2-ⅩⅦ ~激戦! 紅羽蓮VS多々良葉金~

 夜、葉金がゴルフ場に行くと、そこに詩織たちは立っていた。


「葉金兄……」

「よく生きていたな」


 葉金が声をかけるが、3人の視線は厳しいものだった。彼の所業を考えれば、当然である。


「ライングループがあるとはな、気づかなかったよ」

「葉金兄、ほとんどスマホ使わないもんね。いじってないんじゃないかと思ってラインしたら返信来たから、びっくりしたよ」


 詩織たちは、それぞれ蟲忍ブレスを構えた。


「「「蟲忍……変化!」」」


 そうして、3人は蟲忍へと変身する。


 葉金もそれを見て、嬉しそうにブレスを構える。


「蟲忍変化」


 炎を纏い、そこからムカデニンジャーが姿を現した。


 それぞれが、じりじりと間合いを詰める。


 顔と顔がくっつきそうな距離まで、4人はとうとう近づいた。


「……手負いで、俺と闘う気か?」

「……まさか。万全でも勝てないのに、手負いで葉金兄に勝てるわけないでしょ?」


 詩織が首を傾げる。葉金は楽しそうに問うた。


「なら、どうする?」

「私達じゃ勝てないなら、勝てそうな人に頼むわ」


 そう、詩織が言い放った瞬間。


 葉金の側頭部に、蹴りが刺しこまれた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 かつてないほどすさまじい衝撃に、葉金は吹き飛ばされる。咄嗟に防御はしたものの、かなりの衝撃に装甲内の生身が揺れる。


 後方50メートルは吹き飛ばされたのち、葉金はゆらりと立ち上がった。


「……貴様は……!」


 そこにいるのは、赤い服を着た、ツンツンの赤い髪。鋭い目つきに、赤い眼光。そして、ポケットに手を突っ込んで立っている男だ。


「私の、お義兄さんよ!」

「違うわ」


 ドヤ顔(マスクで見えないがそうでであろう)の詩織の頭を、男がひっぱたく。


「……ただの、こいつらの友達の兄貴だよ」


 葉金は、くらくらする頭を揺らし、意識と平衡感覚をはっきり取り戻す。


「友達の兄が、何の用だ?」

「頼まれてよ。助太刀に来た」

「助太刀、か」


 先ほどガードした爪を見ると、粉々に砕けている。しかも、あまりのダメージなのか再生できないでいた。


「とんでもない友達の兄もいたものだ」

「世の中何があるかわかんねえよな。俺も弟のダチがこんなヤベ―奴だとは思わなかったよ」


「……いい友達を持ったらしいな」


 そう言い、蓮と葉金は互いに歩いて近づく。

 距離が30メートルほどのところで、葉金の装甲から爪が音速で飛び出した。

 音速の爪は蓮へとまっすぐに向かうが、突き立つ頃には蓮の姿はそこにはない。音速以上のスピードで葉金へと突き進む。


 だが、その突進は途中で止まり、蓮は後ろに下がった。その瞬間、目の前の地面から大量の爪が突きあがる。葉金が地中から爪を通していたのだ。


 方向転換し、蓮は一気に距離を詰めた。葉金は爪でかく乱しつつ、蓮との距離を取る。


「速い……!」


 明日香たちは、完全に二人の動きを捉えられずにいた。断片的に見える一瞬を何とか追うので精一杯である。

 何しろ音速以上の速さで動き回っているのだ。それがどんどん加速するとなれば、目で追うのもどんどん難しくなる。


「……ちっ、めんどくせえ!」


 近づこうにも、爪があっちゃこっちゃから伸びてくる。仮に掴んで引きちぎろうとしても、元々が霊体であるというためか、掴んだ端から消えてなくなってしまう。それで、すっかり元通りと言うわけだ。面倒この上ない。


 一方で葉金も、このまま爪を使って遠距離戦を取るだけではじり貧であることをわかっていた。

 百脚具足は一本一本に神通力を分けているため、一本の爪あたりの攻撃力はどうしても落ちてしまうのだ。そして、それでは足止めにもならない。複数の爪の、位置と数のコンビネーションで何とか距離を保っているが、その気になればダメージなど気にせず突っ込んでくるだろう。そしてインファイトになれば、苦戦するのは必至だ。先ほどの蹴りを食らったのは失敗だった。身体が無意識にダメージを警戒している。

 だから、打開策をどうにかせんと、時間を稼ぐしかないのだ。


 そして、この駆け引きは、超スピードで行われている。肉眼でとらえることができる人物はそうそういないだろう。


(このままでは、埒が明かんな)


 葉金が、爪の先に神通力を込めた。爪の切っ先に火球ができる。


「あ、あれを撃つ気だわ……!?」


 穂乃花が青ざめた。自分達を焼き尽くした、あの炎の雨。あれをまたやろうというのか。


 だが、そんなことをしようとするのは、愚の骨頂である。


 爪が上を向く。つまり、蓮を遮る爪がないという事。

 そして、その隙を見逃す紅羽蓮ではない。


 一気に地面を踏み込むと、まさに縮地と言える速度で葉金の懐へと飛び込む。


 拳を振りかぶった瞬間、気づいた。


(……あ、これ罠か)


 葉金の胸の中心に、巨大な火の玉ができていた。先ほどのつま先の炎を一点に集めたものである。最初から蓮が突っ込んでくることを見越し、胸元へと集中させていたのだ。


 だが、それがどうしたというのか。


 拳は一度振り上げた。そうなれば、もう振り下ろすのみだ。


 蓮は構わず、炎めがけて拳を振り下ろした。


 閃光とともに、巨大な熱波がゴルフ場を包み込む。詩織たちも熱風にあおられ、立っているのがやっとであった。


「お、お義兄さんは……!?」


 詩織が炎の咆哮を見ると、そこには紅羽蓮が立っていた。

 頬を撫でながら、唾を吐いている。


 一方、羽金はと言うと、彼も両足で立っていた。

 だが、その位置は先ほどの位置よりもだいぶ下がっており、電車道ができている。


 そして、胸の装甲に亀裂が入っていた。


「……がはっ……!」


 マスクの中で、葉金は吐血した。マスクの口部分だけを消し、口にたまった血を吐きだす。


 炎に構わず、拳を突っ込んでくるとはさすがに予想外だった。咄嗟に爪を集めて防御したものの、ダメージを緩和しきれず。

おそらく今ので、胸周りのアバラが、ヒビか、折れたか。


 それでも顔面にこぶしを叩き込んだが、逆にこちらの手を痛める始末である。より本気で打ち込んでいたら拳が砕けていただろう。


(……なんて男だ)


 任務に励んでいた時も、ここまでの敵と戦ったことはなかった。世界は広いものである。


 中途半端な攻撃は逆効果だろう。葉金は覚悟を決めた。


 体中の爪を、両腕へと集中させる。さらに、蟲霊を龍へと変え、それを己の四肢に集める。


「蟲忍変化―――――百脚九頭竜ひゃくあしくずりゅう


 それは、多々良葉金ができる限り、最大の攻撃力を持つ戦闘形態である。

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