に、葉金は懐からあるものを取り出す。それは、巻物だ。
「――――――蟲忍流、秘伝奥義。それを使えば、あの巨体でも対抗できるだろう」
「そんなのあるの!?」
「――――――お前たちは、授かっていなかったようだな」
巻物は、全部で5本。それを1本ずつ、ムシニンジャー5人に対し放っていく。
「……だったらくれてやる。俺はもう読んだし、あまり意味がなかったからな」
そう言い、葉金は5人に背を向けた。
「どこ行くのよ」
「勘違いするな。あくまで俺たちは利害の一致で動くだけ。その巻物も、俺が使うよりお前たちが使った方がいいと思うまでだ。俺だけでは、アレを押さえ込むことはできん」
5人に対し振り返った時、彼の目は鋭いものとなっていた。
「――――――精々、足止めに役立ってもらうぞ、お前たちには」
そのまま、振り返らずに去ってしまう。明日香、穂乃花の2人は、脂汗を垂らしながら、その背中を見やっていた。
「……葉金兄……!」
一方で、葉金の事情をある程度知っている詩織、萌音、九十九の3人は、冷ややかな目で彼の背中を見やっていた。
(……いや、まあ、そういう立場だからってのはわかるんだけどさあ……)
あんなわかりやすい「敵」ムーブをするとは。色々と器用にこなす癖に、そういうところは不器用なんだから、もう。
いなくなってしまった葉金を見送った5人は、各々巻物に手を伸ばす。
何の躊躇いもなく中身を開くと、そこに書いてあったのは――――――。
「「「「「……『蟲霊大変化の術?』」」」」」
5人は声をそろえて、その術の名を読み上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます