11-Ⅺ ~スカウトの旅、大成功!!!~

 それからも、蓮たちの日本一周旅は、滞りなく続いた。


 近畿から中国地方、九州地方へと渡った面々は、次々と元ニューヒロイン・プロジェクトのメンバーと合流。どのメンバーとも真剣に話し合い、再結集の約束を交わして旅を続けていた。


 沖縄に行ったときに、蓮の知人がチャンネルを見てくれていたからか、なんと朝ドラ女優である夕月ゆづきとのコラボも実現。DCSチャンネルの話題性はさらに上がっていった。


 そして、九州に戻り、中国~四国、太平洋側の中部地方を経由して……。


「――――――帰ってきました、徒歩市とあるし――――――っ!!!」


 苦節、2ヵ月弱。日本一周の旅は、終わりを告げたのであった。


 結果として、チャンネル登録者数は250万人。さらに、動画の総再生回数は3000万回を超えていた。大成功と言っていいだろう。


 疲れ切った3人娘は速攻で家に帰して、蓮も帰ろうとしたところ、安里に呼び出された。


「俺も帰りてえんだけど……麻子も帰ったし」

「何言ってんです。話したい事、あるんですけど?」


 肩を組む安里は、黒モヤシのくせしてなかなかに力がこもっていた。


(……ああ、これは、アレだな)


 柄にもなく、若干怒っている。恐らくは、沖縄でやった女優とのコラボが原因だろう。彼女は安里のお気に入り――――――というか、親戚のおばさんだ。


「……言っとくけど、コラボしたいって言ったの、向こうからだからな?」

「知ってますよ。こっちに連絡来たもの」


 動画内でのコラボとなれば、運営管理をしている安里に連絡が行くというのも、当然のことであった。


「え、修一くん、いないの……?」


 事情を話した時には露骨にがっかりされたが、「今度また顔出しますから……」という約束までこぎつけられてしまい、コラボが実現したのだ。


 とにかく、不機嫌なのはそのせいだろう。さすがにまた、社員旅行で行く、なんて事にはならないと思うが。


 そうして安里に引っ張られ、連れてこられたのは懐かしき、安里探偵事務所だった。


「お帰りなさい、蓮さん!」


 事務所のドアを開けると、クラッカーの音とともに、愛がエプロン姿で待っていた。


「これって……」

「『長旅ご苦労様でした』会ですよ。愛さんがどうしても、この日じゃないと都合着かないってことで」


 机の上にはたくさんの料理が置かれており、それらはいずれも蓮の好物ばかり。ずっと蓮たちの食事の面倒を見ている愛だからこそできる芸当である。


「迷惑だったかな……?」

「え、いや、その……!」


 愛の上目遣いに、蓮の胸に痛みが走った。こんな顔されて料理まで準備されて、「疲れたから帰りたい」とか、言えるわけないじゃないか。


「……い、いただきます」


 そう言って座った途端、愛の顔がパッと明るくなる。その様子を見て、安里と朱部は顔を見合わせた。


「……じゃ、ちょっとの間、ごゆっくり」

「あん? どこ行くんだよお前ら」

「ちょっとお仕事です。蓮さんはご飯でも食べててくださいな」


 安里と朱部は、そう言って出て行ってしまった。事務所には、蓮と愛の二人きり。いや、正確に言えばボーグマンがいるのだが、こいつを人数にカウントするのはいくら何でもない。


 そして、2人になった途端、急に互いは黙りこくってしまった。


********


「――――――思春期ですか!」

「思春期でしょ」


 別室に移った安里と朱部、あと夢依は、ボーグマンの目に搭載されたカメラから2人の様子をバッチリ監視していた。彼らがいたのは、夢依の部屋である。姪っ子の部屋を占領し、事務所の様子をのぞき見していたのだった。


 理由は単純で、蓮に対する嫌がらせ。沖縄の件、安里はバッチリ怒っていた。その意趣返しとして、恥ずかしいところでも撮ってやろうと思ったのが1つ。


 そして2つ目は、愛がこの期間中、ず――――――っと寂しそうにしていたからだ。あんなに露骨に寂しがられると、さすがの安里も気を利かせざるを得ない。そもそも、そのせいで愛の淹れるコーヒーがゲロマズで、飲めたものじゃなかった。いい加減回復してくれないと、こちらの健康にも関わる。


「……せっかくなので、ちょっと、雰囲気盛り上げてあげましょうか」


 安里はにやりと笑うと、PCをささっと操作し、エンターキーを押した。


********


 会うのが2ヵ月ぶりなので、何を話したものか。決めあぐねつつ、愛の料理をかじっていると、いきなりBGMが鳴り出した。

 心臓がどきりと跳ね上がったが、どうやらボーグマンから流れてきたらしい。そういやこいつ、オーディオコンポも入っているとか言ってたな。安里が入れたのか……?


 というか、曲も曲だ。なんというか、メロドラマのいいシーンで流れそうなBGMである。こんなもん、2人っきりの時に流すなよ!


(何考えてんだ、アイツら!)


 安里がどこかで見ているのは間違いないだろう。乗り込んでシバき倒してやろうかとも思ったが、愛を一人にするのも偲びなかった。


「……ねえ、蓮さん……」

「あん?」


 ぽつりと、愛が呟いた。蓮が振り向くと同時、彼はドキリとする。

 愛が、蓮の服の裾をつまんでいたのだ。


「……旅してて、どうだった?」

「どうだったって……ロケして、食いもん食って……それだけだって」

「……美味しかった?」

「え、そりゃまあ……」


「――――――?」


「は?」

「私が作った蓮さんの好物よりも、美味しかったの?」


 愛の言っていることが、蓮には理解できない。一方、愛の竹刀の中にいる霧崎夜道は、彼女の様子の変化に、即座に気が付いた。


(――――――愛の奴、場酔いしている……!?)


 寂しさのストレス、若干色っぽい曲、そして2人きりという状況。


 ――――――立花愛は、完全に酔っぱらっていた。

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