15-Ⅴ ~見えない何かがいるようだ?~
蓮と愛の学校への登校のタイミングは、おおよそ同じである。なので、朝は基本的に毎日同じタイミングで学校に向かうようになっていた。
そして今まではお互い登校中に合流していたが、付き合いだしてからは、愛が蓮を迎えに行くという形で一緒に学校に行っている。
(よ、よーし、平常心、平常心……)
昨日の夜道から受けた諫言もあり、愛は紅羽家のインターホンを押す前に深呼吸していた。これ以上うっとり……もとい、うっかりしていたら、本当に別々に勉強しなくてはならない。
「……よし!」
ぱんぱんと頬を叩き、覚悟を決めると、インターホンを鳴らす。
『はーい?』
「あ、立花です!」
『はいはーい。蓮ちゃんなら今行くから待っててね』
そして少しそわそわし、スカートのすそを直したりしていること、1分。紅羽家のドアが開き、そこから見慣れた赤いとげとげした髪が。
「蓮さん、おはよ……っ!?」
そう言いかけた愛の視界に、見慣れないものが映る。
欠伸をしている蓮の頭の上に、女性の
白い肌に、ピンク色の突起が、はっきりと見える、一糸まとわぬ2つの双丘だ。
「……え!?」
「? ……どうした?」
蓮の言葉に、愛がはっとすると、蓮の頭は何にも潰されてはいなかった。
目をゴシゴシとこする愛だが、蓮の頭のとげとげはいずれも健在である。
「あ、あれ?」
「何だよ、お前も眠いのか? 俺もなんだか眠くてよぉ」
そういいながら、蓮は再び盛大な欠伸をする。目もしばしばとさせながら、のそのそと歩き出した。
愛はそんな蓮の背中を、ぽかんと見やる。
(……な、何だったんだろ、今の……?)
さっき蓮の頭の上に見えたもの。自分の気のせいでなければ、あれは間違いなく女性の胸だったような気がするが……?
(どうした、愛?)
(あ、夜道さん。あの、蓮さんの、頭……)
(……ん? 別に、何もないが?)
竹刀袋から出てきた夜道に聞いてみるも、彼も首を傾げるばかり。霊能力に長ける夜道ですら、そんな反応である。
(うーん……やっぱり気のせいだったのかな?)
「おい、愛?」
愛も首を傾げるが、そんな愛を見て、少し先を歩いている蓮も、首を傾げている。
「早く行くぞ? 電車遅れるだろ」
「う、うん!」
それから愛が蓮とともに電車に乗って降りるまで、さっき見えたものが現れることはなかった。
******
多々良葉金は、妹分の露糸萌音、鳶九十九とともに、校門前で清掃をしていた。そこに、朝の登校時間を守っている律儀な不良たちがやってくる。
「あら、おはよう」
「おはようございます!」
萌音がにこりと笑いながら挨拶をすると、不良たちはピシィ! と姿勢を正す。もうすっかり、不良たちのアイドルだ。
「すっかり人気者だねえ、萌音は」
「九十九ちゃんだってそうじゃない」
「私の場合は、武闘派ばっかりなんだよねえ。なぜか」
以前押しかけてきた暴走族を華麗な上段回し蹴り(当ててない)で追い払ってから、そっちの筋に声をかけられるようになっていた。それも、「付き合ってください」とかではなく、「弟子にして下さい!」とか、そんなのばっかりだ。
「お前ら、真面目に掃除しろ。バイト代やらんぞ」
「はーい」
雑談している2人に、葉金がぴしゃりと言う。そして、竹ぼうきで一通り校門前の掃除を終え、次は校舎裏の掃除に差し掛かろう、というとき、校舎の時計が鳴った。8時10分。綴編の校則では、8時15分までに登校しないと遅刻扱いなので、これは残り5分を表している。
そしておおよそこの時間は、蓮の登校時間でもあった。
「……ああ、やはり来た。蓮殿、おはようございます」
「おう。なんだ、アンタらも一緒か?」
「ええ。ちょっとバイトでね?」
「あ、そう」
自分で質問しておいて悪いが、さほど興味もなかった蓮は、萌音の答えに適当に相槌を打って、校門をくぐっていく。
「……ん?」
校門をくぐるのを見送るさい、葉金はわずかな違和感を覚えた。
本当に一瞬。何かが、蓮の上に乗っている、と。
(……いや、何も感じない。気のせいか?)
「葉金兄?」
九十九に名前を呼ばれてはっと我に返った時には、蓮の上に覚えた違和感は、すっかりなくなっている。蓮は脇をぼりぼりと掻きながら、校舎の中に入ってしまった。
「……どうかしたの?」
「いや……」
わずかな違和感。元蟲忍衆の筆頭として、何かが引っかかる。この情報は、2人に共有すべきだろうか? 葉金は一瞬考えた。
「……いや、何でもない」
何の確証もない。仮に危険な――――――先日の大怨霊モテヘン念やNTRリベンジャーのような案件であれば、準備する必要がある。そのためには、まずは下調べをする必要が出てくるだろう。
2人には時期を追って伝える。そう決めた葉金は、ごみ袋を抱えて校舎裏に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます