2-ⅩⅧ ~決着・紅羽蓮VS多々良葉金~
「……蟲忍流筆頭、ムカデニンジャー。多々良葉金、参る」
言葉とともに、葉金の姿が消えた。同時に、蓮の顔面に炎を纏った爪がぶち当たる。
―――――かと思えば、蓮は寸前で躱していた。上体を反らしたのだ。
正拳の衝撃波が、夜空を突き抜けて行く。
(……炎のブーストで加速してんのか)
蓮が気付くと同時、もう片方の爪が加速して伸びてくる。蓮はそれを肘で受けた。肘の痺れるような感覚に、顔をしかめる。
だが、葉金の攻撃はそれで終わらない。足の炎が強まり、バク転の要領で蹴りを見舞う。ただ、間合いが近すぎて思うような威力を発揮できない。結局、互いに空中で一回転して着地した。
(……やはり、一撃後の隙が大きいのがネックだな)
葉金はこの形態の弱点を理解している。加速による一撃の攻撃力は高いが、一挙手一投足が伸び切り、次のモーションへの移行が遅れてしまうのだ。
とはいえ、蓮の防御を突き破るには、この形態での攻撃が必須だろう。そう判断しての百脚九頭竜である。
葉金は拳を構えた。蓮はその構えから、拳が飛んでくるのかと身構える。
だが、葉金はその姿勢のまま、足を加速させた。そのまま、蓮の顔面を彼の膝が捉える。
予想外の動きに面食らった蓮の頭上で、拳を構えた葉金がいた。
渾身のブーストを加えた巨大な爪が、蓮めがけて振り下ろされる。
ゴルフ場の地面の方が耐え切れず、大きな亀裂を上げて吹き飛んだ。
「きゃあああああああああああああっ!」
遠くにいたはず詩織たちが吹き飛ばされるほどの衝撃波が、地上全体を揺らす。土煙が立ち込め、どうなっているのかは、本人たちにしかわからない。
爪を突き立てた葉金は、驚愕の汗を流さずにはいられなかった。
渾身の威力を込めた爪は、掴まれていたのだ。
しかも、そのまま威力を完全に殺されている。
蓮は、顔面直前で、左手で爪の片方を掴んでいた。
「な……何……!?」
一瞬反応が遅れたが、すかさずもう片方の、左の爪を振り下ろそうとする。
その一瞬が命取りだった。
蓮の蹴りが、葉金の左肩を貫く。完全に後ろに伸び切った爪は、後ろに向かってブーストをかけてしまう。
一気に身体から離れようとする衝撃に耐えきれず、左肩が脱臼した。
「ぐっ……!」
激痛に苦悶の表情を浮かべる葉金だったが、声は極力漏らさない。だが、痛みによる集中力の散漫は、蓮を相手には致命的であった。
蓮は右の爪を払うと、両手がフリーになった。そのまま、上体を起こし、葉金の頭をがっちりと掴む。
「な……っ!」
「捕まえた」
そのまま、勢いよく額を頭に叩きつけた。
マスクに亀裂が入り、砕け散る。葉金の額が裂け、鮮血が噴き出る。
「……が……っ!」
今の頭突きは、間違いなく脳を揺らしている。口から泡が噴き出ているし、白目も剥いている。気絶するのは間違いないだろう。
だが、葉金は倒れなかった。膝を突き、息も荒かったが、気を失いはしていない。
そして、ぎろりと蓮を睨む。
「……まだやるか?」
「……忍の戦いに、勝ち負けはない」
葉金は、おぼつかない足取りで爪を構えた。左の肩が外れて、力が入らない。右の爪のみを、かろうじて持ち上げる。
「あるのは、生き死にのみだ……!」
「……あっそう」
葉金の腹に、蓮の蹴りが入った。葉金は空気を吐きだし、地面を転がった。
なおも立ち上がろうとする葉金に、蓮はまたがる。
そして、拳を振り上げる。その目は、顔面を狙っていた。
もし、まともに受ければ、顔が砕けて死ぬだろう。
(……ここまでか)
最後に、ここまで強い奴と闘えたのだ。忍として、武人としては誉であろう。
葉金は、満足そうに笑って目を閉じた。
その瞬間、蓮の拳が降り下ろされる。
「待って!」
甲高い叫びが上がるとともに、蓮の拳は止まった。その位置は、ちょうど葉金の目先三寸である。
葉金はゆっくりと目を開けた。気づけば、蓮が完全にこちらから注意を外している。とはいえ、逃げる力も残っていないのだが。
駆け寄ってきたのは、詩織たちだった。既に変身は解いており、元の人間の姿になっている。
首を動かすのも辛い葉金は、目だけを動かして彼女たちを見た。
「……何の、つもりだ」
武人の最期に水を差すとは、どういうことなのか。
「……そう言う性格だもんね、葉金兄は。こう言うときは、潔く死のうとするって、わかってたよ」
穂乃花たちは、葉金を取り囲むと、神通力を鎧に流し込む。
鎧を作っていた蟲霊はするすると離れ、葉金も元の人間の姿へと戻った。
「……これは……」
「もう、蟲忍衆はなくなっちゃったんでしょ? だったら、私たちが蟲忍流の流儀に従う道理はないもんね」
「それに、仮にあっても嘘の任務出すようなところ、いられないしね」
「だから、私たちはもう抜け忍! 蟲忍衆なんて関係ないの」
そうして、3人そろって、倒れた葉金の顔に平手打ちを入れる。
「……だから、勝手に死ぬなんて絶対に許さないし、殺してもやらない!」
「一生苦しんで、罪を償ってちょうだい」
「もう、葉金兄とは絶交よ!」
そうして、3人そろって、「あっかんべー」を決めて、そのまま颯爽と立ち去ってしまった。
残ったのは、立ち上がれない葉金と、そんな彼にのしかかっている蓮だけである。
「……言っとくけど、俺は単なる喧嘩してただけだからな。殺すとかそう言うのは勘弁してくれや」
「……やれやれ……」
葉金の目から、涙が流れた。
「それじゃあ、負けを認めるしかないじゃないか」
そのまま目を伏せ、声を押し殺して泣き始めた。
蓮はその上に座ったまま、空を見上げる。
星が、町とは思えないほどきれいに輝いていた。
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