5-Ⅴ ~密談する悪の首領たち~

 すっかり不機嫌な蓮のせいで、普段から来ない依頼人も全く寄り付かない。安里はため息をついた。


「然し妙ですねえ」

「何が」

「何もかもですよ。たかだか野球場でしょ? わざわざ暴力に訴えるような真似、しなくてもいい気がするんですがねえ」

「俺だってそう思うわ。でも話持ち掛けてくるんだから、頭おかしいんだろ」

「……そんなにいいもんですかね。スポーツって」


 安里は同化侵食生命体であり、同化した人間の身体能力を真似ることはできる。だが、それを操る肝心の安里修一が運動音痴なので、うまく使いこなせない。最新機器を頭パッパラパーのアホが操作するようなものだ。なので、安里修一は基本スポーツ全般が大の苦手である。


「……ちょっと調べてみましょうか。あなたのおばさんが商店街側では関わってるんですよね?」

「ん? 麻子か? ……まあ、おばさんってわけじゃねーけど」

「なるほどですねえ」

「なんでそんなこと聞くんだよ?」


 蓮の問いかけに、安里はにこりと笑った。


「いや、なんとなくです。なんとなく」


 安里は彼女の正体を知っている。知らないのは紅羽蓮だけだ。


**************


 ニーナ・ゾル・ギザナリアは突然の呼び出しに面食らっていた。このあたりの悪の組織の顔役一派である彼女と同じ立場である悪の金貸し、アザト・クローツェから

である。


「……なんだ。突然呼び出しおってからに。妾も忙しいのだぞ?」


 ギザナリアは、怪人の時は一人称が「妾」になる。これは部下になめられないためのキャラ付けだ。


「いえね、ちょっとお話がありまして」


 アザト・クローツェ――――――要するに仮面をかぶった安里が、そう言って笑う。


「話だと?」

「件の野球場グラウンドの件については、私も聞いていますよ」

「……暇なのか? どうして貴様がそんなこと……」

「蓮さん、相当怒ってるみたいですねえ。あなたが連れてきたおじいさんのせいで」


 ギザナリアは蓮の名前が出た途端、くわっと目を見開いた。そして仮面に隠れたアザト・クローツェの顔をしげしげと見つめる。

 そして、肩で息を吐いた。


「……前々から気になっていたが……やはり、蓮ちゃんのバイト先というのは、貴様のところか」

「バイト先についてまでは聞いていなかったみたいですねえ。……というか、その姿でも蓮さんの呼び方は変わらないのですか」

「17年もこう呼んでるんだぞ。いちいち変える気にもならん」


 アマゾネスの女怪人に「ちゃん」呼びされている主人公っていったいどうなんでしょうね。安里はそう思ったが、その言葉は仮面の奥にしまっておく。


「また厄介ごとに巻き込まれてしまったみたいですねえ。あなたが巻き込まなくとも巻き込まれてはいたんでしょうけど」

「全くな。少年野球の監督も用心棒を頼むとは、いったい何を考えているのやら」

「お互い、必要以上にむきになっている節はありますよねえ」

「それな。……互いに、なにか後ろめたいことでもあるのやもしれんな」

「後ろめたいこと、ですか……」


 ギザナリアの言葉に、安里はふむ、と考え込んだ。そして、手をぱん、と叩く。


「……どうせなら、もっと大事にしてあげましょうか。それでいて、万事解決、という感じにまとめる方向で」

「できるのか? そんなこと」

「あなたにも一枚かんでもらいたいんですけど」

「冗談だろ? たかだか地元の野球チームの1つや2つで動く『ゾル・アマゾネス』じゃないぞ?」


 睨むギザナリアの目の前に、札束がポン、と放られる。安里がマントの下から取り出したものだ。


「……大人って、悲しいですよね」


 先日の蓮のように、突っぱねられれば格好いいのだが。


「……ふん」


 その金をギザナリアは露出された胸の谷間にしまい込んだ。悪の組織の懐事情は、いつだってカツカツなのだ。


「蓮さんには見せられませんね、その姿は」

「……やかましい」


 ギザナリアはそう言い、安里の頭を軽くはたいた。

 自分があの子たちに見せられないみっともないことをしているのは、自分が一番よくわかっている。

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