12-ⅩⅩⅩⅠ ~「最強」見参!!~
「ひより! ひよりぃ!」
駆け寄ろうとする真保を、地紋は手で制す。
「おっと、それ以上近づくな! カバンごと資料をこっちによこせ」
「……ひよりと同時に交換だ!」
「……ふん、いいだろう」
地紋がひよりを連れ、真保がカバンを持って対峙する。地紋が日和を突き飛ばすと同時、真保はカバンを放り投げて、娘を抱きしめた。
「ひより!」
「パパ!」
抱き合う親子の傍らで、地紋がカバンを取り上げる。中を見て、うんうんと頷いた。お目当てのものがちゃんとあったのだ。
「……いやあ、良かった良かった。これでまだまだ、俺たちはやっていける」
「約束だ! 俺たちは、帰らせてもらう」
「そういう訳にもいかないんですよ。……おい!」
地紋の合図で、真保達をやくざが取り囲む。真保は娘を庇うように身構えた。
「米浦さんには困ったもんだ。散々今まで仲良くしてきたのに、「もう手を切りたい」だなんて。そんなの、こっちとしては困るんですよねえ」
「米浦が……?」
「だから、彼にもきっちりわかってもらいますよ。今更堅気に戻ろうなんて、バカなことを考えるなって。……誰か会社の重役が死ねば、あのジジイもビビるでしょ?」
「……貴様ら……!」
「悪く思わんでください。オタクらの会社に関連して言えば……食物連鎖ってやつです」
地紋がその言葉と同時に合図をすると、やくざどもが一斉に真保に襲い掛かった。
「ぐあああああああああっ!」
「ぱ、パパっ!」
娘を庇い、一方的に真保は叩きのめされる。身体を丸めながら、彼は耐えるしかなかった。
「ごめんなさいね。アンタ、空手の有段者って言うじゃないですか。そんなのとまともに戦うほど、こっちは勇敢じゃないんですよ」
殴られ蹴られる真保に、地紋は笑いながら言う。もっとも、そんな事聞く余裕は、真保にはないのだが。
「ぐうううううううっ!」
「……くそ、頑丈だな。おい!」
やくざの一人が、鉄パイプを持ってきた。そんなもので殴打されれば、いくら真保が格闘技経験者でも、無事では済まない。
「パパ! 危ない!」
娘の言葉に、真保も観念し、目を閉じた。
――――――その時だった。
「うぎゃあああああああああああああああああああああっ!!」
突如、倉庫の中に汚い悲鳴が響いた。その声は、やくざたちは聞き覚えがある。倉庫の見張りに立たせていた若い衆の声だ。
さらに。ゴキッ! バキッ! ミシィ! という、骨が軋み、砕ける音が、大音量で響く。あまりの音の大きさに、暴行を加えていたやくざたちも動きを止めた。
そして、地紋めがけて、何かが放り投げられる。とっさに躱した地紋が見たのは、手足の向きが逆になっており、なおかつ歪に曲がっている、舎弟の姿だった。
「……誰だ! こんなことしやがったのは!」
倉庫の入り口から、1人の人影が現れる。とげとげした頭のシルエットの、中肉中背の男。やがて、睨むような目つきの、赤い髪と目の少年であることがわかる。
「……君は……!」
「よう。また会ったな、シャチョー」
少年の名は、紅羽蓮。
やくざよりもはるかに恐ろしい、「最強」だ。
******
「……お前は……!? どうしてここがわかった!」
「お仲間に聞いたんだよ。わかり切ったこと聞くんじゃねえ」
「……組にいた、他の奴らはどうした!」
「全員潰した。悪いな、アンタの帰るとこ、なくしちまってよ」
「潰した、だと……!?」
やくざの地紋には、にわかに信じられない。組に残してきた連中には、全員に怪人化のアンプルを渡してある。それを使えば、並の人間なんかに負けることはないはずなのに……! まさか……!
「……お前も、
「ったく、どいつもこいつも……別にいいだろう! 強かろうが、人間でもよぉ」
「嘘をつけ! 怪人でもない奴が、怪人に勝てるわけないだろうが!」
「……あー、なるほど。そういう事か」
蓮は納得がいってしまった。この地紋というやくざ、なんであんな危険なクスリなんてものを使ってまで組の面々を怪人化させたのか。
「――――――アンタら、ビビってんだ」
「……何?」
「あーだこーだ言っときながらよぉ、結局はあんたら、怪人が怖くてたまんねえから、怪人になっただけじゃねーか。これがビビりじゃなかったら何だってんだよ」
蓮は地紋たちに対し、身構える。
「だから、もっとビビることになるぞ、アンタら。怪人も勝てない「人間」の相手しなくちゃならねえんだから」
「……ふざけやがって! おい!」
地紋の一声で、やくざたちは一斉に身体にアンプルを差し込んだ。多種多様だが、その姿はなんだか――――――。
「……海産物が多めだな?」
ウニ、タコ、エビ、魚、ウツボ……。そんな見た目の怪人たちがずらり。何だかちょっと、磯臭く感じなくもない。
だが、まあ、関係のないことだ。ここは海の中ではなく、陸の上である。なら何の問題もない。
蓮は手首をプラプラさせながら、怪人もどきどもをぎろりとにらんだ。
「……全員まとめて、刺身にしてやるよ」
「「「「……うらああああああああああっっっ!!」」」」
叫び声と同時、怪人もどきたちが蓮めがけて襲い掛かってきた。
ウニのとげとげを持った怪人の頭突きを、素早くしゃがんで躱す。足にとげがないので、そのまま足払い。転んだウニ怪人のケツを踏んづけると、彼の股の骨が砕けた。
「ああああああああああああ!」
どこから声出してんだかわからないウニ怪人の足を掴み、そのまま振り回す。頭がウニのとげとげなので、他の怪人もどきも近づけない。
まるでバットの様に、ウニ怪人を魚怪人に叩きつけた。バッティングした魚怪人とウニ怪人の頭からは、鮮血がほとばしる。
「「ぎゃああああああああああああっ!」」
頭が魚怪人に刺さったままのウニ怪人を放すと、蓮の身体にタコ怪人の触手が絡みついてきた。蓮は触手をものともせずに駆け出すと、タコ怪人の方が逆に引っ張られてこける。タコ怪人1人程度の重さと力で、蓮が止まるはずがない。
そのままウツボ怪人へと近づくと、ボディに強烈な一発。内臓の一部が弾ける感覚が、蓮の拳伝いにわかる。白目を剥いて気を失ったウツボ怪人のキバを、そのまま引きずったタコ怪人の頭に叩きつけた。
「うぐあああああああああ!」
痛みに悶え、拘束が緩んだところで、タコ怪人の頭を蹴り上げる。タコ怪人の触手は剥がれ、そのまま遠い所へ落っこちた。もちろん、気を失っている。
首の骨をゴキゴキと鳴らしながら、蓮は他の怪人たちも睨む。
「こ、コイツ……!」
「ば、バケモノだ……!」
ほかの怪人たちも、囲みながらも距離を取り始める。気づけば、真保達に気を配る余裕など、完全になくなっていた。
「……な、なんて強さだ……」
美味真保は、蓮の強さにただただ驚愕していた。一応武道をやっている身として、彼の強さは別次元のものだということはわかる。
「……社長さん!」
「っ!?」
後ろから声がしたので振り返ると、人差し指を立てている少女がいた。その傍らには、銃を持った女と……ロボットのような男? である。
「今のうちに、こちらへ!」
「あ、ああ。だが、彼は……」
「大丈夫です!」
安心させるつもりなのか、それとも心の底からそう思っているのか。少女は、笑顔を見せて、今度は親指を立てた。
「――――――うちの蓮さんは、なんたって「最強」ですから!!」
少女の口から出た言葉には、まったくもって嘘偽りはなかった。
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